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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第六章 「社畜魔王、愛を知る」
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第六章8 『拝啓、過去の自分』



「あなた様が嫌いな分、自分は、あなた様を好きですから……信じられるんです。あなた様が変われることも、全部、信じられるんです」


「――!」


 セイレちゃんの必死の言葉に、俺は涙を流しながら、無意識のうちに昔の自分を脳裏に思い出していた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



『――くん、将来何になりたいの?』


 田んぼの畦道が通学路。

 小学生の頃の幼い俺は、放課後、夕暮れの畦道を幼馴染のクルミと一緒に歩いている。

 何の経緯でそんな話になったのかは忘れたけど、将来の話は記憶に鮮明だった。



『俺は、クルミもお母さんもお父さんも、みんな助けるくらいの大きな仕事をするんだ。そしていつか、この町の過疎化を救う! 超カッコいいだろ!?』



 あの時の俺は恥じらうことなく、夕焼けのスポットライトに自信満々の顔を向けて言い放った。

 今聞くと赤面するが、当時は本当にそう思っていた。


『カッコいいね! ヒーローみたい!!』


『まあな。……でもさ、最近思うんだよなぁ。ゲームとかしてると、ヒーローもすごいんだけど、ラスボスの魔王とかもすごいんだよな』


『え、どうして?』


 一言一句おぼえていたはずなのに、いつからか無意識に忘れていた。



『だって悪の魔王ってさ、勇者が来るってわかってるのに逃げないんだぜ。やっぱりラスボスってこうじゃなきゃな』



『あはは、なにそれー』

『ま、結局のところヒーローにやられるけどな』


 そう言って笑いあう二人の小学生。

 夢と希望が、あの頃の未来には確かにあった。

 

 だけどそれは、いつからか消えていってしまう。消えたというよりも、自ら消していってしまう。

 つまらない線引きをして、現実だけしか見えなくなっていたんだ。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 時が経過して、スーツ姿の俺がいる。

 上司に怒鳴られているようだった。


『だから、言ったはずだ!!』

『で、でもそんなの、聞いて――』


『逆らう気か?! 罰として、お前は残業だ! いいな!?』


 この頃にはもう、夢や希望なんてなかった。

 そこにいたのは、自己嫌悪と逃避癖の塊。勇者の言うように、変わってなんていなかった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



『権力がほしい!』


 ――あの時、俺はどうして願ってしまったのだろう。

 もう一度生きるチャンス。

 それを当然のように、焦るようにして受け取ったのは、どうしてだろうか。

 あんなに、生きることに絶望したくせに……。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



『変なの』


 ――!?

 目の前に、幼き自分がいた。奴は不思議そうにこちらを見上げてくる。


 ……変か。そうかもな。


 あの時、再び生きることを選んだのは、きっと無意識のうちに思っていたからなんだ。


 やり直したい。変わりたい。

 ――そう思ったからだ。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 逃げて、逃げて、逃げて、その果てがここだった。

 俺は魔王となって、それでも、また逃げようとした。


『だって悪の魔王ってさ、勇者が来るってわかってるのに逃げないんだぜ。やっぱりラスボスってこうじゃなきゃな』


 そうだよな、昔の俺。

 魔王ってカッコいいよな。

 下を向いてる魔王なんて、ラスボス失格だよな。

 

 さまざまな感情と記憶が去来した。

 その果てに、彼らの声を聴いた。


『魔王様!』


 彼らが信じてくれるのに、俺が魔王かどうか迷ってどうなる。


『……自分は、そんなあなた様のことが、大好き、です』


 セイレちゃんが、見ていてくれるんだ。信じていてくれる。


 こんな俺を、彼女は好きだと言ってくれた。

 これで迷う方が馬鹿だ。

 逃げようとする奴は、きっと大馬鹿だ。

 

 変わりたい……。

 変わって――魔王として生きて、今までの社畜に自慢してやるんだ。


 どうだ、逃げないで生きてやったぞって、自慢してやる。

 こんな俺でも、誰かの役に立てるんだぞって、自慢してやる。

 ヒーローじゃなくてもラスボスになれた、異世界の主要キャストに選ばれたぞって、自慢してやる。


 ここにいるのは、お前らが逃げてくれたお陰だ。

 だったら、俺は期待に応えないとな。



 過去のお前たちの分まで……。

 今の俺が――胸張って生きてやるよ。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「ま、魔王様?」


「ありがとう、セイレちゃん。ミノ子さんも……。俺、やってみるよ。逃げないで魔王、続けてみるよ」


「「――!」」


 二人が同時に驚いている。

 そりゃそうだよな。迷惑かけすぎだ。


「セイレちゃん、見ていてくれるかな?」

「――! も、もちろんです!」


 セイレちゃんはブンブンと頷く。


「ありがとう……その、さっきの告白の返事は、待ってくれるかな?」


「え!? あ、い、いえ! そんな!」


「ちゃんと、考えてから返事したいんだ」


 そう言うと、セイレちゃんは今にも倒れそうなほどに顔を真っ赤にさせていた。


「あ、あの、でもでも、自分のあれは、男女のそういうことではなくて、その、そもそも自分は魔王様となんて身分違いといいますか、その、えっと」


「そ、そうなの? 俺はてっきり……」


「こ、告白です!! 大好きです!!!」

「セイレーンさん!??」


 セイレちゃんが顔を真っ赤にして叫ぶと、ミノ子さんは驚いているようだった。

 彼女にも、伝えるべきことがあるよな。


「ミノ子さんも、こんな俺のために尽くしてくれて、ありがとう」

「い、いえ! 尽くしたくて尽くしてますから!!」



 やっぱり、自分の事しか見えてなかったんだな。

 こんなにも頼もしい、俺を信じてくれる人たちがいて、俺が自分を信じなくてどうする。



「二人とも……一つお願いしていいかな。二人だけじゃなく、サキさんやデュラハンさん達にも、お願いしたいことなんだ」


「な、なんでしょうか」


 その言葉に、二人は息を呑むのがわかった。



「もう逃げない。だから、俺を支えてほしいんだ」



「「――!」」


「どう、かな?」


「もちろんです!! ね、セイレーンさん」

「はい! じ、自分も、魔王様を支えます!! 見てますから!!」


「ありがとう……」



 もう、俺は逃げない。支えてくれる人達がいる。

 現代社会で殺される道を選んだ俺が、この世界で殺されるわけないよな。

 あっちの方が、難易度高いし。



「認められなくても、認めさせるくらいの魔王になってみせるよ。ハーピーみたいなことは、もうさせない。

 誰にも、俺にも文句は言わせないくらい、魔王として生きてやるんだ。

 そして、胸張って、自慢して、羨ましがられるような第二の人生を、本気で生きてやる。

 今度は、俺だけじゃない……みんなの力で」



「「魔王様……!!」」


 二人は涙を目にためている。心配をかけすぎたな。


「じゃあ、手始めにサキさんを連れ戻しに行こう。秘書はサキさんしかいないから」


「「はいっ!!」」


 俺はこうして、ようやく魔王として目覚めた。

 そこには何十年ぶりに心の底から笑う、魔王の姿があった。






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