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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第三章 「社畜魔王、会談する」
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第三章9 『会談、騒然とする。』

【2017年9月30日改稿。読みやすく改良致しました。】

 

 ビーストとの会談が始まった。

 しかし、魔王側の追及は強引な手段で払いのけられ、流れもつかめないまま、会談が始まってしまう。



「今回の会談、人間界への侵攻の件でしたな」


「はい。こちらからの指示もなく、独断専行に走るのは魔界にとって有益ではありません」

「魔界にとって……それは魔王様にとって、の間違いでは?」


 ケンタウロスとサキさんが舌戦を繰り広げる中、ビースト優位の会談が続いていた。


「我々ビーストは、魔界四天王の一角。もちろん他の四天王同様に魔界第一主義を掲げております。

 此度の侵略、成功すれば魔界の勢力拡大に存分に貢献できる。魔王様が掲げた魔界計画の一つ、魔界の拡大という点に反していないでしょう。我々が追及される理由が分かりませんな」


「確かに、成功すれば貢献できます。しかし、失敗した場合――」


「ありえませんな。秘密裏に動かしておりますので、まず人間たちは気づくことすらできないでしょう。哀れな人間どもは、成す術なく蹂躙される」


「その根拠は?」


「簡単なこと。夜襲を仕掛けるよう指示をしております。獣型の魔物は夜に強い。人間では我々を視認することすら困難でしょうな」



 つまり、ビーストは今回の侵略に絶対的な可能性を見出していると主張しているのか。

 こういう論議を崩すには、失敗するのが一番だけど……。


「では、失敗した場合はどうするのでしょうか?」


 サキさんが追及すると、ケンタウロスは「やれやれ」とわざとらしく言った。


「まあ、ありえませんが……失敗した場合は、魔王様の名を汚したことになります。ビーストは責任を取るでしょうな」


 随分な自信だ。

 ここまで言えるってことは、成功は確実か?

 だが、サキさんは追及をやめようとせず、ケンタウロスを睨む。


「責任とは、どの程度のものですか?」

「そこまで言う必要はないでしょう。言っても、意味がない」


「いえ。ビーストとは今後も良好な関係を続けていきたいと思っていますので、こういった責任内容の如何によっては、四天王の中でも優遇する可能性があります」


「ほう……魔王様の秘書が、そんなことを口にしますか」


「ええ。忠義の厚い者を魔王様は見捨てません。あなた方の要求次第では、ミノタウロスが戻ることも検討いたします」


「――!」


 サキさんがとんでもないことを口走ってる。

 いや、でも……考えがあるはずだ。


「そ、そうですか。……失敗した場合でしたね」



 この交渉は、ケンタウロスに分がありすぎる。

 彼らは今回の作戦が失敗しないと踏んだうえで、強気な意思を表明している。

 対してこちらは、失敗した可能性を考え、その際の責任の取り方をビーストに問うことで忠義を推し量るつもり。

 そして、忠義の次第によっては護衛衆を引き渡すと言っている。

 こんなの……。



「(魔王様、心配しないでください)」

「――!」


 サキさんは目線をケンタウロスから外さず、口も動かさず、こちらに語りかけてくる。

 いったいどうやって。と訊ねる間もなく、彼女はチラリとこちらを見た。


「(あくまでも、検討ですから)」

「……」


 そういうことか。


「まだ決まらないのですか? これでは、忠義がないものと思えますね」


「ま、待ってくだされ。我々の忠義は本物ですぞ」

「そうですか。では、お聞かせください」



 急かすことで、慎重に判断できないよう仕向けているのか。


 ビーストは、この場で俺の命を狙っている可能性が高い。これは、昨夜の件やミノ子さんの件を総合した結果、憂慮すべき高確率の可能性だ。


 だが、そんなことをすれば他の勢力に隙を与えてしまう。

 魔王を支持していたと主張し、第二の魔王になるべく、四天王たちが動くことも考えられる。


 だから、そんなリスクを背負うことなく、魔王の側近であるミノタウロス族を引き戻すことができれば、敵を安易に増やさず勢力を拡大することも夢じゃない。



「で、では……ビーストの領域を半分」

「半分ですか? 今回の作戦は成功するのですから、意気込みとしては低いですね」


「……すべて賭けてもいいですな」

「ケンタウロス様!?」


 ケンタウロスは、今回の戦いが成功する算段しかない。

 そんな中、失敗した際の責任の取り方を問われ、次第によっては莫大な信頼を得ることができると考えた。その結果、今のような信じられない責任の取り方を提案する。


「そうですか。書面に残していただければ、今後の活用ができますね。口頭での忠義よりも証拠となります」


「アラクネ、紙を持ってこい」


「で、ですが……」


「これは、魔王様の信認を得るまたとない機会だ。他の四天王を出し抜けるかもしれない」


「わかりました……」


 小声でやり取りをしていたが、内容は大体予想できる。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 数分後、アラクネが持ってきた紙に、ケンタウロスが先程の内容を書き込んでいった。


「では、お預かりしておきます」


「でしたら、早急にお願いします。ミノタウロスを……」


 彼らは、そこまでミノ子さん達、ミノタウロス族が戻ってくることを願っているのか。


 ここで申し出を受け入れれば、これは魔王の命令となり、ミノ子さんは意思に関係なくビーストに戻される。

 そうすれば現状、彼らの手によって消息不明とされたであろうミノ子さんの件は、何事もなかったかのように終わらせることができ、今後の影響もなくなる。


 よって、この会談はビーストの完全勝利と言える。

 そういえば、ケンタウロスはミノタウロスとの間に子供を作るって言ってたな。

 もしかしてケンタウロスの種族は、絶滅の危機なのか?


