コンビニ、寄り道。
とはいえ、どこに行こう。特に外でやるべきことはない。行くべきところもない。夕暮れという空間で二人取り残され、宇宙人に侵略される町を映画みたいに観賞して(干渉はしなくて)、そして、最後はなんとなくフランクフルトでも食べて終わろうか。
「よし、奈々子ちゃん。コンビニに行こう」
とまあ、普通にコンビニに行くことにした。コンビニの数って、田舎だと少なすぎるし、都会だと多すぎるけど、この町はわりとちょうど良い気がする。つまり、この町は田舎でも都会でもない、アンノウンゾーンなのだ。時代遅れでもなく、時代の最先端でもない、一番現代に近い町なのだ。つまり、現代はアンノウンなのだ。うん、わりと間違ってない。
とはいえ、コンビニの場所はわからないことはない。夜が近づけば近づくほど、光る建物はどんどん目立ってくる。その内、世界の中心がコンビニなんじゃないかってくらい目立つし、要するにこの世の心臓はコンビニの春巻きなのだ。それを食べると永遠の命が手に入る気がするので、とりあえずそれを食べることにしよう。
案の定、夜がどんどん近づいてきている。もう多分三角定規で測れるくらいには側まできている。肩を後ろからトントンってされて、振り替えると夜が私の頬に人差し指を突き立てているはずだ。
「私はねー、クッション買ったから、クリームパン食べたいなあ」
奈々子ちゃんがそう呟く。どういう理論だろう。奈々子ちゃんの中ではクッションとクリームパンが似てるのだろうか。
そうこう考えながら歩いていたら、コンビニがあった。私は財布を取り出して、お金を確認して、扉を開けた。
「あのさ春ちゃん。いざコンビニ入ると、他にも買いたい物が沢山あるよねえ。お金は沢山ないけど。コンビニはこの世に沢山あるのに、お金はそんなでもないんだねえ」
「お金持ちの人は、いくらでも買えちゃうのかもね。パンとか。なんならコンビニじゃなくて、専門店で」
「私はね、お金持ちにはなってみたいけど、もしもそうなっても、コンビニに寄りたい気持ちを忘れないよ!春ちゃんと一緒にコンビニに寄りたいんだって、いつも思うよ!」
いつも思うのかあ。それはなかなかな誓いだなあ。私も、コンビニは好きだから、気持ちはわかるけれど。
私達は、春巻きとクリームパンを買って、外に出た。
「春ちゃん!春ちゃん!凄いことが!」
「?どうしたの?」
「あのねえ、さっきまで夕方だったのに、コンビニ入って、色々買って、出てきたら、なんと、夜だ!」
「うん?まあ、そうだけど」
「手品だね!」
手品なのか。種も仕掛けもないけれど、種も仕掛けも手品で消しまったのだろうか。完璧な魔法を作る為の作法とは、そういうものなのかも知れない。
けどね、奈々子ちゃん。
「…けどね、奈々子ちゃん」
「ん?」
私は一拍置いて、こう言った。
「私は、『タイムマシーンみたいだね』って、少し思いました」
すると、奈々子ちゃんは、クリームパンの袋を開けながら。
「春ちゃん、それって、つまり…」
「ふふっ、そういうこと」
まあ、つまり、
「例えが、正確だね…」
例えが、正確だった。
その瞬間、夜に頬をつつかれた。