プロローグ
────終焉の焔が天地を覆った。
────そう、世界は終焉を迎えたのだ。
私は、涙を流しながら、その光景をただ見詰めていた。
────嗚呼、なんと……なんと!美しい光だろうか!
私は、この小さな部屋……小さな世界から、ただ見詰めていたのだ。
生命が消え去る様を、燃え尽き、叫ぶ様を!
これぞ、神々の黄昏────ラグナレク!
しかし、此処には大口を開け進む怪狼フェンリルも、毒気を吐きながら地上を肉薄するミズガルズ蛇もいない。
よもや、神々も、怪物も居ない。
────ましてや、総てを灼く炎も、火の巨人スルトのものでは無いのだから。
────消えるのはアースガルズでも、ウートガルズでも何でもない。
────消えるのミズガルズ。そう、人の世界だけだ。
────これは神話では無く、事実だ。現実のものなのだ。
「これが、この世界の運命なのだろう……」
(そうだ。我々人間が……この私が終わらせたのだ。)
この身を灼き、魂さえも消し去る美しい光は、私の目の前まで迫っていた。
「嗚呼……なんと、なんとも美しい────」
涙が頬を伝うが、熱ですぐに消えてしまう。
それでも、涙が止まらない。この身を震わす高揚感、己のもつ技術力への誇り、世界の終わりを目にした喜びが、涙となって溢れてくる。
────次の瞬間、男の身体は滅びの光に包まれた。
彼の、涙を流し恍惚とした目は溶け落ち、その肉体は光熱により跡形もなく消えた。
────世界には何一つとして残されていなかった。
人が必死に残そうと足掻いた痕跡さえも、彼のただ一つの世界であった研究室も、────消えた。
まるで、初めから存在していなかったかのように。
愚かにも、人は、人によって終焉を────
神は、壊れた世界を嘆いた。
「────知を得た人間は、やはりと言うべきか、その知で、その知恵で、世界を滅亡させたのか。」
嗚呼……つまらない。
(代わりが必要だ。新しい世界が──新しい玩具が……)
また、作れば良い。
────邪魔者は消せばいい。
────そう、テンプレートでもいい。
────誰でもいい。何でもいい。
────僕の世界さえ守ってくれれば……
────救世主。それに成るべき運命を。
それを背負う者を。
「そう、僕の世界を──」