第2話 『メイドインジャパン』
ミーナはニコリとしながら右手の人差し指を立てて俺に職業を聞いてきた。
質問に困る、学生と答えるのが正解なのだろうか…この身なりは学生にしか見えないであろう、しかしここは無職が正解だろう……
「魔法学校の学生さんなの?」
魔法学校…便利なものがこの世界にはあるのか、制服からそう見えたのであろう。
「旅人でも無いのね、私が街外れを歩いていたら、魔法陣からユウキが落ちてきたのよ、あれは召喚ね」
ミーナは俺のことを全く疑いもしない、最初から親しげな振る舞いが鼻につく、魔物が存在する世界てのが気になるが、RPG風の異世界ってやつか、格好からして俺だけが浮いている
「いるのか?スライムが?ツチノコすら見たことないのに…」
「ツチノコは何か分からないけれど、スライムならいるわよ、数百年前、魔物を封じ込めた神ペテロが悪魔のレヴィアを封じていた重厚な扉をうっかり鍵を閉め忘れて逃げ出したの、そして魔物は全世界に広がりって…あくまでも噂なんだけどね」
なんだこの不確定要素満載な会話は……
今更だけど言葉は通じるんだな、魔法や浮遊とか現実離れした力を使えるようになるのか…俺はとりあえずポケットをまさぐって持ち物を確認してみる、興味本位で手を出したタバコとライター、財布には小銭が数枚、タバコは水を掛けられた事で無駄になってしまった、体に悪いのは分かっていたから、いいきっかけだ、タバコは握りつぶした。
使えそうなものはない、俺にも魔法は覚えられるのか…異世界で一番のご褒美といえばチートスキルだよな、ここはひとまず……
「今の俺の能力を知りたい」
「職業神殿で仕事探してみたら?私はそこで吟遊詩人になったの、ユウキも何か探してみたら?魔法学校もいいわね」
吟遊詩人てなんだよ、この世界で遊び人の次に使えねー仕事の定番じゃないのか……
とりあえず後日、職業神殿に行ってみるか。
ほんのちょっと英雄になれるかもという淡い期待を抱く。
「職業神殿?そんな便利な物があるのか?ハローワークだな、ミーナは魔法を使えるの?」
「ハローワークは知らないけど、魔法は…今は使わないようにしてる…けど」
「どうして?」
「たいした理由はないわ、まっそのうち分かるわよ」
不思議な言い回しをしてきた。
「今日帰るとこはあるの?とりあえずお腹減ったでしょしばらく家に来ない?晩御飯食べていけばいいわ、服も着替えないと風邪ひくわよ」
そういえばご飯を食べてる途中だった……
あたりはすっかり夕焼けで赤く染まっている。
おじーとミーナと俺は馬小屋の隣にある家のリビングに移動した。
「ご飯作るわね」
ミーナは晩御飯の支度をはじめる、薪を使った台所も情緒があっていい。
しばらくすると食卓に呼ばれた。
「ご飯できたわよ、いっぱい食べてね」
「サンキュー、お腹減ってたんだ~」
とてつもなく臭い、臭い、口に入れる、顔が青ざめ、
「おうぇっ」たまったもんじゃない、この世界の料理は俺の口には合わないようだな、毎日外食か、自分で作ることだな、今度正直に言ってやるまずいと…
「これ、おじいちゃんの服だけど、乾くまでこれ着てて」
隣の空いたイスに掛けられた服、それはぼろ布に首と腕部分に穴があいた服とは言えないものだ、こんな服縄文人も着ていないだろう
「本当におじーは毎日これ着てんのか?」
オジーと同じ服を着せられる羽目になる。
可笑しな世界だ、現世に戻れないとなると、どうしてここで生活をするのか考なければならない、帰る方法はあるのか……この世界はどんな世界なんだ、クエストをこなし、RPGの世界であれば、魔王を討伐すれば帰れるのか?
「ユウキはどこから来てどこへ向かってるの?」
キタキタ!この質問、日本人と言えば分かってくれるだろう
俺は人差し指を立てて自信満々に答えた。
「フロムジャパン!そして行くあてはない!」
ミーナは不思議そうにしている、おそらくジャパンを知らないのであろう、地球でジャパンを知らないのは無知蒙昧なやつしかいないはず……
「そのジャパンは遠いの近いの?」
「本当にメイド・イン・ジャパンを知らないのか?俺も含めて世界一だぜ最高なんだぜ、ここからどれくらいあるのか分からないけど」
この世の世界地図があるらしい、ミーナは壁に貼ってある四角い地図を見せてくれた。
「メイドさんは家には居ないけど……これが世界地図よ」
今まで見たこともない地図に6つの大小の大陸が描かれている、俺は驚き、肩を落とした、この地図にはジャパンどころか見たこともない大陸ばかりだ、ますます現世に帰れない事が現実味を帯びてきた…バーチャル?異世界?帰れない事に気づかされた。
ミーナは地図の右下を指差し今の場所を教えてくれた。
「ここがダビデよ、世界は広いわよ、ダビデから一番遠いここが悪魔が逃げ出したところらしいわ、ここは悪魔から一番遠い場所だけど、もう配下の魔物は少しずつこの村の周りにも来てるのよ」
「ミーナ、ひとつ教えてくれ、誰も魔物や悪魔を倒そうとしないのか?」
「魔王には、配下がたくさんいて、その配下にも部下が……もう数え切れない、だから独りはムリよ、沢山の戦士がパーティーやギルドを作っては倒れてるの、庶民の私達が勝てる訳ないのこれもうわさ話を聞いただけだけどね」
「ミーナ、俺に魔法教えてくれ!そして、悪魔を倒しに行こうぜ!ここから抜け出す方法はゲームだとすると敵を倒すのみ」
「魔法は無理ね、まずは職安で魔法使いか、僧侶、吟遊詩人、賢者にならないとね、他にもいろいろあるけれど、まずは職業探しね」
とりあえず職業神殿へ向かおう、そして俺の手にはしっかりフィギュアが握りしめた。