第六章21 『再会と主従』
魔王とサタナキアの交渉が終了した。
魔王はセイレーンと共にサタナキアの城塞を出て、サキュバス達の待つルシファーの城塞へと戻る。
「ふう、大変だったぁ……」
「お疲れ様です、魔王様」
交渉を終え、ようやく肩の力を抜いた。
サタナキアの城塞を出て歩きながら肩をまわすと、バキボキと骨が鳴る。随分と肩肘張ってたからなぁ。前の俺の身体なら胃もバッキバキに軋んでただろうな。
うわ、想像したくねぇ……。
「魔王様っっ!!」
「あ、サキュバス様ですよ!」
セイレちゃんと一緒に歩いていると、前方からサキさんや雪女さん達が歩いてくるのが見えてきて、セイレちゃんが彼女たちに向かって手を振った。
中でもサキさんは全速力で走ってくると、俺の手前までやってくるなり跪くような姿勢になる。
「サキさん……無事でよかった」
「すみません、魔王様……あのようなものを出しておいて、その、えっと」
「あ、辞表のこと? 気にしてないよ」
「え……」
サキさんは意外といった風に顔を上げた。
「お帰り、サキさん……」
「魔王様っ……! わ、私は魔王様に忠誠を誓った身ですが、ここでもう一度誓わせてください」
「うん。秘書はサキさんしかいないよ」
「ありがとうございます!!」
こうしてサキさんも無事に秘書に戻ってくれた。
今回の交渉は、自分でも驚くくらいに上手くいっただろう。
「魔王様、お疲れ様ですわ」
「フェニちゃん頑張ったお!」
「二人とも、ありがとう。……あ」
こちらで盛り上がっていると、後から遅れてやってきたルキフグスとフルーレティ、そしてルシファーが頭を下げてくる。
「え……!?」
「今回、サタナキアが迷惑をかけたようだ。すまない」
そういうことか……。
確かに、この結果となればルシファーが謝っても不思議ではない。だけど、頭を下げるとは……。そういうタイプに見えなかっただけに驚きだ。
「気にしてないって言えば嘘だけど、こっちにも収穫があった。頭を下げる必要はない」
「……そうか。しかし弟とはいえ迷惑をかけたことは事実だ。サキュバスや雪女たち、もちろんお前もつかれているだろう。今日は我が城塞でゆっくりしていくといい」
おぉ。
これは願ってもいないことだ。
実は、かなり疲れていた。これから帰るとなると数時間かかるだろうから、ありがたい。
「悪魔の敬意、踏みにじるつもりはない。いいよね、みんな」
「はいっ」
「な、どうしてセイレーンが返事をするのよ!? 魔王様の秘書は私よ!」
「す、すみません……で、でも! 自分も護衛衆です!」
「ぐぬぬ……」
「魔王様、モテモテですわね」
「あ、あはは……」
二人の言い争いを何とか仲裁し、俺達はそのまま城塞へと招待されることとなった。
ルキフグスだけは俺達と正反対の方向に歩いていく。どうやらサタナキアを説教するつもりのようだ。
フルーレティとルシファーに案内されたのは、初日に訪れた大広間。
そこにはすでに絢爛豪華な食事が用意されていた。
「労いというわけではないが……今宵はゆっくりしていってくれ」
「やったぁ!」
「フェニ、行儀が悪いですわよ」
「魔王様、こちらへどうぞ?」
「じ、自分も一緒に!」
四人と共にテーブルに着き、食事を目の前にする。
そして食べ始めようとすると、ちょうど後ろを通ったルシファーの声が耳に届いた。
まるで誰にも聞かれたくないような声のトーンで、彼はこういった。
「夜、皆が寝静まった頃に部屋に来い。話したいことがある」
「え……?」
何事かと振り返ると、既にルシファーは自分の席へと歩きだしており、とても聞き返せる雰囲気ではなかった。
「魔王様? どうかなさいましたか?」
「い、いや、なんでもないよ」
セイレちゃんの言葉に反射的に首を振ると、俺は先程の言葉を反芻した。
……行ってみるか。
とりあえず行ってみることに決め、今は御馳走に舌鼓を打つことにした。




