第六章20 『魔女は警戒する』
魔王とサタナキアの交渉が終了した。
その結果は不思議なものとなり、魔界中が首をかしげていた。
そんな中、四天王の魔女は異例となる緊急の教授会を開いていた。
「集まったようですね。では、教授会を始めましょうか」
学園長であるウィッチの合図とともに、集まった四名の教授が頷いた。ここは魔女の領域。空中学園の学長室だ。本棚に囲まれた広い一室の中央には長机とソファが用意され、教授たちの手前に資料が配られている。
ウィッチはメガネを上げ、教授たちの注目を確認してから議題に移ることにした。
「今回、こうして集まってもらったのは、魔王とサタナキアの交渉の件です。皆様の意見を聞かせてもらえますか?」
「では、わ、わたくしからいいでしょうか」
「はい、お願いします。メデューサさん」
蛇の髪を従える教授の一人メデューサは、資料に目を通しながら起立した。
「今回の交渉、以前の魔王とは違いがみられます。噂の信憑性は増すと思われ――」
「少しいいでしょうかぁ?」
「なっ、ウンディーネさん、今はわたくしの――」
「構いませんわ。発言を許可いたします」
「ウィッチ様……」
水の肌を持つウンディーネは間延びした声と、ゆったりとした調子で目を擦りながら発言する。
「噂の件ですけどぉ、これについては保留した方がよいかと思いましてぇ」
「ど、どうしてですか? 今回の交渉で垣間見えた魔王の――」
「あの交渉を組み立てる御方に、メデューサさんは勝てますかぁ?」
「……そ、そんなの」
「二人とも、ありがとう。席についてください」
「はぁい」
「はい……」
ウィッチの指示で二人が着席する。
そしてウィッチは、彼女たちの対面に座る教授たちにも目を向けた。
「今のウンディーネさんの理論、いかが思いますか?」
「~~~~!」
話を振られた少女は、教授の一人ユニコーン。
頭に立派な角を生やし、水色の髪を揺らす幼女だ。
彼女は魔界でも少ない聖獣種の一人で、魔王軍に所属しているフェニックスやドラゴンと同等の存在と言われており、魔女の勢力における、切り札的存在でもある。
しかし、そんな彼女は話を振られると顔を真っ赤にして俯き、首をブンブンと振って言葉を発することもなかった。
極度のあがり症で、これにはウンディーネやメデューサも言及することはない。
彼女は知力ではなく、戦闘力だけを評価される、魔女において異例の存在。
そのように特別待遇されている身で、発言せずとも非難はなかった。
「すみませんでした、ユニコーンさん。では――」
「興味ない」
話を振る以前に、そこに座る眼帯の女性は腕を組んだまま一言で発言を拒否してくる。
「ちょ、ちょっとダークエルフさん!! そのような態度は――」
メデューサがたまらず抗議すると、女性は瞑っていた目を開けて彼女を見た。
長い灰色の髪を一本に縛り、左目を眼帯で覆った色黒で小柄な耳の長い女性。ダークエルフは元々魔王に支持しているエルフ族やシルフ族に分類される魔王直属の女性だった。
しかし彼女達との軋轢から、魔女に加担してしまい、魔王を裏切り闇に堕ちたエルフ、ダークエルフと自身を呼称しているため、種族として存在してはおらず、ダークエルフは彼女だけ。
そんな彼女は美しい金色の瞳で睨むと、鼻で笑ってから口を開いた。
「オレは別に、魔王様がどうしようと既に関係ない。錬金術の発展のため、日々研究するのがオレの役目なんでね」
「そ、そのような……魔女の一端を担う教授として恥ずかしくありませんの?!」
「何を言ってるんだ? そもそも我が物顔で発言しているけれど、メデューサ。キミがここにいるのは……キミの実力じゃない。あいつの席が空いた補充要因だろう?」
「な、なんですって……」
「今回だって、オレはこうして教授としての責任を果たして出席してやってるだけ。発言する義務なんてないさ。それとも、オレもあいつのように退学させるか? 学長?」
「あなた……!」
「やめなさい、メデューサさん。すみません、ダークエルフさん」
「学長は話が分かって助かる」
そう言ってダークエルフはそのまま目をつむり、我関せずの姿勢をみせる。
実は彼女、ウィッチに次ぐ知能の持ち主だった。エルフの生み出した魔法に対抗すべく、錬金術と呼ばれる技術を発明し、魔法とは異なる力を生み出した人物。
彼女は次期学長と呼ばれる程の知能と実績を持っていた。
隣にいるユニコーンが魔女に味方しているのも、彼女が深く関係していると噂されている。
「メデューサさん、着席を」
「……すみません」
「学びとは常に、謙虚な姿勢から生まれます。メデューサさんは、ダークエルフさんから学ぼうとする意思を感じません。態度、改めるように」
「はい……」
「とりあえず、魔王の件に関してですが……これまでとは違うことは確かと見えます。今回の会議でも挙がったように、軽視すべき対象ではなくなったということです」
「では、計画を先送りしますかぁ?」
「いえ、計画は水面下で進行いたします。ですが、これまでよりも一層の警戒を払う必要があるでしょう。あの魔王は、我々の知る魔王ではない……噂は真実に近いかもしれません」
ウィッチはそう言いつつ、ニヤリと口の端を上げる。
「面白くなってきました。以前の魔王とは違う知性ある魔王……存分に、楽しませていただきます」




