第三章8 『憤怒、ミノ子さん。』
【2017年9月30日改稿。読みやすく改良致しました。】
会談はビーストのペースで進んでいた。
そして一方、ここは大樹の地下。
檻が並んでいるだけの部屋。罪人を閉じ込めておく罪人部屋だ。
「ううん……」
「目を覚ましたようだね、王妃様」
「――!? ラミア!! ……くっ!」
ミノタウロスが目を覚ますと、両手両足を鎖で縛られ、檻の中に入れられていた。
檻の外には半身半蛇の魔物、ラミアがいる。彼女はビーストの中でも高位に位置付ける信頼を置かれた魔物で、檻の番をするような役割ではない。
「ここ……罪人部屋ですか?」
「そうだよ。今頃は、魔王どもがケンタウロス様に圧倒されている頃かねぇ」
「……! (そうだ、わたし……ケンタウロスに。サキュバス様の予想通り……ビーストは交渉する気なんてない)」
昨晩の記憶が蘇り、ミノタウロスはガチャガチャと手足を動かそうとするが、力が入らず、鉄の鎖を破壊することすらできない。
「無駄なことはやめなよ。今のあんたはポイズンハニーの毒針の影響で身動きが取れない。こうして意識を取り戻すのも、本当ならありえないのさ。あんたみたいな規格外の魔物じゃなきゃ絶命しててもおかしくない」
「ここから出して。魔王様が危ないの!」
「そうするために、あんたを拘束したんだ。あんたがいたら、計画が進まないからね。あたしはあんたの見張りってわけさ」
「……計画?」
「そうだよ。魔王の座を奪うのは、我らがケンタウロス様さ」
「何を言って……あなた方が魔王様に敵うわけない」
「今までの魔王なら、そうだろうね」
その言葉に、ミノタウロスは肩を震わせる。
「やっぱり、魔王は本調子じゃないってことね。そこに目を付けたのさ」
「どうやって、それを……」
訊ねると、ラミアは器用に自身の蛇の身体を操り檻の隙間を縫うように通してきて、ミノタウロスの首元に尻尾を絡めてくる。
「――っ!」
「簡単よ。噂を流す魔物がいたの。あなた方の仲間に――」
「え……」
「うふふ。楽しみね。魔界を統べるケンタウロス様のお姿、早く拝見したいわぁ」
「(どうしよう……。このままじゃ、魔王様が! 魔王様が!)」
この瞬間――ラミアの声は耳に入らず、魔王の顔ばかりが頭をよぎっていた。
特に、最近の魔王の顔ばかりが浮かんでくる。
前と違ってよく笑い、気軽に話しかけてくれて、頼りにしてくれて……初めて、ミノタウロスの作ったミルクティーを飲んでくれて、心から喜んでくれた。
今の魔王と以前の魔王……全く違う存在だけれど、いつの間にかミノタウロスは心からの忠誠を今の魔王に誓っていた。
魔王様を、護らないと……。
邪魔するなら、同族でも容赦しない。
絶対に、護る!!
「ラミア、檻から出してください。お願いです」
「?? 何を言ってるの? そんなの――」
「でしたら、自分から出ますね」
「――!」
バキバキィッ!
「そんな……ポイズンハニーの毒針は全身麻痺の猛毒よ? こんな短時間で回復するはずないわ!」
「魔王様は、ビーストに殺させません」
「――このっ!」
ラミアが尻尾を伸ばしてくるが、ミノタウロスはそれを悠々と避け、檻を両手で掴んで一瞬でへし曲げると、そこから抜け出てくる。
「……あなたの尻尾も、同じようにしてあげますか?」
「そ、そんな脅しに屈しないわよ。ラミアはビーストの柱さ。ケンタウロス様の計画を邪魔させるわけにはいかないのよ!」
「そうですか」
ミノタウロスは静かに燃えていた。いつもの柔和な雰囲気は消え、目に炎を携えているような鬼の迫力。ラミアもこれには全身が硬直して動けない。
「邪魔をするなら、倒すのみですね」
「な、なにを……」
メキメキィッッ!!
「――!?」
ミノタウロスは鉄の檻をもう一度掴み、手頃な長さに破壊し、それを手に持った。鈍器の代わりだ。
「魔王様を、助けるんです」
静かに、ミノタウロスはラミアを睨み付け、そのまま踏み込んだ。




