第三章11 『会談の結末』
【2017年9月30日改稿。読みやすく改良致しました。】
ビーストとの会談が始まって数十分、戦局が激しく動いた。
一度は血を見る争いに発展しそうだったが、サキさんの機転によってどうにか落ち着きを取り戻し、再び会談が再開となった。
しかし一体何を議題にするのか、魔王には見当もつかなかった。
全員が再び席につき、落ち着きを取り戻す。
「サキュバス様、会談を再開するのはよいですが……議題はもう解決済みでは?」
確かに。今回の会談――議題はビーストの独断専行の件。
途中からモテマッチョたちが魔王を討ち取るだの騒ぎ出して変な方向に逸れてしまったが、結局のところ、会談はどう再開するつもりなんだ?
「解決済み、ではありませんよ?」
「え?」
「……そろそろ、ですね」
そう言うと、サキさんがケンタウロスを見る。
「詰みましたよ。ケンタウロス様」
「は? 何を言って――」
ドタドタッッ!! バタンッ!!
サキさんの言葉が終わった後、忙しなく足音が響いてきたかと思うと、扉が豪快に開け放たれ、ウサギのコスプレ美女がやって来る。
「何事だ! 会談の最中だぞ!!」
「も、申し訳ありません! で、ですが、報告が!」
「……すまない、魔王様」
「構わん」
「ふぅ……申してみよ」
「はっ、たった今――人間界への侵略準備をしていたキマイラ大臣の部隊が、勇者一行と人間たちの急襲により、全滅いたしました!」
『――!?』
勇者……!
「――それは本当なのか!?」
「間違いありません!」
「馬鹿な……勇者だと? まさか、勇者が。いや、どうやって嗅ぎつけたのだ。ウィズダム古城の跡地に陣を構えるなど、人間に気付かれるはずが……」
ケンタウロスは顔面蒼白で、頭を抱える。あれほど自信に満ちていた作戦が破られ、ショックは計り知れない。
だが、このタイミングを予知していたかのように、サキさんは言葉を放つ。
「これは、災難でしたね」
「……その口ぶり、まさか!!」
「では約定通り、ビーストの領域をいただきます」
「――!」
「馬鹿なことを言うな!! サキュバス!」
ケンタウロスは驚き、アラクネが抗議する。
成程、サキさんが言った最後の仕上げって、こういうことだったのか……。
しかも、書面に書かせたのもこのため……サキさん、もしかしてこれを読んでいたのか?いや、それにしちゃ出来すぎだ。
まさか、勇者達にビーストの情報を流してたんじゃ……。
「出来ないのであれば、仕方ありませんね」
サキさんはそう言って、空中に指で文字を書き始める。
すると赤い文字が指先から浮かび上がってきて、突如、長机の上に不思議な模様が出現した。
「――貴様!」
「言ったはずですよ。この書面上、正式な手続きを経てビーストは領域を失う。この行為には、他の四天王も口を挟めません」
「だが、これは他の四天王にも!」
「ケンタウロス様は、本当に純粋な方ですね。あなたが獣臭くなければ私の好みですけど……生憎、思慮のない殿方は嫌いなので。
――ああ、そうでした。四天王の件は嘘ですよ。公開しておりません。むしろ、我々は協力して他の勢力の妨害を阻止していますから」
サキさんがにこやかに真実を告げると、ケンタウロスは顔を真っ赤にして武器を取った。
「き、き、貴様あああああ!!」
「魔王様、自分の後ろに!」
「あ、ああ!」
セイレちゃんの声に頷き、俺は彼女の後ろに移動する。
「ミノタウロス!!」
「はいっ!!」
ガシイイン!
サキさんの指示でミノ子さんは飛び出し、迫りくるケンタウロスの剣を鈍器で打ち払って見せた。
「ミノタウロス、邪魔をするな! サキュバスを止めよ!」
「させません!! てやあああああ!!!」
ブオオオンッッッ!!
ケンタウロスと幾つか打ち合い、ミノ子さんは動き出しているアラクネやポイズンハニーも巻き込むような勢いで鈍器をぶん回し、突風を起こして彼らを近づけさせない。
「――このっ!」
「ケンタウロス、あなたではわたしと渡り合うことはできても、倒すまではできませんよね!」
「――!?」
ドゴオン!
