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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第三章 「社畜魔王、会談する」
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第三章14 『簡単に崩れるのは、人だから。』

 


 ビーストの件は緊急会議でなんとか目処がたった。

 しかし終了後、魔王は幹部の一人ハーピーに呼び止められる。

 そして彼女から、自分の存在を揺るがす一言が発せられた。


「あなた、誰?」


「え……誰って、魔王――」

「嘘つかないで!!」


 ビクッ――!


 突然の大声に心臓が跳ねるような感覚だった。先程までのハーピーとは違う。

 顔を赤らめたり笑ったりしていたハーピーとはかけ離れた、恐ろしいまでの怒りの感情だ。


「嘘なんて……」


「では質問します。魔王様が小さい頃、遊び相手になったのは誰ですか?」


 そ、そんなの知るわけないだろ……。

 でも、遊び相手ってくらいだから、近しい……そうだ。確かセイレちゃんは代々魔王の臣下だったから――。


「せ、セイレーン……」


 そう答えると、ハーピーはこちらを睨み付けてくる。


「彼女は、昔から臆病で、魔王様の近くにいません。もっとも、今の魔王様が気に入ったようですけど」


 外した……。

 そりゃそうだよ。そんなの知らない。


「……」


 でも、知らないの一言で、済ませていいのか?


「何を考えているのかわかりませんけど、正解は私です。ハーピー族はセイレーンと同様の立場ですから。どうやら、噂は本当のようですね」


「――!? ご、ごめん……」


 咄嗟に謝る。考えたらわかるような質問だ。

 でも、こんな迫力で迫られたら、考える隙もない。

 しかし俺が謝っても、ハーピーには届かず、彼女はこれ以上ないくらいに睨んでくる。


「……ぇして」


 そして、何か呟いた。だがそれは聞き取れるものではなく、次の瞬間には行動に変わる。


「え?」


 ガシイイッッ!!


「……!!」


 聞き返す間も無く、ハーピーがいきなり距離を詰めてくると、鳥の足で肩を鷲掴みにしてきた。


「あああああああああ!!」


 ハーピーの鳥の足には鋭い爪があり、それが骨を貫通して食い込んでくる。例えようのない激痛が走った。


 痛い痛い痛い!!!

 肩、ちぎれる!!爪が刺さって裂ける!!


「ぐ、あ……やめ――」


 抵抗しようにも力強く掴まれており、動けば動くほどに痛みが増してきた。


 ハーピーを見ると、彼女は歯をくいしばって俺を睨んでくる。

 そして、大きく息を吸って、叫んだ。


「かえしてッッッッッッ!!!!」


「ひっ――!」


 そのあまりの迫力に、身体が硬直する。



 な、なんだよそれ。

 かえしてって、魔王のことか?

 そんなの無理だろ。俺にどうしろって――。

 痛みと恐怖に思考回路も回らず、更にハーピーの爪が両肩に食い込み、感覚が無くなり、力が抜けてくる。

 見ると紫色の血がボタボタと廊下に落ちている。

 し、死ぬのか? また、死ぬのか?

 そう考えると、不意に、あの時の記憶がやって来る。



 迫り来る電車に、響き渡るギャラリーの悲鳴。

 目映いくらいの、最期の景色――。


「――っ!?」


 せりあがってくる吐き気と、あの一瞬の、後悔。

 何度も何度も、同じ映像が巻き戻しては再生されるかのように、あの瞬間だけを切り取って脳内に流される。


 死神がいたら、こう問いかけてくるか。

 死ぬのは嫌か? ――と。


 あの時の俺は、なにも考えないで頷いた。でも今は、死にたくない。


 死にたくない…………死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない!!!!!!


 煩いくらいに、鼓動が聞こえる。

 そして、ハーピーの声が頭にまで響いてきた。


「もっと痛めば、思い出してくれますか?」


「――!? だ、誰かっっ!!」


 誰でもいいから、助けて!!



 バキイッッ! ズドオオオオン!!



