出会い
「さて、どうするかな……」
王都に入ったのはいいが、宿屋に泊まる金がない。
今から冒険者ギルドに行っても間に合わないだろう。
どこかうんこでも雇ってくれるところは……そう思っていると怪し気な男に声をかけられた。
「ヒッヒッヒ……ちょいとそこのお兄さん。なんかそこら辺の連中と匂いが違いますねぇ……危険と言うかアウトローと言うか……もっとはっきり言うと……すげぇ匂いがするって言うか……」
「お前は?」
怪しげな男に少し警戒する。
「ヒッヒッヒ。あっしはゲーリックってなケチなもんでさぁ。兄さん、もしや一文無しで困ってんじゃねぇですかい? どうです? 当たりでしょう?」
「…………察しがいいようだな」
「ヒッヒッヒ。スラムの生まれで育ったもんだから、教養はねぇけど人を見る目だけはあるんでさぁ。どうです兄さん? 1つあっしの儲け話にのってみやせんかい?」
「………………」
他にアテがある訳でもなし、俺は黙ってついていくことにした。
「へーい。グリーンスネークかもーん!」
ピーヒョロ ピーヒョロ ピーヒョロリー♪
俺は笛の音に合わせてツボから頭を出したりひっこめたりしていた。
そう、今の俺は体を緑色に塗って蛇のフリをしているのである。
「ほらほら、世にも珍しい賢い蛇さんだよ~。こんな事も出来るよ~!」
ピーピーヒョロリー♪ ピーヒョロリー♪
俺が得意気にチューチュート〇インよろしく頭をグルグルまわしてやるとワッと喝采が湧いて硬貨が投げ込まれる。
「ありあとーございやっしたー!」
俺はゲーリックと一緒にお辞儀をして演目は終わった。
「さっすが兄さん。うまくいきやしたね! さぁ、分け前の半分こです」
そう言ってゲーリックは儲けの半分に少し色をつけて渡してきた。
「いいのか? ほとんどお前の案にのっかっただけなのに……」
だがやつは不敵な笑みを浮かべてこう言った。
「ヒッヒッヒ。これは投資なんです。と、言っても後で倍にしてアッシに返してくれって話じゃありませんよ?」
「……と、言うと?」
「いいですか? こいつは世界のための投資です。この世の中にゃあクソ野郎が多い。だからこの世界の人達を少しでも優しい目で見てほしいって、それだけでさぁ」
「……気付いていたのか。俺が異世界から召喚された勇者だと言う事を」
「おっと、誰が聞いてるかわかりません。それ以上はよしましょう。ただね……あっしは匂いでわかるんですよ。兄さん、あんたはただものじゃねぇ。きっとなにかものすげぇ匂いがしますよ。そうに違いねぇ」
「……ゲーリック……」
「運が良ければまた会えるでしょう。さぁさぁ、立ち止まっちゃぁいけません。。世界が兄さんを待ってやす」
「…………ありがとう」
出発するよう促されて俺はその場を後にする。
「お達者で~~~」
後ろで手を振る彼の声を背に受けながら……
◇◆◇
魔王討伐後の世界。復興と国際交流が活発化する中でいち早く海運業の有用性に目をつけ、のちの菱形財閥の祖となる海運公団の創設者となるピー・ゲーリック。
彼は反目していたきのこ党とたけのこ党を和解させ、王権打倒の立役者と呼ばれるようになる。
図らずもうんこの王家に対する復讐は彼によって成される事になるのだが、世界は未だ彼の事を知らない……