第四章8 『キマイラ大臣』
【2017年12月2日改稿。読みやすくしました。内容の変更はありません。】
ウィズダム古城への攻撃が始まった。
魔物たちの虚を衝くように、勇者一行と義勇兵団は大砲と魔法による鬼のような攻撃で、先手を取った。
そして残党を倒しながら、先陣を任された勇者一行は敵の大将目掛けて半壊している古城に足を踏みいれた。
「うひっ、ここにも死体……」
ウィズダム古城に入ったが、そこは死体と襲撃の連続だった。
死体を見たかと思えば、角から突然ウルフマンが出現し、エリカちゃんがぶった切る。
心臓がバックンバックンうるさい。
遊園地のホラーハウスなら慣れてんだけど、リアルはやべぇ。リアルの待ち伏せは訴訟もんだ。
「……止まって」
しばらく歩いて場内を探索していくと、先頭を歩くエリカちゃんが足を止める。
「エリカちゃん、どうしたの?」
「この上から、気配を感じるのよ」
「気配、です? 勇者様、感じますです?」
モルちゃんに言われて耳を澄ませてみたり目を閉じてみたりするが、何も感じない。
「やっぱり、勇者様チェンジですよ」
「うぐっ」
「馬鹿言ってないで集中して。ここから先は、ウルフマンなんかとはわけが違う。この気配……もしかしたら魔王の幹部が出てきても不思議じゃないわ」
「幹部?」
首をかしげると、モルちゃんが小声で教えてくれた。
「魔王には忠実な家臣がいると噂です。セイレーン、ミノタウロス、デュラハン、フェニックス、雪女、サキュバス……この六体が噂の幹部ですよ」
「へぇ……」
ん? いやいやいや、そんなにいんの?
魔王強すぎね?
なにより、最初から仲間いるなんて、羨ましすぎんだろ!!
僕の最初の絶望感を返せ!!
「静かに……行くわよ」
エリカちゃんの真剣な言葉に頷き、僕たちは階段を上って行く。
そしてその先で、王様が偉そうに腰かけている玉座が置かれた大広間へと出た。
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大広間にやってくると、さっそくヤバそうなやつがいた。
「……!」
「あれは、強すぎるですよ」
二人も驚いているように、僕に至っては一歩も動けない。
ここには扉がないが、扉から一歩と言えば分りやすいか。ここに踏み入ってからすぐ、その場所で足が止まり、震えていた。
「お前たちか……攻め込んできた最善な人間とは」
奥にいるヤバい奴が話しかけてきた。
話すだけで離れたこの場所まで声が届き、生温かくて獣臭い吐息が全身にかかる。
百獣の王ライオンが巨大化し、更に翼を生やした化け物。
血走った眼光は鋭く、牙は恐ろしくデカい。見るからに強そうで、見るからに自信たっぷりといった態度だ。
あんなのと戦えって?
はっ、無理じゃん。
「キマイラ……」
エリカちゃんが視線を外さずに声を発した。
「ほう、わが名を知っているか。人間風情にしては中々の知恵者ではないか」
「あれがキマイラ、です?」
「モルちゃんは、知ってるの?」
「話には聞いたことがあるです。炎を吐き、空を駆け、牙で抉る、魔物の中でも強力な力を持っていたはずですよ」
おいおいおいおい……炎を空で牙るって滅茶苦茶ヤベぇじゃん。
これ、さっき言ってた魔王の幹部じゃないんだろ?
それでこれかよ。
魔王ってのは、どんだけヤバいんだよ……。
「我が名はキマイラ。偉大なる魔界四天王ビーストの大臣にして、此度の作戦の統括を任されている。
人間よ、どのようにして我らの最善な計画を察したのか知らぬが、計画が早まっただけの最善なり。存分に食らいつくしてやろうぞ」
ズシン!
奴の四足が一歩踏み出しただけで振動が伝わってくる。
「モル、勇者の前から離れないで! そこから援護!!」
「はいです!」
キマイラが動き始めるのを見て、エリカちゃんとモルちゃんも武器を構える。
「おいおい……二人とも、アレに勝つ気なのか?」
「当然よ!! あんなのに手間取ってちゃ、魔王を倒すこともできない!!」
「魔王?」
エリカちゃんの言葉に、キマイラは眉をひそめた。
「そうか。貴様らが勇者か……ふふ、あははははは! これは最善なり。貴様らを殺せば、ビーストの地位は確実。魔王を引き摺り下ろすことも可能であろう!! つまり最善なり!!」
魔王を……あいつ、何言ってんだ?