 そう願った瞬間――、ハーピーの身体が真横に吹き飛んだ。


「……はぁ、はぁ」


 霞んだ視界で、救世主の姿を見た。息を切らし、壁際で倒れるハーピーを睨み付けていた秘書の姿。


「サキ、さん……」



「魔王様!! よかった……! あなた様とハーピーを見たものがいて、すぐに駆け付けたんです! ――っ! ハーピー、覚悟はできてるでしょうね!!」



 サキさんが駆け寄ってきて、俺とハーピーの間に立つ。

 ハーピーは吹き飛ばされたが、廊下の端で起きあがっていた。


「サキュバス……その魔王様は偽物よ」


 ――!


 その言葉に、ぐらりと揺らいだ。

 知らぬ間に感じていたのか……口に出されてようやく、身体が封印を解いたように震えだす。

 本物の魔王の声も聞こえなくなり、本当に魔王となるしかなくなった俺にとって、その言葉はとてつもなく重かった。


「何を言ってるのよ。ここにいる魔王様が本物よ」


 サキさんの肯定も、今の支えには不十分だ。


「……そうか。やっぱりあんたが仕組んだのね」


 むくりと起きあがると、ハーピーはものすごい形相でサキさんを睨み付ける。



「何もかも、全てあんたが奪っていった……さぞ気持ち良かったでしょうね。次期の秘書として周囲から期待されていた、この私を出し抜いたんだもの!!」



 次期、秘書……?


「口を、閉じなさい」


 サキさんはこれまで以上に怒りの感情を剥き出しにしていた。ビーストの時でさえ、これほどの迫力はなかった。


「ずっと仕えてきた私から魔王様を奪って、今度は記憶まで奪った……私はあんたが大嫌いなの!! 憎い憎い憎い憎い!! どうして魔王様の隣は私じゃないのよ! 教えてよ! ねえ! ねえ!!!」


「サキさん……」


「ほら、偽物の魔王様が心配してるわよ。羨ましいわね、さぞや――」


 ズブシュッッ!!


「……! なに、これ……かはっ」


 ドサッ。


 ハーピーが挑発を続けようとすると、どこからともなく放たれた剣が、ハーピーの胸を貫き、彼女は血を吐いて倒れる。


「あなたは、2つの罪を犯した。魔王様を傷つけ、侮辱したの。幹部として恥ずべき罪よ。死をもって愚かな行動を償いなさい」



「ごほっ、そ、そうやって……ずっと、私から奪って……どうしてよ!! げほっ、な、なんであんたなの? どうしてそこに立ってるのがあんたで、こうして始末されるのが私なのよ!! どうして……! どこで逆転したのよ!! ねえ!!!」



 吐血しながら、ハーピーは力を振り絞って叫んでいた。

 そのどれもが耳に刺さってくる言葉で、耳を塞ぎたくなる。


「もう、終わりよ」


 そう言って、サキさんは右手を挙げ、剣を出現させた。


 マズイ!


「ま、待って! さすがにこれ以上は!」


「いくら魔王様の命令でも、こればかりは逆らえません。あなた様を傷つけた者を、私個人としても魔王様の臣下としても、野放しには出来ません」


 サキさんは止まることなく、右手を振り下ろす。


「……!」


 すると宙に浮いていた剣が、一直線にハーピー目掛けて飛んでいき、彼女の胸を貫くと、そこから赤い稲妻が走り、ハーピーの全身を焦がしてしまう。

 以前見た、サキさんがビーストの会議室で使った魔法と似たような現象だった。


「んぐっ!」


 ズブシャアッッ!!


 そしてハーピーは悲鳴も上げず、血液と羽を撒き散らし、動かなくなった。


 ハーピーが倒れたのを確認して、サキさんがすぐさま駆け寄ってきた。


「魔王様!ご無事ですか?! すぐにセイレーンを呼んで――」


「ひっ――」


「ま、魔王様?」


 助けてもらったくせに、俺はサキさんが怖かった。

 反射的に後ずさってしまう。

 最悪だ。この原因を招いたのは俺なのに、彼女の手を汚したのは俺のせいなのに、その俺がサキさんを怖がるなんて……たとえ一瞬だとしても最悪だ。


「ご、ごめん……」


「い、いえ。お怪我の方は?」


「なんか、段々と塞がって……」


「それは魔王様の治癒力です。しかしセイレーンに回復してもらった方がいいですね。彼女は治癒に長けていますから」


「あ、うん」

「魔王様……」


 それ以降、まともに顔を見て話すことは出来なかった。

 もう恐怖はない。

 しかしそれでも、顔は見れなかった。













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