第三章1 『魔王、調べる。』
ここは魔王城の魔王の部屋。
魔界では、魔界四天王と呼ばれるビーストと魔王の会談が話題になっていた。
会談は双方の合意に基づき、日程を明かさずに行われる。どうやら魔界には投影術などを用いて盗み見ることも可能なようで、日程を秘密にするのは、それを防ぐための処置であり、これはビースト側の強い要望だった。
こちらもそれに同意し、今回の会談が組まれることとなった。
独断専行で人間界に攻め込もうとするビーストの行動は目に余るもので、魔王は彼らとの話し合いを選択した。ビーストも無碍に断ることはせず、会談が組まれたというわけだ。
そして魔王となった俺は今、ビーストと組まれた数日後の会談に向け、秘書のサキさんに頼み、様々な書物を用意してもらっていた。
「これがビーストに関する書物です。魔王城の図書室にあるもの、すべてになります」
「ありがとう、サキさん」
「い、いえ。ですが魔王様、本当にいいのですか?」
サキさんは心配そうに見つめてくる。
秘書のサキさんは、サキュバス。小柄な金髪美女で、角と尻尾がトレードマーク。そして、今日も大胆に小ぶりな胸元を見せつける刺激的な恰好であった。これは彼女の正装らしい。
「本当にいいって、なにが?」
「会談のことです。やはり、魔王城を離れるのは危険かと」
ビーストとの会談は、彼らの本拠地――四天王領域と呼ばれる場所で行われることとなった。
領域というのは、魔界を五つに分ける領土のようなものらしい。
各四天王の治める地域と魔王の城周辺。各領域内には、支配下の魔者たちが居住しており、生活環境や建物も異なってくる。
ちなみに魔王の領域は魔界の最果て。澄んだ毒色の空に、淀んだ空気が満ち溢れているのが特徴で、建物などは不気味なデザインで満ち溢れ、つい先日まで人間であった俺には不気味だが、魔物達にとっては快適な空間のようだ。
オーガ制裁の時は火山地帯に出向いたが、あそこは魔王城から近い魔王の領域の一部。
今回の会談は、俺にとって初の領域外での活動となる。
「危険なら尚更、サキさん一人に任せるわけにはいかないでしょ」
「――! ま、魔王様……!」
サキさんに告げると彼女は顔を赤くし息遣いも荒くなりながら、とろんとした瞳でこちらを艶かしく見つめてくる。
「さ、サキさん?」
「食べてもいいですか? それはもう、夜の闇の中で交わりながら激しく――!」
「え、えっと……」
「――! じょ、冗談ですよ。もう、魔王様ったら本気にしたんですか? ご要望なら、すぐにそう致しますけど……」
「あ、うん。冗談だよね」
冗談ということにしておこう。
サキュバスの本能なのか、たまにサキさんは今のような発言をするから、実は驚かなかった。
「あ、あの、もしお手伝いすることがあれば手伝わせていただけませんか? 魔王様はまだ魔界に慣れていませんし、サポートが必要では?」
「んー、今回は遠慮しようかな。サキさんにも仕事があるでしょ?」
「そ、それはそうですが」
「いざとなったら頼るから、大丈夫だよ」
「……! わ、わかりましたわ。外にいるデュラハンにもその旨を伝えておきますね。この部屋には誰も入れないようにと」
少し大げさな気がするけど……。
――ってか、今日から護衛当番はデュラハンさんなのか。どうりで雪女さんが出てこないわけだ。
「では、失礼しますね」
「うん。ありがとう」
サキさんは速やかに部屋を出ていき、一人となった。
あるのは大量の書物だけ。
「よし、やるか」
バキボキと指を鳴らし、さっそく取り掛かることにした。
ビーストについて、知っておくことがありすぎる。
俺は意気込み、さっそく、一つ目の書物を手に取った。




