第六章12 『サキュバスについて』
サタナキアとの交渉を明日に控えた魔王。
その夜、魔王はセイレーンと雪女を交えて明日の確認を行っていた。
最後に、魔王はサキュバスのことを雪女に訊ねる。
すると彼女は、つらつらとサキュバスについて話し始めた。
まず、彼女は元々フルーレティの傘下であって、魔王サタンの直接的な傘下ではないこと。
彼女は以前まではフルーレティの忠実な部下で、何代も続く魔王サタンに仕えたことはなかったらしい。
だが当時の魔王(俺の前の魔王)は、魔界を作るという大きな野望を抱き、語ってまわったという。
それを聞いて賛同した者が、これまでの正当な直轄種族(セイレちゃん、ハーピーなど)とは異なる、サキさんや雪女さん、ミノ子さん達のような存在。
サキさんは計画の当初からいたようで、彼女は雪女さん、セイレちゃん、デュラハンさんに次ぐ四人目だったみたいだ。
その中でもサキさんは熱心で忠実な性格であったらしく、サキュバス族をまとめつつ、魔王のために尽くしていたらしい。
その姿勢と彼女の知略や人望が認められ、秘書になったのだとか。
「ハーピーが選ばれなかったことは、気の毒ですわ。ですが、魔王様はサキュバス様の努力を見ていたんですの。気の毒だけれど、サキュバス様が選ばれたことに反発する者は、ハーピー以外におらず、選挙を開催しても圧倒的な大差でサキュバス様が勝利しましたの」
そうだったのか……。
「以上が、あたしの知るサキュバス様ですわ。参考になりまして?」
「……うん。やっぱり一つだけ疑問が残った。事前に調べてきたことを照合させても、まだ理解できない」
「それは一体――」
「……サキさんは、どうやって円満に悪魔を脱退したの?」
「それは……」
「前の魔王は様々な種族を集めていったものの、魔界を作るのは苦労した。そんな集団に入ることを、魔界を作る以前からフルーレティが許可すると思う?
サキュバス族は上位悪魔で戦力になるはず。当時は勢力間の争いも勃発していた。そんな時期に許可を出すとは、到底考えられないんだよ」
これはビーストのミノ子さんが例に挙げられる。
彼女はケンタウロス達に反感を買いながらも、魔王の意思についていこうと無理矢理抜け出した。
サキさんも同様なら、フルーレティから、どうして反感を買わずに済んだのか、という話になる。
「確かに、そうですわね。サキュバス様からは円満だったと聞いていますが、不思議ですわね」
「で、でも、フルーレティ様は協力してくれるそうですけど」
セイレちゃんの言うとおり。
今日、フルーレティに会ったが、一切の策謀を感じさせなかった。本心からサキさんを助けたいと思っていたように感じた。
あの場面で嘘をついたことは考えられる。
だが、それは薄い。
嘘をつくくらいなら、自ら協力を申し出る必要はない。彼女はあくまでも、こちらから持ちかける前に頼み込んできた。あたかも決まっていたかのように。予定したように。
そう、全部読み通りだろう。彼女が協力を申し出た理由も、サキさんが円満解決したと断言する理由も、俺はここに来る前から目星をつけていた。
雪女さんにはあんなことを言ったけど、かなりの確率で一致していると見ていい。
ではなぜ、引き出すように話しているのか。これはセイレちゃんに話してあるが、雪女さんに計画の全貌を納得してもらうためであり、同時に俺が確信を得るためだ。
「もしかして、フルーレティの意思ではない。――そういうことは、ありえるのかな?」
大体は理解していても、まだ確信に踏み切るには早い。明日の交渉が最後のチャンスだが、雪女さんから得られる情報は、得ておきたい。
「悪魔の組織構造は、知っておられますか?」
「勉強してきたよ」
「でしたら、既にお分かりかと思いますが、悪魔は大悪魔によって支配されていますの。
それを全て統率するのが皇帝ルシファー様。魔王であるサタン様に次ぐ権力を持ったルシファー様が、サキュバス様に魔王様への協力を認めた場合、その下についているフルーレティ様は逆らえませんわ」
「そうか……そういうことか」
なんとなく、予想と繋がってきたな。
「つ、つまり、フルーレティ様の本意では、ないのですか?」
「可能性は、考えられますわね……成程」
サキさんは円満に解決したと言った。
それがもし、彼女の知らないところで円満にさせられていたのだとすれば……。
彼女は知らず知らずのうちに、フルーレティに恨まれていても不思議ではない。
ともかく、雪女さんの一言で理解した。大体は予想的中だ。
サタナキアの狙いは恐らく……。
「ま、魔王様、気になります、か?」
セイレちゃんは確認するように訊ねてきた。
「……そうだね。今回の交渉はサタナキアの暴走と見て間違いないみたいだけど、その目的がわからないって言ったでしょ?」
「あ、はい。仰って、いましたね」
「サキさんを手中に収めた手段も気になったんだ。サキさんに辞めさせることで、向こうはサキさんを交渉の材料にはできない。つまり俺を呼ぶ材料としては、不十分だ」
「ど、どういうことでしょうか?」
「これで魔王がサキさんを助けるために動くと、言い切れる?」
「そ、それは……」
「普通に考えてみれば、説明を求めるのが最大限の方法。だけど、サタナキアはそれ以上を要求してきたんだよ。あえてヒントを散りばめさせることで、サキさんの意思ではないことを予感させ、俺達をこの場に呼んだんだ」
「ヒント?」
セイレちゃんが首を傾げる一方、雪女さんはハッとしていた。
「目撃情報と、辞表ですのね」
「そう。こんな状況でサタナキアと一緒にいたところを見られていたとか、辞表が落ちていたとか、出来過ぎてるとは思わない?」
「言われてみると……誘導、されているような」
「セイレちゃんの言葉通り。これは誘導だよ」
そう、それが今回最も重要になってくる。サタナキアが交渉を要求してきた理由と目的が、とてつもなく重要だ。
「明日の交渉……負けるわけにはいかない。雪女さん、最後にもう一つだけ指示を与えておくよ」
「なんですの?」
「彼女から、目を離さないでほしいんだ」




