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船から降りた英雄

おや?英雄の様子が…………

 アテナイ王となったテセウスは善政を敷き、慈悲深い賢王として人々に慕われました。

 更には武勇にも優れ、都市国家プラタイアと共にアケメネス朝ペルシャの遠征軍を迎え撃った『マラトンの戦い』では、先陣を切って敵に斬り込み勝利へ導いたと伝えられています。


 あれ?意外と良い王様じゃね?

 ポイ捨てとかうっかりとかは若気の至りだったのでしょうか。


 そんな彼に、冒険の誘いが舞い込みます。

 なんと、子供の頃から憧れていた英雄ヘラクレスが、アマゾネスの国アマゾーンに遠征する同士を募っているというのです。

 もちろんテセウスは速攻で参加を表明しました。



 ここで少し脱線して、ヘラクレスについて触れましょう。


 ギリシャ神話における「英雄」とは基本的に神の血を引く偉人の事ですが、中でもヘラクレスはピカイチ、最終的に神々の一柱になる英雄 of 英雄。父は主神ゼウス、母はこれまた英雄ペルセウスの孫娘に当たる、都市国家ミュケナイの王女アルクメネです。

 美しく貞淑なアルクメネは婚約者以外には気を許そうとしませんので、卑怯なゼウスは婚約者に変身してアルクメネに近寄り、まんまと孕ませました。控え目に言ってクズです。


 ゼウスはアルクメネの腹の子をミュケナイの次期王にしようとしましたが、これをゼウスの妻ヘラが邪魔しました。夫が堂々と浮気して浮気相手の子供を贔屓しようとしてるんですから、そりゃ怒るでしょう。

 ヘラは最高位の女神にして、結婚と貞節を司る既婚婦人の守護神でもあります。浮気男の代名詞ともいえるゼウスの妻が結婚の女神とは随分な皮肉です。


 ヘラの差し金で王位を逃した赤子を不憫に思ったのか、ゼウスはその赤子に特別な力を与えました。寝ているヘラにこっそり近づき、飲むと不死になれるヘラの母乳を吸わせたのです。

 寝込みを襲われて突然乳を吸われたヘラは当然、激怒しました。毒蛇を差し向け殺そうとしましたが、赤子に怪力で握り潰されて失敗。ヘラの乳から不死の力を得た赤子は後にヘラの栄光(ヘラクレス)と呼ばれましたが、ヘラの憎しみを一身に受ける事にもなったのです。


 ヘラの迫害を受けながらもすくすく育ち、多くの武人・賢人に師事し、剛力を誇る勇猛な戦士になったヘラクレス。彼は都市国家テーバイの王女メガラを妻として、子供にも恵まれ幸せに暮らしていました。

 しかしそれを許せないヘラが、ヘラクレスの頭に狂気を吹き込みました。この「狂気を吹き込む」はヘラが憎い相手に使う奥の手で、これをされると不定期に発狂し、自分の意思とは関係なく周囲の人間を殺してしまいます。

 不幸にも狂気に侵されたヘラクレスは愛する三人の我が子を惨殺し、妻メガラは嘆きのあまり自殺してしまいました。正気に返った彼は悲嘆し、己の罪を償うべく託宣神アポロンの神殿に赴きました。

 そこで告げられた神託「ミュケナイの王に仕え、10の功績を果たせ」に従い、小心者のミュケナイ王エウリュステウスに命ぜられるままヘラクレスは働きました。10の内2つは諸事情により功績と認められず、2件追加されました。有名な『ヘラクレスの冒険譚』の大半は、この12件のお仕事についてなのです。


 この12件の内一つが、「アマゾネスの女王ヒュッポリテの腰帯を持ってくる」というものでした。

 女のみで構成される戦闘部族アマゾネス。彼女達は皆、弓や剣を巧みに操る勇猛果敢で好戦的な女戦士です。その女王から腰帯を奪うとなれば、戦争をも覚悟しなければなりません。