 そんなことを考えていると、ケンタウロスの言葉に、サキさんは妖しく笑って返答する。


「ミノタウロスの帰還は、難しいですね」


「――! は、話が違うではないですか!」



「誰がいつ、ミノタウロスを簡単に引き渡すと言いましたか?」



 ドンッ!


「それはサキュバス、あなたが先程――」


 ケンタウロスは机に手をつき、頭に血を上らせていた。


「検討ですよ。検討の結果、ミノタウロスを引き渡すことは難しいと考えました」


 サキさんがそう言い切ると、ケンタウロスは得意の白い歯を見せず、こちらを睨み付けてきた。


「……っ! やめだ」


「はい?」


「こんな茶番、もう終わりだってことさ!」


 そのままケンタウロスは怒りを露わにし、席を蹴飛ばして立ち上がった。


「魔王様!」


 即座にセイレちゃんが駆けつけ、俺の前に浮かぶと、剣を渡してくる。


「これを、使って、ください……!」


「ああ。セイレちゃん、ありがとう」


 キッと睨みつけると、ケンタウロスは笑みを携えていた。


「大体、我々が話し合いをするとでも思ったか?」


「ええ。思慮のある方々であれば、この選択に至るはずです。

 ありえないですが、仮に魔王様を倒すことができても、ビーストは三日と待たずに滅びるでしょう。魔界の王、魔王様を殺したことは大罪。他の四天王が断罪と大義名分を掲げてあなたを討ち取ります」


「――!」


「あなたもそれを気にしていた。ですから、先程の提案は喉から手が出るほどに魅力的だった。魔王様に取り入り、他の勢力の衰退を見てから行動しても遅くはないと」


「サキュバス風情が……随分と、余裕に理論を語るではないか。しかし、ミノタウロスがこちらにいる以上、連中にも勝てるはずだ」


「随分と甘い算段ですね。彼女が協力すると思うのですか?」


「お前たちを生かして捕らえれば、あいつは逆らえない。最初から、こうすれば良かったのだな。お前達の甘言を信じた我が浅かったわ」


 ケンタウロスは馬上から俺たちを見下ろすようにして、周りの連中に合図を送る。


「この状況で、生きて帰れると思わないだろう?」

「随分と集めましたね」


 周囲は取り囲むようにして、獣型を中心とした魔物たちに埋め尽くされている。出入り口も塞がれ、絶体絶命だ。


「さあ、終わりだ。魔王――!」



 ズドオオオオオオン!!!!



「――!? な、何事だ!」


 突然、轟音が響き、部屋の中が揺れる。


「ケンタウロス様、もしや!!」

「馬鹿な……ラミアが見張っていたはずだ」


 音が途切れることなく数回続いた。最初は遠くだったが、段々と近づいてくるようだ。


「扉を塞ぐのだ!! 早くしろ!」


 ケンタウロス達は騒然としている。

 しかし、何が起こっているのか不明のままだ。


「何が起きて……」

「魔王様、大丈夫です」


「――!」


 不安に駆られていると、サキさんが俺の手を握っていた。セイレちゃんも同様に、反対の手を握って目を見つめてくる。


「これは、きっと……」


「え?」



 ズダアアアアアアン!!



「うわ、なんなんだ!?」


 これまでで最大の破壊音で、会議室が大きく揺れる。

 そして音の方向を見ると、さらに轟音がもう一度鳴り響き、扉が吹き飛ばされた。



『うわああああああ!!』



「陣形を整えよ!!」


「――あれは!」


 魔物たちが扉と共に吹き飛ばされ、混乱が起こる。ケンタウロスの怒声が響き渡る中、煙の立った渦中に彼女の姿があった。

 嬉しさなのか、驚きなのか、その姿を見つけて俺は彼女の名を叫んだ。



「ミノ子さん!!」



 そう呼びかけると、獣の魔物に囲まれながら鈍器を振り回し、周囲を蹴散らしてから彼女は笑顔を向けてくる。



「魔王様!! お傍付き護衛衆が一人ミノタウロス! 遅ればせながら参上いたしましたあああ!!!」



「ミノタウロス……どうして…………ええい、魔王を討ち取れば終わるのだ。ここでビーストの天下を取れ!」


 ケンタウロスが命令すると、獣の魔物が一斉に襲い掛かってくる。


「魔王様、こうなれば会談は無理です。とりあえず、ミノタウロスの合流までは耐えるしかありません。ミノタウロス! こちらへ急ぎなさい!」


「わかりました!」

「通しませんよ、王妃様!!」



「邪魔しないでくださいッッッ!!」



 ドゴオオオン!!


 ミノ子さんは立ちはだかる魔物を蹴散らしながら進んできている。それを見て、俺も剣を握りしめる手に力が入ってきた。


「魔王様、大丈夫ですか?」


「ああ。平気だよ」


「魔王様……」


 俺は、ここで死ぬわけにはいかない。

 剣を構え、来る襲撃に備えた。










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