第3話 『一日一善』
なんのあてもないので、しばらくミーナの家にやっかいになることにした。ミーナんちのリビングには暖炉と花の飾られた木製テーブルと椅子があるくらいでシンプルな部屋、窓からの眺めは大通りが見える。
うっすらと登る朝日、太陽というのか、恒星があるのはたしかだ、小鳥がさえずるさわやかな朝、火の燃える音とまな板を叩く音、枕元には乾いた学生服が畳んでおいてあるので着替えた、ミーナは長い髪の毛を後ろに束ね朝ご飯を作っている、新婚みたいで少し見とれていた俺はボサボサの寝ぐせをつけ起き、うるりんをポケットにしまい込みリビングへ出る、すると挨拶と共に笑い声が聞こえた。
「ユウキおはよう、ふふふ、あはははは!なんなの寝癖、爆発でもあったの?」
ムッとしたがこらえる。
「笑うなよ、今日は職業案内所に連れて行ってくれるんだろ?それと、服ありがとうな」
約束だったことに念を押す、言われたミーナは青い顔をしながら動きが止まった、何か裏があるみたいだ。
「分かったわよ後で家の前の噴水広場で待ってなさい」
俺は広場の噴水前でミーナを待っていた、そこへ身の丈位はあるかと思うくらいの大きな竪琴をミーナが引きずってきた、使えそうにない道具だ、まさか魔法にその竪琴が必要なんじゃないだろうな!常に持ち歩けねー、使わないようにしてるってこれだからかよ、まさかこれを使うのか?疑問を浮かべる。
「黙ってないで手伝ってよ!私の呪文はこれがないと唱えられないの!」
当たりだ、ロクな魔法を使えそうじゃない……冷たい目線を送ってやった。
「私は攻撃魔法なんて知らないからね!」
「そんなもの置いて行けよ、とっとと案内所へ連れていけよ」
んーん、ヨイショ!おらっ!
竪琴は重い、案内所までの道のりは近くはなく、竪琴を引きながらの移動はたいそうだ。
やっとの事で到着した頃には汗だくで、だいぶ日も傾いていた。
到着するとすぐに案内人の金髪ショートのボインのお姉さんから一冊の本を手渡され、チュートリアルだ。
「本にはあなたの名前と現在のレベル、獲得スキルが記載されています、まずは職業欄をタッチして選んでください」
名前も言っていないのに、言われるままにタッチする、するとずらっと職業の種類が浮かび上がってきた、ゴブリン・スライム・勇者・戦士・冒険者・騎士・魔法使い・賢者・大賢者・吟遊詩人etc.ニート・覚醒勇者・覚醒戦士・覚醒冒険者はたまた覚醒ニートまで、まだまだたくさん、100以上の職業がずらっと、しかしゴブリンは職業なのか覚醒ニートまで、魔物も職業て言うことになると、奴らも仕事してるってわけか、みんなを敵に回す魔王にはなりたくないな、なんだよ覚醒ニートって、覚醒職業ってなんだ。
誰に養ってもらえるんだ…ニートの上級職……これがいいな。
「覚醒ニートでお願いします」
「覚醒職業は上級職になり、レベル30からの転職になります」
「じゃあニートでお願いします」
「あんた、引きこもるわけじゃないでしょうね、この世界に養ってくれる人は居ないわよ、そしてパーティーに吟遊詩人は2人もいらないからね、魔法剣士になりなさい」
「パーティー?誰と組むんだ?」
「それは……ユウキ次第、わからないけど」顔を赤くしながら答える。
「職業で私のお株を奪わないでよ」
「誰も吟遊詩人なんかにはならないよ!」
迷いに迷った挙げ句、俺は普通に剣士という職業を選んだ、剣道3級だしな。
「剣士でお願いします」
「わかりました、本に書き込んでおきました」
本を開いてみるとそこには……
ユウキ
剣士 LV1
『獲得スキル』
剣技 LV1
着火 LV1
タイムリープ LV1
『所持品』
ライター
メガネ
『所持金』
0ルイス
「戦って勝利すればレベルアップするパターンだな」
便利で不便な機能……てか本いらねーじゃねーかよ、なんだこの着火と……タイムリープって……
