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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第三章 「社畜魔王、会談する」
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第三章10 『会談、戦場と化す。』

【2017年9月30日改稿。読みやすく改良致しました。】

 

 会談は破綻した。というか、ビーストが一方的に破綻させた。

 ビーストの魔物たちに囲まれて絶体絶命だった魔王は、消息不明になっていたミノタウロスの援軍により、劣勢を覆す。

 会談は、戦場と化していた。



 迫り来る魔物を剣で払いのけ、サキさんやセイレちゃんと共にミノ子さんの合流を待つ。

 するといくらか経ったところで、ミノ子さんが周囲を蹴散らしながらやって来た。


「魔王様!! ご無事ですか?!」

「――っ!」


 ミノ子さんが合流すると、連中は攻撃の手を止める。


「ミノ子さんこそ、大丈夫だった?」


「はい……ですが、ビーストに話し合いの意思はありません」


「うん。そうだね……」


 ミノ子さんが合流し、俺とサキさん、セイレちゃん、ミノ子さんの四人で背中合わせに固まる。


「ミノタウロス様、今まで、無事、でしたか?」


「はい、無事ですよ。セイレーンさん」


「よ、よかった、です」


「二人は魔王様をお願い」


「「はいっ!!」」


 サキさんが指示を出すと、彼女は一人でケンタウロスの前に歩いていく。


「サキさん?!」


「大丈夫です。このまま争えば、我々の敗北。次の一手で覆して見せますので、お任せください」


 そんな自信たっぷりに言われたら、頷くしかないよ。


「……わかった。任せる」



「ありがとうございます。では、ケンタウロス様、話し合いを再開しませんか?」



 サキさんの言葉に、ケンタウロスは持っていた剣を彼女の鼻先に突きつける。


「この状況で何を言うかと思えば……」


「これは、最後のチャンスですよ?」


「……生憎、こちらの有利に変わりはない。あなたの提案に乗る必要はないと思われる」


 ケンタウロスが余裕の表情で言い切った。

 それを聞いたサキさんの表情はこちらからは見えなかったが、次の言葉でサキさんがどのような表情をしているのか予想がついた。



「――では、ビーストは魔王様に逆らった。この事実を認めるのですね」



「認めるもなにも……この状況を把握できないのか? お前たちは、我々に蹂躙されて終わる。たった四名で何ができると言うのか、教えていただきたいですな」


 挑発的なケンタウロスの言葉に、アラクネや他の魔物たちはクスクスと笑いをこぼし始める。


「元を辿れば、あなた方がミノタウロスを騙すからこうなるのだ」


「だ、騙すだなんてそんな!」


 隣でミノ子さんが抗議するも、奴の耳には届いていない。


「ビーストはこの時をずっと待っていた。今こそ、ビーストが魔物の頂点に立つ第一歩なのだ!! さあ、これでわかっただろう? ミノタウロス、すぐにこちらに戻ってくるのだ!」


