表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
6/11

英雄、晩年の愚行

テセウスさんご乱心。


長ったらしい名前が多い……

 時は流れ、ある日。

 テセウスは無二の親友ペイリトオスと酒を酌み交わしておりました。


 ペイリトオスはテッサリア地方に住むラピテス族の王で、若い頃に面白半分でテセウスの牛を盗もうとしたのが出会いのきっかけです。なぜか二人は意気投合し、ヘラクレスのアマゾーン遠征、カリュドーンの猪退治、英雄イアソンが金毛羊を求めたアルゴー号の冒険(アルゴナウタイ)など、数々の冒険に二人で仲良く参加しています。


 テセウスは妻パイドラを亡くしましたが、ペイリトオスもまた妻ヒッポダメイアを亡くしており、二人して男やもめです。


 余談ですがペイリトオスの妻は『馬を御する女(ヒッポダメイア)』という勇ましい名前とは裏腹に、自分の結婚式で酔っ払った招待客の馬人(ケンタウロス)達に犯されそうになった、という悲惨な経験の持ち主です。もちろん花婿ペイリトオスやテセウスがすぐ助けてくれましたが、馬を御すどころか馬に御されてます。

 強い酒で箍が外れたとはいえ、式の花嫁をその場で犯そうとする馬人(ケンタウロス)にもびっくりです。野放しにしちゃダメな奴です。


 とにかく、そんな思い出深い妻は既に世を去り、男二人でクダを巻いているのも辛気臭い。

 そこで「いっそ再婚してはどうだろう」という話になりました。

 ここまではまぁ、妥当な流れです。

 ですが、


「せっかくだから、位の高い神……どうせならゼウスの血を引く娘を娶って箔を付けたい。ゼウスの娘達の中でもとびきり血統の良いのを」


 この辺りから雲行きが怪しくなってきました。

 二人とも、地位も名誉もある立派な王様です。今さら嫁の出自に拘る必要など微塵もありません。



 テセウスが言いました。


「じゃあ俺はスパルタの王女ヘレネにしよう」


 都市国家スパルタの王女ヘレネ。種馬大王ゼウスが白鳥に変身してスパルタの王妃レダに近付き孕ませた娘です。

 この時レダは大きな卵を二つ産み、二つの卵からそれぞれ男児の双子カストルとポリュデウケス、女児の双子ヘレネとクリュタイムネストラが産まれました。この内、ヘレネとポリュデウケスが神ゼウスの血を引く半神で、後の二人はスパルタ王の血を引くただの人間でした。


 後にトロイア戦争の原因となる「世界一の美女」として有名なヘレネですが、当時の彼女はまだ幼気な少女でした。 7~12歳くらいだったと言われています。仮に最年長の12歳でも普通にアウト。7歳なら少女どころか幼女です。娶って何年待つつもりなんでしょう。

 ちなみにこの時テセウスは既に50歳前後のオヤジです。

 端的に言ってキモイ。



 ペイリトオスが言いました。


「じゃあ俺は冥界の女王ペルセポネにしよう」


 ペルセポネはゼウスと地母神デメテルの娘。半神じゃなくて完全に神、それも神々の中でも特に位の高いオリュンポス12神が両親です。アテナやアルテミスといった高位の女神(どちらもゼウスの娘)を除けば、血統はゼウスの娘の中では断トツでしょう。しかしペルセポネは既に冥府の支配者である冥王ハデスと結婚しており、ハデスと並び死者を裁く冥界の王妃として畏怖される女神です。



 片や、孫ほど歳の離れた子供。

 片や、既に人妻。しかも超偉い神様の嫁。


 頭に蛆でも湧いたんでしょうか。

 気持ちの悪いオッサン達です。



 嫁取りトークで大いに盛り上がり、ツッコミ不在で話を纏めてしまった二人は、思い立ったが吉日とばかりにさっそく動き始めました。さすが腐っても英雄、決断力と行動力は無駄に優れています。


 二人はまずスパルタへ行き、「お宅のお嬢さんを僕に下さい」……などという確実に断られる申し込みはせず、幼いヘレネをサクッと誘拐しました。かつてはアマゾネスですら拐ったプロ人攫いテセウスですから、非力な少女の誘拐など余裕綽々です。

 これは光源氏が若紫を拐ったのとは訳が違います。二ヶ国の王が共謀して他国の姫を誘拐したのですから外交問題、いや戦争になります。


 テセウスはとりあえず母アイトラにヘレネを預け、アテナイから離れたアピドナイの地にある城へ隠しました。

 そして今度はペイリトオスの嫁確保のため冥界へと向かいました。


 アイトラは都市国家トロイゼンの王女でしたが、アテナイ前王アイゲウスとの間にテセウスを儲けたものの結婚はせず、現アテナイ国母でありながらちょっと寂しい老後を送っていました。そこへ降って湧いたような『女の子のお世話』。


 最初はロリコン馬鹿息子が拐かした被害者という申し訳なさから誠意を持って世話をしていましたが、息子も孫もゴツい脳筋男子ばかりだったアイトラお婆ちゃんにとって、素直で大人しい絶世の美少女ヘレネは控え目に言って天使。可愛くてたまりません。アイトラはすっかりヘレネにメロメロになってしまいました。



 一方その頃。

 どうやって行ったのか知りませんが、テセウスとペイリトオスは意気揚々と冥界まで辿り着いていました。


 さて、今度の相手は美しき冥界の王妃ペルセポネ。ガチの女神様です。極上の美貌を持つ王女という以外はただの少女だったヘレネと比べ、難易度は格段にアップします。


 ゼウスとポセイドンの兄である冥王ハデスは愛妻家で知られており、病的な女好きで隙あらば浮気ばかりしている弟たちと違い、浮気話は数件しかありません。数件あるのにガッカリです。そこは妻一筋を貫いてほしかった。



 その昔、美丈夫なのに口下手で陰キャのハデスは、一目惚れしたペルセポネにどうアプローチしていいか分からずゼウスに相談。

「ふーん、そんなに好きなら拐っちゃえばいいんじゃね?(鼻ホジ)」

 という雑なアドバイスを真に受け、ペルセポネを誘拐しました。ここにも誘拐犯がいましたね。

 その後はすったもんだがあり、ペルセポネの母デメテルをガチギレさせながらも、なんとか最終的にペルセポネを娶る事に成功しました。


 そんな逸話があるほどペルセポネに執着しているハデス。

 最初は泣き暮らしていたペルセポネもハデスの不器用な溺愛にすっかり絆され、今では相思相愛です。


 さあ、冥王ハデスの恋女房、冥界の女王ペルセポネを奪う秘策とは…………?



 テセウスとペイリトオスは悪びれもせず、ハデスのいる玉座の間までやって来ました。

 そしてハデスに向かって、堂々と告げたのです。


「貴方様の妃ペルセポネ様を、私の妻にしたいので、譲っていただけませんか!?」



 まさかの真っ正面から素直にお願い作戦。

 何?こいつら馬鹿なの?死にたいの?

ギリシャ神話に出てくる女性は割りと能動的で気性の激しい人物が多いのですが、ヘレネは「世界一の美貌」以外は自ら何かを主張する事なく、流され気質というか、ヒロイン気質というか。

トロイア戦争でも若いイケメンにぐいぐい押されてなんとなく夫を裏切り、戦後は特にお咎め無しでシレッと夫と元サヤに収まっています。メンタルはきっと最強。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