休息
~ウンコック聖王国 王都の宿屋~
「すまない。一泊したいんだが……」
「へい、らっしゃ……なんだ、うんこじゃねぇか」
俺の顔を見ると案の定宿屋の親父は嫌な顔をした。
「泊まれるか?」
親父は肩をすくめて首を横に振った。
「ダメだ。うんこに貸せる部屋はねぇよ。帰ってくれ」
予想はしていたがなんとかHPを回復させなければ明日のレベル上げも出来ない。
「頼む。面倒はかけない。金ならあるんだ」
体の中に埋め込まれていた銀貨を出そうとするが、宿屋の親父は掌をこちらに向けて遮った。
「……しまってくんな。あのな。ここだけの話、俺自身うんこに対して偏見がある訳じゃねぇんだ。
だが、ここの王家は大のうんこ嫌い。城には専属のメイドがたくさんいて、城ん中にうんこが落ちていただけで即座に排除されるって話だ。
……警告も交渉も一切なし。やつらには容赦ってもんがねぇ」
「…………」
事情はわかる。彼も商売人だ。お上に睨まれては家族を養っていけない。
「だから、な? わかるだろう。お前さんをベッドに寝かせて食堂でメシ食わせてみろ。すぐに酔っ払いどもが「おい、ここの宿屋はうんこと一緒にメシ食わすのか。酒がまずくなるぜ!」ってなもんよ」
「…………」
「すまねぇ。あんたに対して何かあるって訳じゃねぇ。ただ…………仕事なんだ」
その言葉に少しでも侮辱の色が込められていたらなにかしら別の手を考えたかもしれない。
だが、彼の目はただただ澄んで、自分の職業をまっとうしようとしているだけだった。
だからだろうか。逆に俺はとても深い超えられない溝を感じた。
「…………邪魔をした」
そう言って宿屋をでようとした時だ
「あー! それとこれは独り言なんだが……」
「……?」
「ここを出て右に曲がって道具屋のところを左に曲がって二つ隣りの馬小屋だが……最近掃除をする暇がねぇってボヤいてたなぁ。あれじゃあ藁ん中にうんこが落ちてても気づかねぇだろうなぁ」
「…………親父……」
振り返るが親父は目を合わせようとしない。腕なんか組んで天井を見つめてあくまで独り言だとでも言わんばかりだ。
「…………ありがとう……」
宿屋を出て馬小屋に向かい、藁の中で眠る。
秋風が身に染みたが不思議と寒くはなかった。
え、メシとか食わないでいいのかって? やだなぁ、お客さん。セーブポイントで一晩寝れば全回復するって昔っから決まってるでしょ。