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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第三章 「社畜魔王、会談する」
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第三章4 『ミノタウロスについて』

 

 ビーストとの会談に向けて彼らのことを調べていた俺は、部屋に突然やってきたミノ子さんを歓迎し、二人きりとなった。

 ビーストを調べていて疑問に思ったのは、ビーストが代々、ケンタウロス族を王にし、ミノタウロス族を王妃にしてきたこと。それが本当だとすれば、彼女がここにいる理由がわからない。

 こればかりは、本人に訊ねるしかなかった。



「魔王様、どうぞ」

「ありがとう。ミノ子さんも座ったら?」

「で、ですが……」

「魔王が許す。ふふっ」

「……! は、はい!」


 ミノ子さんの淹れてくれたミノタウロスブレンドのミルクティーをもらい、彼女を肩を並べてベッドに腰掛ける。


 ちなみに、このミルクティーは「少し、待っていてください~」と言って、部屋に常備されているカップと紅茶を持って更衣室に行ったミノ子さんが、数分してからカップに注いで持ってきたものだが、深くは考えまい。

 考えると、つい視線が……。


「魔王様」

「はいっ!」

「……? ど、どうかなさいましたか?」

「いや、なんでもないよ」


 隣でフワフワと揺れるものに気を取られないよう、頭を振り、彼女の話に耳を傾ける。


「えぇと、どこから話したらいいか」

「そうだなぁ……」


 ここは直球で訊いてみよう。


「ミノタウロス族を率いてるミノ子さんは、どうして魔王の護衛衆になってるの? 調べたんだけどさ、ビーストって代々、ケンタウロス族とミノタウロス族で支配してきたんだよね」


「その通りです。そうですね……その辺から説明すると、えっと、これは……わたしの我儘なんです」


「我儘?」


「はい。あ、どうぞお飲みください。話は長くなりますから」

「あ、うん……いただきます」


「……」


 すごく見られてる。凝視されてる。

 いただきます――とは言ったものの、カップを持ちあげる途中、手が止まった。

 ただのミルクティーのはずなのに、なぜか顔が熱くなる。

 これ、あれじゃないんだよな。

 見たところ、ミノ子さんって乳牛だけど……いや、失礼な妄想だった。


 では一口……。ごくり。


「――!」


「お、お口に合いましたか?」


「美味しい……すっごく美味しいよ! こんなの飲んだことないよ!」


「……! よかったです。上手く作れたか不安で……いつも自分で味見はしてるんですけど」


 なにその意味深な発言!


「ミノ子さん、そろそろ……」

「あ、それじゃあ話しますね」

「うん。お願い」


 危なかった。あれ以上は理性が危ない。まあ、そんな勇気ないけど。



「ビーストは昔から、魔王様の仰っていたようにケンタウロス族とミノタウロス族によって支えられてきました。


 元々、二つの種族の結束は固く、ビーストは安定的に支配されていました。

 ――というのも、ケンタウロス族は男性しか生まれず、ミノタウロス族は女性しか生まれない種族で、これまで二つの種族間結婚によって種を保ってきたため、他の獣型よりも結束が固いのです。


 当然、わたしも父はケンタウロスで母はミノタウロスです。

 でも、母は普通のミノタウロスではなく、先代の王妃でした。


 わたしは幼い頃から、後継者として母に育てられてきました。

 ミノタウロスの強さを示すのは力と胸の大きさで、私は成長するにつれ、族長を継ぐにふさわしい体格を得ていきました」



 力と、胸の大きさ……確かに大きい。


「ま、魔王様。そんなに見られると恥ずかしいです……」

「あ、ごめん」


「……胸、好きなんですか?」


「そういうわけじゃ、ないけど」

「そうでしたか」


 なんでガッカリしてるんだ……?