 そこでヘラクレスは、いざという時のために武に秀でた勇士をたくさん連れていく事にしました。テセウスの他にもヘラクレスの甥で多くの冒険に同行したイオラオス、英雄アキレウスの父であり自身も優れた戦士であるペレウス等、錚々たる面子が揃いました。


 さて、闘志を漲らせてやってきたアマゾーンで、ヘラクレス一行は意外にも歓迎されました。

 女しかいないアマゾネス達は、これぞという屈強な男を見つけては種を貰う事で強い子孫を増やしてきました。そのため筋骨隆々とした逞しい男、それも名のある武人ばかりのこの集団は、アマゾネスからすれば素晴らしい()()が群れでわざわざ来てくれたも同然なわけです。

 女王ヒュッポリテは言いました。

「私たちに子供を授けてくれるのであれば、この腰帯は喜んで差し上げましょう」


 かくして、テセウス含むヘラクレス一行は各々好みの女性と床を共にし、せっせと子作りに励む事になりました。これで相手がメスゴリラなら苦行ですが、幸いアマゾネス達は皆、野性的ながらも引き締まったヘルシーボディが魅力的な美女ばかり。男達はヤリたい放題で幸せ、女達は妊娠できて幸せ。Win-Winの関係ってヤツですね。成人向け漫画みたいな展開ですが、あくまでも神話です。


 しかし、ここでまたしてもヘラクレス絶対殺すウーマン、ヘラが横槍を入れました。

 アマゾネスの一人に変身したヘラが彼女達に嘘を吹き込んだため、誤解から激しい戦闘になってしまいました。

 そして女王ヒュッポリテはヘラクレスに殺され、女王と良好な関係を築いていたヘラクレスは後悔しつつも腰帯を奪ってアマゾーンを後にしたのです。


 この時。

 どさくさに紛れて、テセウスは自慢の剛力にモノをいわせて一人のアマゾネスを拐ってきました。王様が人攫い。何やってんでしょう。

 テセウスは異国から無理やり連れてきたこのアマゾネス―――ヒュッポリテの妹、凛々しくも美しい女戦士アンティオペを妻にしました。

 アンティオペも心中穏やかとは言い難いでしょうが、なんだかんだで最終的に嫁に収まり、男児ヒッポリュトスを産みました。


 それから暫くは穏やかな時間が流れました。

 しかしヒッポリュトスが成長した頃、テセウスはまたしても予想外の行動に出ます。

 仇敵クレタから姫を娶り、正式な王妃にするというのです。


 やってきたのは、かつてテセウスが捨てたアリアドネの妹に当たるパイドラでした。

 ミノタウロスを産んだクレタ王妃パーシパエは多産で、ミノス王との間に8人もの子を儲けました。その内の一人デウカリオンの仲立ちで、この縁談は成立しました。ミノス王もミノタウロスも亡き今、二国間の関係を修繕しようとしたのかもしれません。


 これを聞いたアンティオペは激怒しました。

 力ずくで遠い国から誘拐して問答無用で妻扱いして息子まで産ませておいて、今更「若くてピチピチのお姫様を王妃にするからお前は妾って事でヨロシク!」って。息子ヒッポリュトスは庶子扱いになってしまいます。あんまりです。

 アンティオペだってアマゾーン女王の妹。血筋では決して見劣りしないはずなのに、なんという屈辱。


 テセウスは気付きませんでした。

 故郷を離れ長い年月を経ても尚、アンティオペが誇り高き女戦士(アマゾネス)の魂を忘れてはいないのだという事を……。

古代ギリシャにはいわゆる都市国家(ポリス)と呼ばれる都市単位の国がたくさんあって非常にややこしいです。読み難かったら申し訳ありません。

ヘラクレスは本人全く悪くない所でヘラのヘイトを稼ぎすぎたため波瀾万丈(基本的に不幸)な人生を送りますが、最終的に神の仲間入りをしてヘラと和解します。

ヘラに限らずギリシャ神話の神様は基本的に心がめちゃくちゃ狭いので、ちょっとでも嫌われたらアウトです。

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