子守唄
思い出から感情が食い荒らされて、手元に残るは無臭の記憶だけ。
何の不自由もない個室に閉じ籠って、口ずさむのはメロディーの消えた歌。
盗み聞きならお断り。
盗み見ならお断り。
大きな音をたてないで。
目映い光を当てないで。
幼子の愛しい眠り顔に、早すぎる悩みが刻まれる。
幼子のか弱い夢見に、早すぎる打算が撃ち込まれる。
まだまだ眠れ、幼い子。
午前と午後の憩いの間、無臭の記憶に汚い手を加えよう。
午前と午後の憩いの時、メロディーの消えた歌にか細い声を重ねよう。
まだまだ起きるな、柔らかい夢。
まだまだ語るな、たわわな勘違い。
いいと言うまで、こっちに来るな。
おいでと言うまで、そっちを出るな。
何の不自然さも無くなったら、できたての子守唄が歌ってあげる。