「それは間違いです、無駄に戦いに勝利してもレベルはあがりません、戦いとは報酬の為と魔王討伐のためです、基本レベルアップは一日一善の積み重ねです、そして報酬も貰えますよ」
なんだよそのシステム……
「一日一善じゃなくて一日二善とかでもいいのか~?」
「無理です、一善以外はカウントされませんよ、気を付けてくださいね」
「じゃあ1日2回、人を助けたらダメなんだな!」
「ーーーーーー」
しばらくすると村はずれの方から息を切らせて走ってきた者がいる。
ここは俺の出番か!一日一善の臭いがするぞ……
「ミーナさ~ん、村の外で魔物と戦っている者が!相当のダメージを受けているみたいで回復を!」
「分かったわ~すぐ行くわ」
ミーナは重い竪琴を引き吊り村の外行こうとする。
「そんなスピードじゃ戦っている奴が死んじゃうだろう、かせよ」
俺は竪琴をすっと奪ったが、かなりの重さだ、なんとか息を切らせながら担いで戦場へ向かった、着いてみるとそこには相当なダメージを受けている様に見える戦士、手にはパルチザン、薄手の白の鎧と手袋、ブーツを纏った女戦士らしき者が頭に光る角を持つ子馬のように見える芦色の魔物?と戦っている、と言うより一方的にやられていた。
「武器を持ってるのに、何故抵抗しないんだ?」
「アルースメロー!」
ミーナは唱えた、音色は綺麗だが、いつ聞いてもこの呪文は高級メロンしか思い浮かばんが…その呪文は戦っている女戦士を通り過ぎ魔物と見られる生き物にかかった、ますます生き物の攻撃が過激になる、角で刺された戦士は宙に舞い10メートルほど飛ばされた。
「なにしてんだよ、へたくそが!」
「久々の実戦なんだから大目に見てよ…」
手間取っている間に女戦士は息絶え絶えの状態だ。
もう一度ミーナは竪琴を女戦士へ向けて奏でた、そう封印していたと聞いていた魔法を奏でたのだ。
「アルースメロー」
女戦士の体が薄青く光る、女戦士は勢いよく立ち上がった。
「あっさり魔法使ってるじゃないかよっ!」
俺はつっこむ。
「うおー!」
女戦士がみるみる回復していく…叫び始めた!
胸だけは大きい…しかし全く強そうに見えない
「そこの者ありがとう」
「あとはあのポニーか?ロバを倒すだけだ!」
女戦士がロバの前に仁王立ちする…
「まて、待ってくれ、あれは魔物ではない私が乗っている馬だ」
どう見ても馬には見えぬが…小さい…しかも角がある…
「あの馬は私の相棒だ、暴れて収拾がつかなくなっただけだ」
「おいおい相棒に殺されかけるって、相棒って呼べないじゃないかよ、さっさと別の相棒を見つけろよ」
その間にもその相棒てやらは野次馬の男達を追いかけ回し、角でつついてやがる。
「おい、女戦士あれは馬か?」
「そうだ、馬だ」
「あの角はなんだ?」
「わからん、でも馬に間違いない」
あれは伝説の生き物かもしれんだとしたら…手段はこれしかない
「おい、おーいミーナあの馬を撫でてきてくれ」
「イヤよイヤイヤ~~魔物になんでそんなことを、私が殺されるわよ殺されたらあんたを一生恨んでやる」
「その時は俺が見様見真似で回復呪文かけてやっから」
「回復呪文しらないでしょ?」
「撫でられたら竪琴を運びやすくしてやるからよっ」
行ってこいと言わんばかりに魔物の方へミーナを蹴飛ばした。
ミーナはしぶしぶ「魔物ちゃ~んこっちに来なさ~い、なでなでしてあげるわよ~」すると魔物はミーナに近づき角の光がおさまり、寄り添い大人しくなった。
「やっぱり俺の感が当たったな」
ホッとした顔を浮かべてミーナは
「かわいいわね~お馬ちゃ~ん」
勘が当たったことを俺は思いっきり自慢してやった。
「女戦士さーんとりあえず今日は村でお休みしたらどうだ?」
「ありがとう、そうさせてもらうわ」
馬を繋ぎ、店へ向かう途中
「ね~ユウキどうしてあの時私を馬の所へ行かせたのよ」
これが女戦士との出会いであった。