第二章15 『勇者、寄り添う』
【2018年1月21日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
シュネーさんを町へと送り届け、その御礼に、僕らは彼女の家に招かれ、食事を頂くことになった。
「うっわ、うまそ~~!!」
エリカちゃんとシュネーさんの二人が作った料理は、調理開始から数十分後に運ばれてきた。
「おぉ、本当に美味しそうですよ。……? エリカさん?」
モルちゃんが何か気づいたのか、エリカちゃんに話しかけると、エリカちゃんは食事の前に話があると言ってきた。
「二人とも、聞いてほしいことがあるの」
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「――ってわけ。私は、行くべきだと思う」
話の内容は魔王の配下がこちらに攻めこむ準備をしているとのことで、エリカちゃんは一通り話し終えると、行くべきだと提案した。
――って、いやいやいや。
魔王の配下はヤバいよ。死んじゃうって。
「なるなる。わたくしは、反対ですよ」
まさかの、モルちゃんは反対のようだ。
「どうして? 魔王に近づけるのよ?」
エリカちゃんはそう言うが、どこかいつもの彼女とは違う様子で、焦っているように見える。
「エリカちゃん、落ちつこ? ね?」
「あんたは黙ってて!!」
「すんません……」
なんだ? どうしてこんな……。
いつもと雰囲気違いすぎじゃね?
「エリカさん、冷静に判断するです。わたくし達は、魔王を倒すために旅をしてるです。ここで勇者様が魔王の配下を倒した場合、魔王は一層、わたくし達を警戒するです。そうなれば、容易に辿り着けなくなりますです」
「つまり、モルは魔王軍の侵略行為を見過ごせって言うの?」
「そうは言いませんです。ただ、今のエリカさんは冷静には見えないですよ。エリカさんは、これが最善だと考えていますです?」
モルちゃんの言葉通り、普段のエリカちゃんなら、半ば強引でも、自信たっぷりに話す。
だが、今はどことなく変だ。
エリカちゃんの次の言葉に注目していると、彼女はやはり変な様子のまま、言葉を投げ捨てる。
「わ、私は行くわ。行くのよ! 助けるの!!」
ガタッ――!
「エリカさん?!」「エリカ?!」
吐き捨てるように叫んだかと思うと、そのまま立ちあがり、勢いよく出ていってしまった。
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「い、言い過ぎたです」
「そんなことないじゃん。心配してたんでしょ?」
「勇者様……たまには勇者っぽいのですよ」
「へへっ。見直した?」
「少しです」
「んじゃ、僕が迎えに行ってこようかな。荷物も持たないで飛び出して、今頃は恥ずかしさのあまりに赤面してっかもしれないし。んしょっと」
立ち上がると、シュネーさんが心配そうに見てくる。
「勇者様、すみません。あたくしが余計なことを口走ってしまい……」
「そんなことないさ。美しいものに罪はない。ま、ホストの実力を信じれば大丈夫だよ」
僕は、エリカちゃんを追って外に出た。
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案の定、エリカちゃんは遠くまで行っておらず、幸いにも変な輩にも絡まれていなかった。
彼女は近くの広場の街頭に背を預けて立っていた。
鎧を着こんでるから、遠目でもすぐにわかる。
「エリカちゃん、捜したよ」
「……なんであんたなのよ」
「残念でした。僕だよ」
「笑いに、来たの?」
そう言ってエリカちゃんが睨む。
しかし、いつもの迫力はない。
「そんなんじゃないさ。言い争いになって、気まずいかなって」
「ほっといて」
「いいや、ほっとかない」
「――!」
「だってさ、エリカちゃんがいなきゃ――」
「いなきゃ?」
「生きてけないじゃん! 僕ってエリカちゃんに養ってもらってるわけだし! 責任とってよ!!」
「……呆れた」
エリカちゃんはそう言ってガックリと俯く。
「あのさ、今回の件だけど――どうして行きたいの?」
「困ってる人を助けるのが、私たちの役目よ」
「ふうん」
「なによ? その目」
顔をあげてキッと睨まれる。
やっぱり、こっちのほうがエリカちゃんらしくていいじゃん。
「理由、それだけ?」
その言葉に彼女は口を開かない。
