第三章2 『ミノ子さんと話そう』
俺は魔王城の自室で、魔界四天王と呼ばれる勢力の一角「ビースト」との会談に備え、彼らについて記載された本を読み漁り、知識を溜め込んでいる最中だった。
数時間たった今も、誰も部屋に入れず、一人で黙々と本を読んでいる。
とりあえず、ビーストについてわかったことがある。
まず一つ、ビーストは獣型の魔物を中心に支配した集団で、王と王妃により治められており、野生溢れる彼らを束ねる王は、知恵と力を宿した獣の雄、上半身が人で下半身が馬の「ケンタウロス族」の族長ということ。
次に、彼らは森を好み、森林の奥深くを領域としているということだ。他の種族と比べて知能は低いが、身体能力は魔物の中でも高く、特に森の中の戦闘では彼らに勝るものはないらしい。
他にも色々と調べたが、特に気になることが一つだけあった。
とりあえず、魔王に相談してみるか。
『魔王、起きてるか?』
……。
やはり返事がないか。
ここ最近、やけに関与してこないとは思っていたけど、不自然なほどに魔王の声がしなかった。
もしかしてとは思うが、魔王とはもう話せないような気がしていた。
不思議なことじゃない。死んでいるはずの魔王と話せたことの方が不思議だった。
ただ、寂しさがないと言えば嘘になるが、こうなることも受け入れる自分がいる。
『別れくらい、言ってくれよ』
……仕方ない。
気になることは、本人に訊いてみた方が早い。
そう思い、俺は体を伸ばして席を立とうとする。
すると、扉の向こうから声が聞こえてきた。
「あの、デュラハンさん。魔王様に話があるのですけど」
「ならぬ。魔王様は一人にせよとのことだ」
「で、でも、どうしても伝えておきたいことがあって」
この声、ミノ子さんか?
声に気付き、俺は扉の方へと歩いて行った。より鮮明に彼らの会話が聞こえてくる。
ギギィッ。
「「魔王様、お疲れ様です」」
「ああ、いいよ。敬礼とか。……やっぱりミノ子さんだ。どうしたの?」
扉を開けると、ここを護衛していた首無しの騎士デュラハンさんの手前に、巨乳を揺らすグラマラスなビキニ姿の美少女。ミノタウロスのミノ子さんがいた。
彼女は耳を赤くし、尻尾を揺らしている。
「あの、魔王様。お部屋に、よろしいですか?」
「まあ、いいけど」
「本当ですか!? で、では、お邪魔します」
「どうぞ。あ、デュラハンさん。警備ありがとう。このまま続けてもらえるかな?」
「もちろんですが、よろしいので?」
「うん。ちょうど、ミノ子さんとは二人で話したかったから」
「な、なんだか懐かしいです」
「急にどうしたの?」
部屋に入ってくるなり、ミノ子さんは感慨深く、魔王の部屋を見回す。
「あの、魔王様がわたしと出会ったのは、あの時ですよね。わたしが当番制の護衛を担当していた……」
「そうだね。あの時だ」
あの時というのは、俺が魔王としてこの異世界に転生してきた時のことだろう。
最初に目覚めたとき、優しく介抱してくれたのが彼女だった。今思えば、雪女さんやデュラハンさんだったらどうなっていただろう。少しゾッとする。
「それで、どうしたの? 部屋を訪ねてくるなんて」
「はい。実は話しておきたいことがあって……」
そう言って、彼女は顔つきを改める。
その瞬間に分かった。俺が訊ねたかったことだ。
「ビーストのこと。かな?」
「――! 知っていたのですか? もしかしてサキュバス様からすでに?」
「そうじゃないよ。さっきまで調べてたから、ミノ子さんに訊ねたいことがあったんだ」
「……そうですよね。はい。わたしも、それを話しに来ました」
先程、ビーストについて調べていてもっとも疑問に思ったことがある。
それは――。
代々ビーストは、ケンタウロス族を王、ミノタウロス族を王妃として、その強大な力を維持し、魔界の大勢力として君臨し続けてきた。――ということだ。




