第二章14 『活気の町イルハット』
【2018年1月21日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
国境を超え、新たな国にやって来た勇者一行。
王国へ向かう道中、倒れていた美人シュネーを見つけ、勇者一行は彼女を近くの町、イルハットへと送ることにした。
「はぁ、はぁ」
「勇者様、大丈夫です?」
「ま、まあね……」
強がってみたけど、しょーじき辛い。
――ってか、ここ来てから徒歩徒歩徒歩徒歩って、徒歩ばっかじゃん!
こんなことなら、車のある世界に生まれ直したかった。
「あ、見えてきたです」
「ほんと?」
隣を歩くモルちゃんの言葉に釣られ、顔をあげる。
すると、町が遠くに見えてきた。テスタラとは違って大きな町のようだ。
「し、死ぬかと思った」
「……! し、死んでしまうですか?」
「あ、いや、いまのは疲れてたから――」
「どうせなら死んでしまう前に、わたくしと子作りをしますですよ!」
「よし、もう少しだから頑張るか。柄にもなく」
モルちゃんの前では、軽々しく口を開かないでおこう。
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イルハットの町へとやって来た。
「らっしゃい! 今日は新鮮なのが入ってるよ!」
「よってけよってけ!! 見てけ見てけ!!」
そこには活気が渦巻いていた。
「すげー、これだよこれ! この活気!! エリカちゃん、ここに住もう!」
一人で盛り上がっていると、エリカちゃんから冷たい視線を浴びせられる。
「……住まないわよ。シュネーさんを病院に連れていくのが先。行くわよ」
「ちぇ」
ま、いいや。夜があるし。
「住まないにしてもさ、もちろん泊まるよね?」
エリカちゃんに訊ねると、彼女は足を止めて振り返り、呆れたといわんばかりの表情を浮かべる。
「まだ昼よ? 歩くに決まってるわよ」
なんとっ?!
おいおい嘘だろ?! 軍隊かよ! 行軍かよ!
「そ、そんな……」
そう言ったのは、シュネーさんだった。
「あたくし、皆様に御礼がしたいのですが」
これは思わぬ援軍じゃね?!
「でも、悪いわよ。人助けは勇者として当然だし、義理は感じなくても――」
「エリカちゃん!! 人の厚意を無にするのは勇者失格じゃね?! こりゃもう、甘えるしかないじゃん!」
「……」
ジトッとエリカちゃんが見てくる。
そしてシュネーさんを見てから、諦めたように息を吐いた。
「それじゃあ、シュネーさんの厚意に甘えましょうか」
「あ、ありがとうございます!!」
「いやったああ!! 今日は遊べるぞおおお!!」
「……へぇ」
「――ハッ!?」
「勇者様、エリカさんに睨まれてるですよ。でと、今回は勇者様が悪いです」
僕はシュネーさんを病院に送り届けた後、彼女が治療されている間、エリカちゃんに説教された。
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「こちらですの」
シュネーさんの怪我は酷いものではなかった。
一時間で治療を終え、僕達は彼女に案内されながら町を歩いている。
ここイルハットは活気の町とも呼ばれているらしく、王国でも随一の商業で賑わう町らしい。最高じゃん!
聞くところによると、遊ぶ施設も多いとか。天国じゃん!
きっと、ラスベスに行けなかった僕に、神様が味方してくれたんだ。待ってろ酒場、今宵の酒樽は飲み尽くしてやるぜ!
「勇者様、よからぬこと考えてるです」
「そ、そんなことないよ? あっはっは……あれ?」
そんな僕の妄想もよそに、前方を歩くエリカちゃんとシュネーさんの会話が弾んでいた。
「シュネーさん、ここの出身なの?」
「ふふっ、エリカさん。シュネーでいいですわ」
「――! シュネー、は、ここの出身?」
「いえ。出身は違いますの。ですがイルハットは住みやすくて、留まっていまして。元々は皆様と同じ旅人ですわ」
へぇ。シュネーさんも旅してるのか。意外だ。
てっきり、どこかの令嬢かと……玉の輿あるんじゃね? ――とか思わせるような気品があるんだけどなぁ。
「勇者様勇者様」
「ん、どったの? モルちゃん」
妄想をしていると、モルちゃんが服を引っ張ってきた。
そして、前の二人を指差す。
「友情が生まれていますです」
友情……確かに。
「ついにエリカちゃんにも友達が……およよ」
「わたくし達の努力が実った気分ですよ」
「そこ、聞こえてるわよ!!」
そんな談笑をしつつ、町の外れまでやってきた。
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「こ、ここなの?」
到着したのは、女性の一人暮らしとは思えない、趣のある小屋だ。
「はい。一人ですから、その、家賃も安いので。滞在中だけですし」
まあ、少し滞在するだけなら、いいのか。
いや、よくないよ。危険じゃね?