「話を戻しますね。んっ」


 ミノ子さんは少々落ち込み気味だったが、咳払いして話を戻す。


「月日が経過し、父が亡くなり、母は病気で床に臥せることになりました。

 わたしは次期族長、次期王妃という役目を期待されていましたから、倒れた母の代理として王妃の務めを任されることになり、そこでこれまで知らなかったことを知ったんです」


「これまで知らなかったこと?」

「はい。ビーストの支配を、直に目撃したのです」


 確かさっき本で読んだな。

 ビーストは暴力的な階級支配で、一括りにビーストと呼んでも上層のケンタウロスと下層のオークでは住む世界が違う、完全な格差社会だったはずだ。

 今でこそオークは魔王の配下として重用されているが、それまではこうもならなかったのだろう。



「下級の方々は、凄惨な扱いでした。わたしはそれを見て、疑問を抱いてしまったんです」


「疑問……それは、自分が優遇されること?」


「……そうです。もっと言えば、不思議でした。どうして同じ獣型の魔物なのに、ここまで差があるのかなって思ってしまって」


 それは、人間も同じだったな。

 俺も、何度か嘆いたことがあった。


「そんな時でした。数名の魔物――サキュバス様や雪女様たちを率いて、魔王様がビーストの領域にやってきたのです」


「……!」



「突如やってきた魔王様に交戦の意思はなく、魔物が平等に暮らせる『魔界計画』を説明し、ビーストの協力を求めに来たのです。

 しかし王であるケンタウロスはそれを拒み、魔王様は帰ってしまいました。でも、わたしは魔界計画を聞いて震えました。わたしの理想とする世界を実現しようとされる魔王様に、感服しました」



「もしかして、その時がきっかけに?」


「はい。母が亡くなり、正式に族長となっても、わたしは自分の意志でケンタウロスの王に嫁ぐことはせず、ミノタウロス族を伴ってビーストを離反しました。族長の命令は絶対なので、全員を引き連れて離反したんです」


「それが、我儘ってこと?」


「そうなります……魔王様に事情を話し、魔界計画に賛同し、わたしはお傍付き護衛衆となりました。その結果ビーストはミノタウロス族を失い、なし崩し的と言いますか……勢力維持のため、魔王様に賛同することとなったのです」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 口で語るのは簡単だけど、実際はもっと大変だったはずだ。

 ここ最近、ミノ子さんが緊張してる理由が納得できだ気がする。


「――以上が、わたしがここにいる経緯です。今の魔王様には、話しておきたくて」


「それで、部屋まで来てくれたんだ」


「はい」


「……今回の会談、いいの?」


「――!」


 彼女が護衛として付き添ってくれるのはありがたい。

 さらにビーストとの会談において、彼女の存在は良くも悪くも起爆剤になる。

 だけど、それは彼女の気持ちを無視していいものではない。

 もう一度、確かめておきたかった。知った俺が、訊ねておきたかった。



「怖い、です」



 呟くように、ミノ子さんがポツリと漏らした。


「裏切り者のわたしは、ビーストの上層からしてみれば、恨みすら覚える相手でしょうし」


「……」


「でも、後悔はしてないんです」


 そう言ってミノ子さんは顔を上げる。

 真剣な表情で、まっすぐに俺を見てきた。


「魔王様、あなた様がいれば、わたしは大丈夫です。わたしは、あなた様とともに新しい世界を見たくて、ここにいます。そのためなら、わたしは魔王様の矛にでも盾にでもなります!」


 普段は穏やかで、護衛衆の中でも話すことの多いミノ子さん。

 そんな彼女が、ここまで強い眼差しを向けてくるなら……上に立つ者として、信じないわけにはいかないだろ。


「……そっか。それなら見に行こう。まずはビーストを黙らせてからだね」


「魔王様……! はいっ!」


 ミノ子さんはそう言って笑った。

 それは最初に出会った時のような、柔和な笑顔だった。


 そしてついに、ビーストとの会談の日が近づいてくる。











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