第一章Ex2 『勇者はハーレムを目指す』
【2018年1月19日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
「勇者よ! 我らの願いを聞き届けたまえ!」
あれ? 僕なにして……確か、ヒトミちゃんに殺されて、おっさんの声を聞かされ続ける地獄に落ちたんだっけ?
「この世界を、お救いくださいませ!」
ん? なんか聞こえる。
しっかし暗い場所だなぁ。輝かしい僕には不似合いだ。
あっちから、声が聞こえたなぁ。
とりあえず、その方向に歩いていくことにした。
すると突き当たりで止まり、差し込む光で手元が見える。
「これって、洞窟? マジかよ。ナオミちゃんと鍾乳洞行ったとき以来じゃん。ってかここ、開きそうだよな」
洞窟の突き当たりに手をかけられそうな箇所を見つけ、僕はスライドさせるように壁を動かしてみる。
ガガガガガッッ!
「うわ、開いちゃった。あれ?」
洞窟と思いきや、祠のようだった。
開いて出た場所は、大人数が祈りを捧げているような場で、明らかに場違いだった。
「やっべ……僕、無宗教なんだけどなぁ」
しかし、かなりの注目を浴び、少し気分がいい。
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「世界を救い……どうしたのだ皆のもの、祈りを中断してはならぬ」
「い、いえ教祖様。う、後ろに――」
「なんだというのだ。この祠のことか? これは魔王の支配に脅える弱き者達の味方、魔を絶つ者、勇者様の誕生を祈願した――」
「そ、その勇者様です!」
「何を言って……」
教祖が振り返ってきて、目が合う。
彼は老眼なのか、パチパチと瞬きし、目を細めてから顎が外れる。
「――! あ、あが……ゆ、勇者さ、ま……」
「さっきから勇者って言ってるけど、僕のこと?」
「こ、この時を何十、何百年待ったか……散っていった同胞達よ、ついに、世界を救うものが再び現れたぞ……あ、あなた様こそ、正真正銘の勇者様でごさいます!」
「ふーん。勇者って、なにすんの?」
「魔王の討伐を、是非!」
魔王って、ゲームとかで調子のってるやつ?
マジかよ。スッゲ。これって、オタクのミナミちゃんが好きだったラノベみてえじゃね?
そんで勇者っていえば、仲間との旅。
友情の深まるイベントが定番って、ミナミちゃんとRPGのゲームやったとき言ってたような……。
つまり、僕が勇者になって、美少女の仲間集めて、ハーレム作っちゃえば、最強じゃね?
マジかよ。途端にやる気出たわー。
「そう、僕が勇者だ。魔王は僕が倒す! あっはっは!!」
「き、奇跡だ……! 勇者様、我々はあなた様の望みを聞き、あなた様の手助けになればと思っております。なんなりと、申し付けくだされ」
みんなが一斉に頭を垂れる。
中には泣いて喜ぶ人もいた。
「まずはそうだなぁ、可愛くて若い女の子を紹介しろおお!」
「……! 美少女だ! 美少女をお連れしろおお!」
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この日、勇者降臨を望んだ教団のもとに、転生したクズが現れた。
そして、彼の噂は瞬く間に拡散し、国王からも正式に魔王討伐を依頼される。
彼は勇者となり、まだ見ぬ仲間を集め、魔王を倒すための旅に出ることとなった。
その際、国王は、勇者が魔王討伐を果たした暁には望みのままの褒美を与えようと約束した。
『じゃあ、僕専用のハーレムランドを作ってよ』
これが、後世に語り継がれるかもしれない、新たな勇者の旅立ちの台詞だった。