でも旅してるらしいから、もしかしてかなり強いのか? それもエリカちゃんみたいに……いや、ないよね。
「どうぞ。狭い家ですけど」
僕らはシュネーさんに招かれるまま、家に入る。
「おお……」
外観は眉をひそめるものだったが、家の中はさすが女性。綺麗に掃除が行き届いているようだ。
和風の造りで、田舎の特集番組に出てきそうな家。古風というか、懐かしい感じもする。
しかし、物が少ない。
ドレッサーやクローゼットはあるが、他の物は少ない。
ミニマリストなのだろうか。
中に入り、全員が座布団に座る。……この世界にも、こんなのあるんだな。
「あの、皆様にお救いしていただいた御礼に、食事を御馳走しようと思いますの。どうでしょうか?」
「食事! これは御言葉に甘えるべきですよ。エリカさん」
「モル、急に目の色が変わったわね……でも、そうしましょうか。シュネー、私も手伝うわ」
「それでしたら、二人で作りましょうか」
どうやらシュネーさんの提案で、二人で調理することになったらしく仲良く台所に向かう。
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それを見送り、僕は密かに外出を考えるが、モルちゃんがこちらをじっくり見ていた。
「も、モルちゃん? そんなに見つめられたら、照れるなぁ」
「エリカさんから、勇者様の監視を頼まれたです」
「なん、だって……?!」
「一応聞きますけど、外に出て、お金はあるのです?」
「そりゃあ、エリカちゃんがたんまりと貰った――」
ジャラ。
「これです?」
そ、それは!
モルちゃんが手に持ってるのは間違いなく金貨詰め合わせの素敵な袋だ。
「任されたです。勇者様、無駄な抵抗はやめるですよ」
「そんなっっっ! なんて残酷な! 酷いよ! 鬼! 悪魔!」
「国民の税金を使う方が最低なのです」
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二人が言い争う声は台所まで筒抜けだった。
「あの二人……はあ」
「ふふっ、エリカの仲間は賑やかですわね。――あの、エリカ達は勇者一行、でしたわよね?」
「まあね。あれが勇者なのよ? 最悪でしょ? あんなのに世界の命運がかかってるかもしれないなんて」
「そうでしたの…………ふふ」
「? シュネー?」
「あ、いえ。実は、お伝えしておきたいことがあるのですわ」
「お伝えって、今の流れだと勇者にかかわること?」
「いえ、魔王に関する噂ですわ」
「魔王の噂?」
調理しながら、エリカは耳を傾ける。
「どんな噂なの?」
「ここの近くにある古城跡地で、魔王の手下が大規模な戦闘準備しているという噂ですの。それも、ヘルリヘッセ戦争と同等の規模だとか」
「――! それ、本当なの?」
ヘルリヘッセ。今や魔界の一部と化した辺境の町。
こことは別の大陸にあり、魔界に一番近い町と呼ばれていた。
ヘルリヘッセを巡り、人間と魔物で戦争が勃発したが、魔王の軍隊は強大で人間は敗北した。
そしてその結果、ヘルリヘッセは奪われた。
「信憑性は高いですわ。王国でも対処しているようで、近々、義勇兵を募り、王国兵団とともに向かわせるようです」
「ヘルリヘッセと、同規模……」
その言葉に、エリカは自然と手が震えていた。
怯えているのか、武者震いなのか、それは本人にしかわからない。
「エリカ?」
シュネーの言葉にハッとし、エリカは笑顔を浮かべる。
「大丈夫。……食事の時に勇者達を交えて話しましょう」
エリカの声は、少しだけ震えていた。




