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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第一章 「社畜魔王、誕生」
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第一章3 『敏腕秘書サキュバス』

【2018年1月19日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】

 


 俺は元社畜。

 黒すぎる職場に疲れ、駅のホームに全てを投げ捨てたのだが、謎の声によって異世界に転生させられる。

 だが、転生したはいいが、魔王となってしまった。

 そして突然、会議に参席することになったのだった。




 先程までベッドに座っていて気付かなかったが、全裸だった。

 会議に行くと言われて立つと、全裸を晒してしまい、これ以上ないほどの醜態を晒し、死にたくなった。


 その後、慌てたサキュバスさんに寝室から直通の更衣室を案内され、顔を真っ赤にしたミノ子さんは用意があるらしく寝室から出ていった。



 更衣室に入り、しばし悶絶したのは言うまでもない。



 更衣室は不気味なクローゼットだけの空間で、少し気味の悪い口の形をした姿見を使って魔王の装束に着替えると、かなり見映えがよくなっていた。

 黒を基調としたオシャレなマントつきの服を着込む自分は、何度見ても、自分のような気がしない。

 既に身体ごと変わってるけど、以前の俺なら安さ重視で、こんなファッション雑誌を飾る着こなしはしないからだ。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「こ、こほん。そろそろいいですか? 開けますよ?」


「どうぞー」


 遠慮がちなサキュバスさんの声に返事をする。


 ガチャリ。


 開かれた扉からサキュバスさんが入ってくると、彼女はこちらを見て目を丸くした。


「まあ、魔王様ステキです!」


「ど、どうも」


「…………」


 誉められたのは嬉しいのだが、サキュバスさんは、随分と熱心に、かつ恍惚な表情で舐め回すように見てきて、こちらが恥ずかしくなってきた。


「あ、あの。どうし――」


「食べちゃいたい……」


「え!?」


「あ、いえ。こちらの話です。さ、会議室に行きますよ。幹部を召集してあります」


「あ、はい」


 いま、すごく不安な一言を放った気がした。


 しかしサキュバスさんは、何事もなかったかのように、さっさと更衣室を出ていってしまったため、慌てて追いかけるしかなかった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「魔王様、お疲れ様です!」

「魔王様~!」


 サキュバスさんと共に歩いていると、どこでも挨拶されてしまい、魔王であることを実感してくる。


 しかし、ここに人間は一人もいない。人型の魔物は多いみたいだけど。


 出会うのは角の生えた一つ目の悪魔や、翼の生えた女性など、魔物のすむ魔界ということも肌で感じていたし、人間のことを訊ねるのは、自分の首を絞めるような気がした。それだけは、空気でわかる。


「下級魔物には、挨拶を返さないでくださいね」


「わかった」


 上下関係、縦社会、魔界は日本と似すぎてる気がする。


「魔王様、そろそろです」


 廊下を歩いていると、前方にいかにもな扉が見えてきた。


「いいですか? ここに集まるのは幹部ばかりです。くれぐれも、不用意な発言をしないようにしてくださいね。理由は先程話した通りです」


「わ、わかった」


 実は先程、着替えの前にも説明を受けていた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



『会議では、魔王様が記憶喪失であることを隠し通します』


『どうして?』


『幹部といっても、すべてが魔王様を慕っているわけではございません。もし、魔王様が記憶喪失だと知られてしまえば、よからぬ事を画策する者が現れるかもしれません』



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 あの時のサキュバスさんの表情は、冗談を言っているようではなかった。


 万が一、魔王軍の中で反乱が起きた場合は、徹底的に種族ごと根絶やしにするらしく、こういった部分は魔王そのものなのだが、そんな惨劇など想像したくもない。


 ただその反面、絶対に信用できる人達もいるようで安心した。

 サキュバスさんや、ミノ子さんがそうらしい。

 魔王の直轄部隊となっている種族は、謀反を起こすことはないようだ。

 例えば秘書や魔王のお側付き護衛衆がそれに当たる。


 そうやってサキュバスさんに教わったことを復習していると、前を歩くサキュバスさんが足を止めた。


「ここです」


 しかし今思うと、彼女は秘書なんだよな。

 秘書か……大物になった気分だ。


「ありがとう。サキュバスさん」


「…………」


「……え?」


 普通に礼を言ったつもりだが、なぜか半目でジトッと見られる。頬も少しだけ膨らんでいた。


「ど、とうかした?」



「私のことは、愛称で呼んでくれないんですね」



「は?」


「いいんですけどね。ミノタウロスだけ、ズルいというか。秘書のほうが立場が近いというのに、変というか……」


「はあ……」


 つまり、サキュバスさん以外の呼び方がほしいということだろうか。


「サキュバスだから、さ、サキさんでどうですか?」


「……! そ、それで!」


 気に入ってくれたようだ。こちらも呼びやすくて助かる。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「それでは、魔王様。いいですか?」


「大丈夫だと、思うけど」


 いざその時になると、少しばかり緊張してくる。


「大丈夫ですよ。秘書の私が、サキがついてますから」


 そう言ってサキさんは、髪を掻き分けてから唇に指を当て、自信たっぷりに笑った。


 幼げな顔立ちで、ミノ子さんとは比較にならないくらい胸も小さく、無理しているような格好なのに、雰囲気だけで惚れそうになる。

 サキュバスには男を惑わせる力があった気がするけど、こんな表情されて、ドキドキしないほうがおかしい。


 ようし! 俄然ヤル気出た!


「いこう」


「はい。魔王様のご到着です!」


 ギギィッッ!


 サキさんの声と共に扉が開くと、奥行きのある絢爛豪華な部屋が現れる。


 天井が高く、不気味なステンドグラスやシャンデリア、動く家具や浮かぶカップなど、さすが魔王の城というだけはあり、摩訶不思議の渋滞だった。

 そしてそこには、見た目と雰囲気だけで誰かを殺しそうな幹部達がズラリと起立しており、間違いなく俺を見ていた。


 すげえ迫力。


 そして、俺の席は遥か彼方。最奥に位置している。

 これを設計したやつは、魔王が幹部の真後ろを通って玉座に行けと言っているようだ。アホか。


「魔王様」


 サキさんに呼びかけられても声は出さず、頷く。


 なんとかサキさんの前を歩き、恐ろしい視線の雨を耐え抜くと、豪奢な椅子が置いてあるところまで来た。玉座だ。


 遠くからみるとおしゃれだったが、近くで見ると趣味の悪い蜘蛛のデザイン。前の魔王は、服以外だとセンスのない奴みたいだ。


 玉座にたどり着くと、後ろに五名の精鋭が控えており、そのなかには大きな鈍器を据えるミノ子さんの姿がある。

 先程とは全く違い、真剣な表情だ。

 おそらく彼らが、お側付き護衛衆だろう。

 美女揃いで、女性4、男性1で構成されている。


「魔王様、お座りください」


 玉座の手前で止まっていた俺に、サキさんが小声で促してくる。

 それに頷き、玉座に座った。


「――!」


 座ると余計に、彼らの迫力を痛いほど感じる。


「――では、魔王様がお座りになられたので、ご着席ください」


 サキさんの言葉の後、軍隊のような統率力で一斉に着席し、途端に雰囲気に飲まれそうになる。


 本当に、大丈夫かと不安になるが、やるしかない。

 それが、魔王になった俺の責任だ。



「これより、定例会議を行います」












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