ミノ子さんの鈍器がケンタウロスをとらえた。
「ケンタウロス様! おのれ……ミノタウロス!!!」
ケンタウロスが痛みに悶えて後ずさる中、アラクネを筆頭に他の魔物たちも襲い掛かってくる。
「ミノ子さん……!」
「りやああああああ!」
そこからのミノ子さんは凄かった。波状攻撃を仕掛けてくる魔物の塊を相手に、一人で捌いていく。華麗でいて力強く、誰も彼女へと一撃を浴びせることができない。
そうしてミノ子さんが他の魔物を抑えている隙に、サキさんはすべての準備を終えたようだ。
「これで終わり。ミノタウロス、下がって!」
「わかりました!!」
サキさんの指示でミノ子さんがこちらへとバックステップする。
「まずい……」
ケンタウロスは絶句するような表情でサキさんの描いた模様を見ていた。
一体何が起こるのか、描き出した模様が今度は真っ赤に光り出し、赤黒い稲妻がほとばしる。
すると模様が輝きだし真っ黒な球体が現れ、その中からは見慣れた魔物たちが現れた。
「魔王様あるところに、我がある。護衛衆が一人デュラハン、参りました」
「フェニちゃんが助けに来たお~~!!」
「うふふっ、仕上げは上々といったところですわね。サキュバス様、ご苦労様ですわ」
「みんな……!」
護衛衆のデュラハンさん、フェニちゃん、雪女さんが一斉に出現し、会議室が騒然とする間もなく、デュラハンさんはケンタウロスに剣を突き付けた。
「やはり、転移術の類だったか……」
半ば降参したといった様子のケンタウロスはその言葉を吐いて手を挙げる。
周囲にいたケルベロスやポイズンハニー、アラクネも、一瞬で雪女さんに凍らされ、身動きが取れない状態だった。
この会議室は、この一瞬で完全に制圧された。
それを見て、サキさんがこちらを見てくる。
「魔王様、全ての準備は整いました」
「ど、どういうこと?」
「現状、外から助けが来ることもなく、我々の完全勝利となりました。さらに約定上、領域を失うのは確定。ビーストは領域を失えば、全滅するでしょう。これ以降の決定は、魔王様が自ら……」
「……!」
そうか……魔王だもんな。
本当なら請け負いたくない。でも、魔王として判断を下す必要があった。
「ミノ子さん、いいかな?」
「はい。拘束された時点で、わたしの居場所はここにありませんから」
強い眼差しで言い切られると、答えなくてはならないか。
サキさんが頭を下げてくる。
行かないと……。
俺はセイレちゃんとミノ子さんに護られながら、剣を突き付けられたケンタウロスの目の前にやってくる。
「ケンタウロス、最後に望みを聞こう」
「……? 変なことを言うじゃないか。望みは一つ……ビーストの生存だけだ」
こいつも、モテマッチョだけど王なんだよな。俺と同じ立場というわけか。
「領域は我々のものだ。貴様は独断専行の末、我が名を汚した」
「……」
これはいわば、部下の失態。
俺が失敗した時は、罵倒の嵐だったな……。あんな上司にはなりたくないって、何度も思ったけど、結局は上司になることなんてなかった。
ビーストは反対勢力。手元にあっても有益ではない。
しかし、四天王の力が強大なことも確か。手放すには惜しいが、同時に俺の命を狙い続ける。
じゃあ、これしかないか。魔王っぽくないけど、これがいいだろう。
「ビーストについてだが、条件を出そう」
「条件?」
この言葉は、ケンタウロスだけでなく、サキさんたちからも注目されていた。
ここから先は俺の決定。
独断。偏見。価値観。義務。その他諸々を混ぜこんだ、魔王の決定。
「獣型高位種族の族長達を人質として魔王城の牢に入れる。もしも他のビーストが裏切った場合、これらの族長を公開処刑し、後にビーストも壊滅させるものとする」
『―――!?』
「この条件であれば、ビーストの生存を許そう。しかし、これ以外の場合は、この瞬間にビーストを滅ぼすこととする。どうだ?」
それを提案すると、ケンタウロスは驚いたような表情を見せ、深々と頭を下げてきた。
「その条件、受け入れさせてください。ビーストを存続させるために」
「ケンタウロス様……」
アラクネの悲しげな声が耳に届くと、なんだか悪いことをした気分になる。
でも、こうするしかないよな。
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こうしてケンタウロスの一言により、完全に魔王が勝利することとなった。
サキさんと雪女さんが、先程の転移魔法を使ってビーストの高位種族長を引率することとなり、とりあえずそれを遠目に見ていると、ミノ子さんが頭を下げてくる。
「魔王様……ありがとうございます」
「え、えっと、よかった?」
「はい。やはり、魔王様はさすがです! ビーストは族長制度と階級を重んじる種族ばかりですから、高位の種族長を人質とすれば逆らう勢力は出てこないはずです!」
「ミノ子さん……」
「そ、それに、魔王様がビーストのことを考えてくれて、すごく嬉しく思ってしまう自分がいて……だ、駄目ですよね。ビーストを抜けた身なのに」
「……そんなことないよ。自分の仲間が大事なのは、変じゃないでしょ」
「魔王様……! わ、わたし、一生ついていきます!」
「ありがとう……」
大袈裟だけど、なんか嬉しいな。
他のみんなは、どう思ったかな。
そう思い、俺は近くにいた彼らに訊ねることにした。
「ど、どうだったかな。デュラハンさん」
「さすがの一言かと。我であれば、全滅の一択ですから」
もっとすごい人がいた。
「フェニちゃんも同じだよ。生かしておくなんて思わなかったなぁ。でもねでもね~~、その方がいいかなぁって思うお」
「あ、あはは」
「自分も、いいと、思います。ビーストの戦力、失わなくて、すみます」
「セイレちゃん……」
「あの、この方が、今の魔王様、らしいと思います」
今の魔王様、か。
俺、魔王やれてんのかな……。
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「……」
「仕事中ですわよ、サキュバス様。いくら自分の部隊を呼んだからって、当主が怠けるのはどうかと思いますわね」
「――!わ、わかってるわよ」
ビーストを上から支配していた獣型高位種族の魔物。
その指導者たる族長を魔王城に送るため、先程描き出したゲートと呼ばれる転移の結界からサキュバスの部隊を呼び、魔王城のメイドとして働いている彼女たちの力を借りて、誘惑の力による統率を行っている。
その最中、サキは顔を火照らせながら、魔王様を見つめていた。
「確かに……今の魔王様の方が可愛いですわよね。あたしは断然、こっちの魔王様が好みですわ」
「か、可愛いって……」
「そういう視線でしたわよ。……なんとしても、あたし達が護らないと、ですわね。あの方なら、魔界を統べる当主にふさわしいですもの」
「雪女……あんたがそう思ってるのは意外だけど、その通りね」
新たな魔王、彼の成長を見守るように、二人は遠くから彼を見つめていた。