「わたしは――」


 ミノ子さん……。


「わたしは、あなた方の元に戻ることはありません。それは絶対に変わりません」


「今はそう言っているがいい……。だが考えても見ろ。お前の返答次第では、魔王を生かすこともできるのだぞ?」


「――!」


 まずいな。ミノ子さんに揺さぶりをかけてきてる。

 この状況、素人の俺から見ても絶望的。

 ここでさらにミノ子さんが従ってしまえば、決定的となるはずだ。だからこのタイミングでケンタウロスは動いた。


 明らかに、たった四名のこちらが不利。

 しかし、他の魔物たちは構えるだけで動いていない。


 つまり彼らにとって、ミノ子さんは最重要人物。


 特に王様……あのモテマッチョからすれば、ミノ子さんがいなくなれば、それこそ種族を絶滅させてしまいかねない事態に発展するのだろう。


 だからケンタウロスの事前の命令でミノ子さんには攻撃できず、こうした膠着状態となっていると見える。

 向こうの算段では、ミノ子さんがこの場所に来る予定ではなかったはずなんだ。

 それにサキさん……彼女が意味なく話し合いの再開を望むはずがない。


 俺がこの状況に頭を悩ませていると、不意にサキさんが言葉を紡いだ。



「認める、ということは我々に宣戦布告するということですか?」



「あんた何言ってんだい? この状況を見たらすぐに――」


 アラクネが思わず口に出す。ケンタウロスや他の魔物も同様といった雰囲気だが、サキさんは一人、雰囲気に流されることなく、淡々と言葉を口にしていった。


「はい。誰の目にも、わかるでしょうね」


「??? 何を企んで――」



「言い忘れていたことがあります。実はこの会談の一部始終を他の四天王の方々にも知っていただきたかったので、事前に日時をお伝えしてあります」



「……!? いま、なんて」


「ですから、他の四天王の方々も会談の日時を――」


「この会談の日時は、非公開にする公約だったではないか!!」


 ケンタウロスが物凄い迫力で怒鳴る。


 しかしモテマッチョの言うとおりだ。

 この会談は日程を明かさないことが前提条件だった。


 そうしなくては魔物たちの中に投影術を使う連中もおり、会談の様子が盗み見されてしまうからだ。これは両者にとって不利益になるとして、ビーストが提案してきた。


 だが、公開したなんて話、聞いてないような……。



「確かに、ビーストの方々との親睦や信頼関係の構築のためにも、公約は守られるべきものでした。

 しかし、それでは魔界の長たる我らの王、魔王様の器が小さきものと思われてしまいますから、勝手ながら日時を伝えておりまして……どうしました?」



 サキさんはケンタウロスの顔を窺う。

 モテマッチョは先程までの威勢のよさを失っており、頭を抱えるようにしていた。


 それもそうか。


 本当に四天王に会談の一部始終を見られていたとすれば、ビーストが俺たちを倒したところで、他の勢力は大義名分を得てビーストに宣戦布告できる。


 何故なら、今回のこれはビーストの騙し討ちにも等しい行動だからだ。


 加えてビーストの野望も包み隠さず知られてしまえば、他の四天王も黙っていない。

 ここに魔王を支持していた連中も加わり、ビーストが勝ち残る可能性は皆無。待っているのは絶滅のみ。


 そもそも、今回の会談を秘密裏に行おうと提案してきたのはビースト。この時点で彼らの交渉に対する意思が薄いことはとっくに知っていた。

 彼らはきっと、ここで魔王を潰して一気に魔王城に攻め入ることで奇襲を成功させ、他の四天王を出し抜き、魔王の領地を獲得してから着実に魔界支配を進めていくつもりだったのだろう。


 しかしその計画も、この会談が筒抜けとなっていた場合、成功しない。


「おい、すぐに確認を――」


 ケンタウロスが周りの魔物に確認を取ろうとすると、サキさんがすかさず口をはさむ。


「なにを焦っておられるのですか?」


「――!」


「もうすでに遅い……ですが魔王様は寛大な御方。この時点で武器をしまい、交渉に再び応じるのであれば、ミノタウロスを捕縛した行動も水に流し、これまでの言動も聞かなかったことにしてあげましょう」


「そ、それでお前たちにメリットは――」


「あります。殺されずに済みますから。それに、ここであなた方が忠節を誓えば、我々としても強力な戦力を失わずに済みますし」


 サキさんは息を乱すことなく、淡々と嘘を続けている。


 はっきり言って、四天王に日時を開示するのはこちらにとっても得策ではない。それはビーストとの公約を破ったこととなり、魔王の不徳が目立ってしまうからだ。


 普通に考えたら、なんとなくわかる。

 だが連中は他の四天王と比べて知能が低い。

 唯一高いと言われるケンタウロスも、この状況下では冷静な判断も難しそうだった。


「魔王様、どうでしょうか?」


 サキさんが決め手を見つけたのか、振り返る。



「ああ、そうだな。我々としても、ビーストを信じようではないか。それこそ、これからの忠義を見せるというのであれば、ミノタウロスの件、熟慮してもよい」



「ま、魔王様っ!?」


 ミノ子さんが驚いているが、ここはこう言い切る必要がある気がした。


 サキさんがこれまでの会議で散りばめておいたピースを、無駄にするわけにはいかない。

 度々口にしてきたミノ子さんのことは、きっとこのための布石だ。


「異存があるのか?」


「――! ……いえ、ありません」


 こちらの顔を見て、ミノ子さんが気付いたのか、口裏を合わせてきた。


「(これでいいの? サキさん)」


 サキさんを見ると、頬を染め、うっとりとこちらを見ている。


「(さすが魔王様です……本当に、食べちゃいたいです)」


 ゾクゾクする視線を浴びせられている。

 ど、どうやら、正解だったようだ。


「…………そ、そうとあれば皆、武器を下げよ」


「ケンタウロス様! よいのですか?!」


「我は王。お前たちを無駄に失うわけにはいかん。このままでは他の四天王に踏みつぶされ、ビーストは絶滅してしまうだろうからな」


 ケンタウロスがそう言って連中を下がらせる。


 本当に、これでよかったのだろうか。

 命は助かったけど、釈然としないというか、会談には負けたような気がする……。

 それに、こんな事態を許してしまえば、それこそ隙ができて同じようなことが頻発するんじゃ――。


 などと勝手に危惧していると、満足げにサキさんが戻ってくる。


「ありがとうございます。魔王様、それにミノタウロスも」


「え、あ、はい……」

「サキさん、これって――」


「そろそろ、最後の仕上げになりますよ」


 そう言ってサキさんはかつてない程、悪い顔をした。










 そう言って不敵に笑うサキさんは、とてつもなく頼りになった。

 そして数分後、俺は知ることとなる。

 裏で画策されていた、衝撃の決め手を――。


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