「そういうのは、勝ってから言いなさいよ!!」
ダッ!
エリカちゃんが剣を構えて距離を詰めていく。キマイラはそれを見て右前足を振り上げた。
「小娘に用はない!」
「――エリカちゃん!」
「こんのっ!……きゃあ!!」
ギシイインッ!
振り上げた右前足が勢いよく薙いでくる。エリカちゃんがそれを剣で払おうとしたが、あきらかに力負けだった。
一撃で弾かれ、床に転がされる。
鎧のおかげで怪我はしていないようだが、すぐにキマイラは同じ足を振り上げ、もう一度攻撃を浴びせようとしていた。
「終わりだ、人間よ」
「――っ! 光の鎖、魔の者の足を拘束せよ!!」
ジャラララララ!!
モルちゃんが勢いよく魔法を唱え、振り上げられた右前足に光る鎖が巻きつこうとする。
「この程度の魔法、最善なる我の前では無意味!!」
パキイインッッ!!
だが、キマイラはいとも簡単にそれを破壊してしまった。
「そ、そんなっ……!」
「吹き飛ぶがいい!」
「エリカちゃん!!!」
ズシャア!!
「あぐぁっ……!」
振り下ろされたキマイラの右前足が動けないエリカちゃんをとらえ、爪で鎧ごと裂き、勢いよく壁まで突き飛ばす。
壁に身体を叩き付けられ、エリカちゃんは動かない。
「エリカさん……!」
「う、嘘だろ……そんな」
「それは最善ではないな」
「「――!?」」
ズスウウウンッッ!
僕たちが狼狽えていると、キマイラは宙を悠々と飛び、一気に目の前まで詰め寄ってくる。
その勢いで埃が舞い、振動が足を伝ってくる。
もう駄目だ……死ぬ。
目の前に迫ったキマイラに絶望した。
「ほう、こんなのが勇者とは……人間も馬鹿な連中だ。最善ではない」
「勇者様!逃げてくださいです!!」
「モルちゃん……そ、そんなの……」
「逃げなさい!!」
「「――!?」」
突然の大声に驚き、その方向を見て言葉が出なかった。
エリカちゃんが、剣を杖のようにし、頭から血を滴らせながら立ち上がっていたからだ。
「ほう。あれで起き上がるか……勇者の仲間として、貴様は最善のようだな」
ズン、ズン。
キマイラはそちらへと歩み始め、エリカちゃんは剣を構える。
「勇者……あんたの借金、全部なかったことにしてあげるわ」
「――! エリカちゃん……そんな、嘘だろ!! 何言ってんだよ!!」
ズシン。ズシン。
キマイラの足音が響く中、エリカちゃんはこちらに向かって叫び続ける。
「あんたは……勇者は一人しかいないのよ。逃げて、世界を救いなさい!!」
「そんな……」
「いいから行きなさい!! モル!!!」
「わ、わかってますです!!」
エリカちゃんは喉が裂けるのではないかというほど思い切り叫び、こちらを見た。
その目は怒りに満ちたものではなく、彼女の優しい瞳だった。
「あんた達との旅、少しは楽しかったわよ」
「すぐにお前と同じ道を歩む連中に言葉を残すとは、最善ではないな」
「……そんな道、歩ませないってことよ」
そう言って剣を構え、エリカちゃんが剣を振りかぶると、キマイラも前足を振り上げた。
それを見てから、モルちゃんは僕の手を引いてくる。
「勇者様、逃げますです!!」
本当は、逃げたい。
「……わけない」
でも、目の前の光景に黙っていられるはずないじゃん!!
「勇者様?」
「仲間を置いて……逃げられるわけないだろ!!」
「勇者様!?」
「あの、馬鹿……!」
自然と足が動いていた。
震えが止まり、僕は初めて剣を手に取る。
怖い怖い怖いでかいでかいでかい!!!
でも、そんなことよりも――!!
『あれぇ? もしやエリカちゃん、自信ないの? あんなに魔王倒すって息巻いてたのに?』
僕の身勝手で、誰かを死なせたくないんだよ!!!
「もう遅い!! 最善ではないぞ!!」
「――っ!」
しかし駆けだすのは遅く、間を詰めるよりも先にキマイラの足が振り下ろされた。




