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第10話 『うるりん』

 夕暮れの中、湖畔の街に着いた、湖が近いからか木造の船が数船、漁に出るのか網などがほしてある古びた街並、薄暗いのだが明かりの灯る家は一件もない。


 俺達の足音と馬車、アルペジオの蹄の音だけが聞こえる閑散とした街中を歩く、街人は1人も見当たらない。


 静寂の中、馬車に乗るミーナが口を開いた。

「この街誰もいないわね、なんだか不気味だし」


「そうだな、なんかおかしいよな、まーとりあえず泊まれる宿を探さないとな、俺は野宿でも構わんがお前等を襲う物好きなんていないだろうけどな」


 アルペジオを撫でながら2人の会話を聞いていたミルコが期待して言う。

「私が襲われたら助けてくれるだろ?」


「助けねーよ、相棒のアルペジオに助けてもらえよ」

 素っ気ない俺の塩対応に、大きな期待をしていたミルコはしゅんと黙り込む。


「俺に何を期待してるんだ、俺はこの世界の事なんにも知らないんだぞ、どんな恐ろしい生き物がいるかなんて未知数だし、急に何かが襲ってきてもなんにもできないぞ」


 その会話を黙って聞いていたミーナが俺に向かって言う。

「ユウキに助けてもらおうなんて思ってないわよ」


 その言葉を待っていたというと嘘になるが、この2人の為に何かができるとは思っていない、俺は即答してやった。

「一番怖がりなミーナが言うことか!ぜってー助けてやんないからな」



 その直後雑木林の中から物音がカサッ!俺達の目の前を素早く何かが横切った、ミルコは動じない、俺はびびったが必死で平静を装った、ミーナは尻餅をついてこれでもかというくらい一番驚いている。

「きゃー!いやいやなになんなの?私を独りにしたら承知しないからね」


「助けて欲しくないお前が一番びびってんじゃないかよ、黒い小さな影、街長の家で見た生き物に似ていたようたが……今の奴がこの街を静かにしてしまったのか……?」


 もしかしたら街長の家からずっとつけて来ているのか、黒い何かも気になるがまずは宿だ、かれこれ30分は歩いているだろうか明かりの付いた一軒家を見つけた、俺達は安堵の表情で少しなごやかになった。


「ねーあの明かり訪ねてみましょうよ」


「あー誰かいるのかな、いくぞ」

 明かりの付いた家には人影らしきものが窓の中で動いている、誰か居るに違いないと思った、そして走った。


 外にアルペジオと馬車を止めた、俺はポケットのうるりんを確かめる。


「すいませーん、こんばんは、誰かいますか?」

 ミーナが扉の前で話しかけると、扉はすーっと開いた、明かりは灯っているが薄暗い妖艶な雰囲気が漂う、そこには黒いフードを被った小柄な女が座っている。


「そこの黒い奴、さっきの黒い影か!ダビデの街長の家にもいた!」

 すると黒い服の女性がこちらを見てナメた口調で口をひらいた。


「いらっしゃい、私の事知りたい?金品を置いてさっさと出て行くか、剣を交えて私に勝ったら教えてあげるわ」


 怖がりのミーナは俺の腰にぶら下がっているダインスレイブを差しだそうとする。

「これならどうぞ」


「おい、それは」

 俺は必死で止めた。


「それは私が探していたダインスレイブ、なぜお前達が、じゃあその剣と引き換えに教えてやろう、この腕にある魔の紋章を知っているか」

 女の腕には双頭ドラゴンの紋章がある。


「なんの印か知らないが、あっさり教えるのかい!剣は渡せないな」

 ミーナは知っているようで顔が強張った、ひどく驚いた震えた声で言う。

「ユウキ……知らないのあれは……魔王魔の紋章よ」


「お前魔物なのか……じゃあ用はないな、邪魔したな」

 俺は扉を開けて外に出ようよしたが、ミルコに首根っこを掴まれ止められた……


「止めるなよ、死ぬのはイヤだ!」


「ここで魔王の手下をやっつけなければ、先には進めないぞ」

 本当はちびりそうになっている……人生で一番びびってるがこの場で言えない……そんなに俺にミルコは追い討ちをかける。

「ユウキびびってるのか?足が震えてるぞ、こんな奴にびびっていたら魔王を倒せないだろこのヘタレ野郎!」


 俺はあまり戦いに自信がない、それは言えない……でも最近使わなくなったヘタレ野郎って言葉には敏感に反応してしまった。

「俺はヘタレ野郎じゃない!俺が相手してやるよ、何かあればミーナ回復呪文を頼む」


「仕方ないわね竪琴を取ってくるわ」

 少し震えた様子で馬車へ竪琴を取りに行くミーナ。


「ミルコ何かあればアルペジオと応戦してくれ」


「その言葉待ってたわよ、任せとけ応戦してやる」

 相変わらず一戦一勝のミルコは自信満々だ、その自信はどこからくるのか内心知りたいわ。



 ミーナは竪琴を引っ張り出して帰ってきた、勝てる自信も全くない、俺は怖くてたまらない。


「そこの黒いの、なぜ闘うまでしてこの剣が欲しい?」


「私は魔王魔に魂を売った盗賊の剣士『ムーラン』だ、その剣を探していた、その剣を置いて出て行くなら助けてやろう、ダインスレイブはこの世界に7つある名剣のひとつ」


「街長の家にはこれを探しに来ていたのか」


「そうよ、街長に隠し場所を吐かせようと侵入した時、お前達が現れたから素早く逃げただけよ、さー剣をいただくとするか」


 俺は剣に手を掛けるがあの言葉を思い出す、誰かを殺さなければ鞘に収まらない剣、俺はためらった……それを見たムーランが

「どうした闘うのは怖いか?じゃあ私から行かせてもらおうか」

 ムーランは被っていたフードをサッと外すと鋭い眼孔、持っていた剣を抜き俺に襲いかかった、俺は顔が露わになったムーランに見入ってしまい反応が遅れ反射的に剣を抜くのがやっとだ、剣を抜いてしまったのだ、ムーランの動きは素早く、鍔迫り合いをする、押し負けている、強い……ミルコが応戦しようとしたが遅かった。


「うぐ……」

 ダインスレイブが俺の肩にあたる……


「ミーナ俺が死んだら蘇生させてくれ!」


「わかったわ、でも死なないんだよ」

 食い込んだ剣が俺の肩を切り裂いた……俺の異世界生活もおしまいか……


「俺には歯が立たない……ミルコ、ミーナ頼んだぞ!」


 すかさずミルコがムーランに切りかかるが俺に刺さった剣を抜きミルコと相まみえるムーラン、ミーナは俺の隣で竪琴を鳴らし、意識が遠のく俺を治癒させ始めた。


「んっ……痛い……」

 肩が痛むが少しずつ意識は回復してきた中、もぞもぞっと俺のポケットが動く、まさか‥‥うるりんしか入ってないはず…何かが出てくる。


「まさか!うるりんか!」

 ミーナの蘇生魔法で女剣士『うるま』に命が宿ったのだ。


「お呼びですかユウキ様、私はこの時をずっとお待ちしておりました、ユウキ様が楽しい時、悲しい時いつもお話してくれました、そばに置いて可愛がってくれました、ユウキ様のお姿をずっとみていました、今度は私が助ける番ですユウキ様、このうるまにお任せください」


 そういうとうるりんはその小さな身体でムーランに飛びかかった、素早い。

 ミルコ、うるりんとムーラン2対1の戦いが始まった。



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