「それなら、僕はモルちゃんに賛成。だってさ、魔王に目を付けられたくないし」
「あんたは、それで平気なの?」
「何が?」
「ヘルリヘッセの惨劇が繰り返されるかもしれない! また、人が死ぬかもしれないのよ!」
「ちょっ、エリカちゃん声大きいって!」
エリカちゃんが叫ぶと、周りの注目を浴びていた。
「と、とりあえず場所移そう。ここじゃ――」
「勇者なら、助けてよ……」
ポフッ。
「……!」
エリカちゃんの手を引こうとしたが、彼女は一歩も動かなかった。
その代わりに、目に涙をためて僕を見たかと思うと、弱々しく僕を殴ってくる。
ポフッ。ポフッ。
何度も、何度も、痛くもない拳を身体に当ててくる。
「エリカちゃん……」
「どうして、助けてくれなかったの? 勇者なんでしょ?」
「と、とりあえず落ち着こう。大丈夫、きっと――」
根拠なんてない。
それでも、女性の涙は昔から耐えられなかったから、励ますしかなかった。
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エリカちゃんが落ち着いたのは、あれから数分後のことだった。
「……いまの、忘れて」
「どうしよっかなぁ」
「わ、忘れなさい!」
「わ、わかったわかった。……それで、落ち着いたの?」
訊ねると、エリカちゃんは少し頬を緩ませる。
「あんたのおかげじゃないわよ」
「ま、そういうことにしとこっか」
「……はぁ。よりにもよって、あんたに見られるなんて」
エリカちゃんは深く溜息をつき、人の減った広場を見つめる。
そしてポツリポツリと、言葉を吐き出し始めた。
「私、実はヘルリヘッセの生まれなのよ。父と母、祖母に育てられていたわ。祖母が亡くなって、私は祖母の無念を晴らすために、勇者を探す旅に出た。それから数か月たった頃、ヘルリヘッセの襲撃を耳にしたのよ」
「……」
「すぐに戻ったの。でもね、私が帰る前に全て終わっていた。魔王軍の勝利――それを聞いたときは人知れず涙を流したわ。無力で何もできなかったことが、一番悔しかった」
「でも、それは――」
「わかってる。私が加わったところで、どうなるものでもないわ。だから、すぐに旅を再開して、勇者信仰の強いこの大陸に来たの。そしてあなた……勇者に出会った」
そういうことだったのか。
「でもショックだったわよ。まさか世界を救う英雄が、ヘルリヘッセの襲撃よりも後に誕生して、しかも旅もしないで遊んでるなんて……こんなのが勇者だって知って、絶望したわ」
言い返す言葉もないなー、こればかりは。
「あの時、勇者がいればヘルリヘッセは助かったかもしれない。……だから、今回のことは見過ごしたくなかったの」
「……そっか。でもさ」
「わかってるわよ。さっきの判断は冷静じゃなかったわ。あのまま決めていても、私達は何もできなかったかもしれない。モルには感謝しないと」
そう言って、エリカちゃんは笑顔を見せる。
でも、違うよな、これ。
「あーあ、こんな話聞かされるなんてなぁ」
「んなっ! あんた――!」
「これじゃあ、見過ごせなくなったじゃん」
「え……」
「行くんでしょ? 主人が行くと決めたら、僕はどうせ行く羽目になるし、どうでもいいよ」
「勇者……」
「さ、戻って説得しよっか」
「……うん」
これだよな。
心の底から笑うエリカちゃんは、やっぱり可愛かった。
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「――というわけで、ウィズダムに行こう!」
帰って早々に僕が宣言すると、モルちゃんは驚きもせずにこちらを見ていた。
「こうなると思っていたですよ」
「あ、そうなの?」
「……モル、さっきは」
「あれは、わたくしも言い過ぎましたです。お互い様ですよ」
「モル……ありがと」
うんうん。仲良きことは素晴らしいな。
もしやこの流れなら、いけんじゃね?
「エリカちゃん!」
「な、なによ?」
「今日は一緒に、これから夜の町に――」
「死ね」
あるええええ?!
「勇者様、わたくしが同伴するですよ!」
「あ、間に合ってます」
やっぱり、エリカちゃんはエリカちゃんだった。
なんだよこれ!
こうして勇者一行は、次の目的地をウィズダム古城跡に定めた。
戦士のエリカ、魔法使いのモル、そしてクズの勇者。
ようやく彼らの魔王討伐の旅が始まった。




