第六章15 『火の鳥』
魔王が交渉している間、雪女とフェニックスは大悪魔フルーレティと共に、サキュバスの説得と救出に向けて、魔王たちが出て行った後に行動を開始。
サタナキアの砦まで潜入していた。
「この先が、牢ですのね」
「だぁれも、いないね?」
雪女とフェニックスが廊下の角から覗いてみると、視線の先、牢へと続く扉の手前には誰もおらず、無警戒で怪しかった。
「フルーレティ様、間違いありませんの?」
「当然よ。あそこが地下に続く牢になっているわ。でも変ね。誰も番をしている人間がいないとは」
「……」
「突っ込んじゃう?」
「そなたは死なぬが、わらわ達は死ぬのだぞ。容易に飛び出せるようなものでは――」
「フェニ、行ってきなさい」
「わぁい!」
「お、おぬしら!」
フルーレティの制止をあえて無視した雪女は、罠としか思えない一本道の廊下にフェニックスを先行させる。
フェニックスは小さな翼と赤い髪をなびかせながら、小柄な身体で通路を走っていった。
「……ん?」
ズドオオオンッッ!!
すると直後、廊下の壁から巨大な手が出現し、両サイドからフェニックスは勢いよく挟み込まれ、そのまま握りつぶされる。
バキバキバキィィッッ……!!
巨大な手が圧縮を強めると、痛々しい音が響き渡る。更には赤い羽根が無惨にもその場に舞っていて、とても生きているとは思えない状況だった。
「ゆ、雪女、フェニックスは大丈夫なのか?」
「ええ。火の鳥は不滅ですのよ」
フルーレティが驚いているのに対し、雪女は冷静に壁から出現した手を分析し、敵の数を確認していた。隠れているつもりでも、雪女の目を欺くことは出来ない。
昨晩の、魔王との作戦会議を思い出す。
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『予想されるのは、サタナキアの直属であるアモンかバルバトスになると思うんだ』
『成程……サタナキアの忠臣プルスラスは既に消滅……。であれば、確かにその二人を考えますわね」
『うん。でも、一人はきっと交渉の護衛になる』
『わかりましたわ……となれば、敵は一人ということですね』
『いいや、きっと違う。こちらに見られながら攻撃を加えてしまえば、彼らは悪魔の立場を守っていないことになるよ』
『でしたら、二名ですの?』
『いや、きっと念には念を入れて――』
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「フェニ、魔王様の指示通りに動きなさい! 敵は三名、予想通りよ!」
「了解だぉ、いっくおおお!」
呼びかけると、両手の中にいるフェニックスは熱を帯びるように光り出し、魔法で作られた真っ黒な両手を燃やしながら破壊すると、垂直に飛び出して天井を焦がした。
「がお~~! フェニちゃんはこの程度じゃ死なないよっ!」
フェニックスは回転しながら廊下に着地する。火の粉を撒き散らし、あれほど鈍い音を響かせていたのだが、身体には一切の怪我がなかった。
更に、脱出したフェニックスは先程よりも翼が大きくなっているものの、人型を保っている。
真っ赤な髪や纏っていた衣はところどころ燃えていて、片目が炎で覆われており、小さな身体ながら仁王立ちでとてつもない迫力を放っていた。
「あれが聖獣……フェニックス。不死の力……」
「フルーレティ様、別の通路から牢には行けないのですか?」
「え、ええ……」
「フェニ、道を作ってあたし達を通しなさい!」
「了解だお!」
「行きますわよ、フルーレティ様」
「そ、そうね」
フェニックスの脇を抜けるように走り去り、雪女とフルーレティは牢の扉へと向かう。
その途中、再び魔法が放たれそうになっても、フェニックスが一瞬で跳躍し、攻撃を全身で受けて見せた。雪女とフルーレティは攻撃を簡単に掻い潜り、牢の扉までやって来る。
「フェニ、頼んだわよ」
「任せてっ!」
ガチャン!
大きな音を立てて扉が閉まると、フェニックスはその扉の前に立ちふさがるように腕を組む。
「ふははは! ここから先は、魔王様の幹部が一人……え、えっとなんだっけ。あ、そうだ。護衛衆のフェニちゃんが相手になるよ!」
ギュンッ! ズドン!
「うぐっ」
廊下に向かって叫んでも、返事がなく、その代わりに何もないところから魔力を圧縮させた魔弾を放ってくるが、フェニックスは痛くもかゆくもなく、魔弾を正面から受け止めた。
「んもぉ~~、衝撃だけはあるんだからね?」
身体に風穴が出来ているが、フェニックスは痛そうな素振りも見せない。死に至る大怪我は炎に包まれて服ごと再生し、何もなかったかのように頭を掻く。
「まったく悪魔さんは陰湿だなぁ……でも聞いてた通りみたいだお。フェニちゃん、大役だね」
フェニックスは特に何もすることなく扉の前に陣取り、仁王立ちで動こうとしない。
「フェニちゃんはね、何をされても死なないんだもん。悪魔さん達じゃ、ここを突破できないよね。うん、フェニちゃん偉い。魔王様、きっとほめてくれるね」
そう言って満面の笑みを浮かべ、迫りくる怒涛の攻撃にも動じることなく、フェニックスはそこを動こうとしなかった。




