その者、勇者パーティにて居場所なし
「何をしている! 早く壁を張れ!!!」
「わ、分かってる。でも、今は後衛の皆を守らないと……」
「チッ! 役立たずが!」
今日も俺は、勇者に罵倒を受けながらダンジョンを巡る。
「くすくす。あんたって、ホントノロマよね」
守っているはずの魔法使いや、
「まあ、タンクなんてそれしかすることないんだし仕方ないっしょ」
回復師も、背後から俺を嘲笑っている様子が窺えた。
俺は、このパーティーに居場所がない。
後ろではなおも女二人の騒がしい喋り声が響いているが、どうやら前線では変化が起きたようだ。
「……モンスター達のターゲットが、全て向こうに向いたみたいだから、俺は行くよ」
「え? 何あんたまだいたのー?」
ゲラゲラと笑う魔法使いの言葉を受け、俺は黙って最前線へと足を伸ばす。
「ようやく来たのかよデクの棒! 早く注意を逸らせ!」
「……分かってる」
勇者の指示を受け、モンスター達の気を引くスキル【挑発】を発動する。
「うっし、これで思う存分切りまくれるな!」
モンスター達の注意は俺へと移り、その隙に勇者が魔物達を斬り伏せていく。
大型犬ほどの大きさを持つ蟻のような魔物達。それを一体、二体と調子良く斬り伏せていくが、蟻と言うだけあって数が多い。
「減らねぇな……」
何十体倒したのか、それでも尚衰えない魔物の勢いに、勇者は煮え切らないとばかりに後方へと檄を飛ばした。
「おい! 広範囲魔法だ! まとめて吹き飛ばしてくれ!」
背後から「は〜い」と気の抜けた魔法使いの声が届く。
その指示を出した瞬間、勇者はすでに魔物の群れから距離を取っており、その場に居るのは魔物と【挑発】を使っていて身動きの取れない俺が一人。
「ま、待て! 俺がーー」
すかさず【挑発】を解除。背後を振り返り、やめさせようとするが。
「火炎嵐!」
声は届かず、魔法は発動され周囲に灼熱の渦が発生し、魔物も俺も区別なく飲み込んで行く。
ギィアアアアア!!!
何百という魔物の絶叫が、渦の中で木霊する。
その中にいて、俺は盾を両手でしっかりと構え、ただひたすらに耐えていた。
「……【不動】、【鉄壁】、【堅城】……」
全て、身動きを取れなくしたり動作を遅くする代わりに、自身の防御力を大きく上げるスキルだ。
炎の魔法が持つ特性、燃焼により、ジワジワと体力が削られるが、魔法自体のダメージは無効に出来ていた。
そうやって耐えていると、ようやく、魔法が消え視界が広がる。
「おー、やっぱお前の魔法すげーな」
緊張感もない勇者の声が耳に入り、「でしょー?」と。魔法使いも勇者の側にいるようだ。
「ちょっ!私も回復とか頑張ったんだけど!?」
回復師の声も聞こえる。三人が、わいのわいのと騒がしく、近づいてくる気配を感じてーー。
「……なんだ、お前生きてたのか」
未だスキルの効果が残る俺に、勇者は侮蔑や落胆、様々なものが入り混じった声を投げかけた。
「ウッソ!? 私の最大火力の魔法なんだけど! うわー、最悪」
その発言から察するに、最初から俺を巻き込んで殺すつもりだったらしい。
どう言うことだ? 声を出さず勇者を見据える。
「……なんだその目は? 俺に文句でもあるのか?」
当たり前だろう。俺は殺されかけたんだぞ。
「ふん。スキルの作用で喋れないの、かっ」
そう言い、俺の脇腹へと蹴りを一つ入れる。痛みはない。
「おーおー、スキルを使ってるとは言え、俺の蹴りをノーダメか」
足を下ろし、今日初めて感心を示したように語る。
「ま、それなら合格だな」
ニヤニヤと笑い、背を向けて歩き出していった。
魔法使いが「どう言うことー?」と声をかけている。
「俺たちは、もうすぐ魔王討伐に乗り出すってことは知ってるな?」
……知らない。今初めて聞いた。
回復師が、それに続くように言う。
「うん。だから、足手まといはいらないって言ってたじゃん」
……そう言うことか。
今回のクエスト、はなから俺を魔王戦の前に殺す事が目的だったようだ。
「ああ。だけどよ、お前の魔法にも、俺の攻撃にも耐えたんだ。ここで処分するよりは魔王と戦う時にも駒として働かせた方が便利じゃねぇか」
得意げに語る勇者。そして女二人は「確かにそうだね」「すごーい。頭良いー!」とすり寄っている。
勇者は二人の肩に手を回し、愉快そうに笑いながら、歩いていった。
誰もいなくなったダンジョン。その中で一人、俺は立ち尽くしている。
スキルの効果も既に消えており、動けないわけではない。……ただ、動く気になれなかった。
「くそ……」
勇者にバカにされ、それでも尚、俺はあいつらの言うことを聞くしかない。
俺は召喚されてこの世界へとやってきた。あいつらも全員、同様に。
帰る条件はただ一つ、魔王を討伐すること。
この世界に召喚された人間は【職業】を召喚時に得る事ができる。
【勇者】【魔法使い】【回復師】。今この場には居ないが、【武闘家】と【弓術士】も居た。
そして俺が賜ったのは、【タンク】。いわゆる壁役である。
俺は、元の世界に戻りたい。だが、タンク一人では魔王どころか魔物一匹まともに狩れない。どの道俺は、あいつらについて行き、奴らを守る事しかできない。
あいつらが死んでしまっては俺が帰れなくなる。だから、どれだけ酷い目に遭おうと、殺されかけようと、俺は勇者達を守る。
「しかしそうか、魔王討伐……」
そんな長い戦いにも、ようやく、終わりが見えたようだ。
「魔王さえ倒せば、全てが終わる」
この仕打ちも、境遇も、全て。
俺は少しだけ気分を持ち直し、ダンジョンを出ていった。
少しでも面白いと思って頂けましたら、ブクマ・評価を是非お願いします(ぺこり)
励みになります。




