第二章Ex4 『魔界四天王』
【2018年1月20日改稿。魔界四天王の説明を修正しました。】
緊急会議の報告を受け、俺とセイレちゃんはサキさんと共に急いで会議室にやって来る。
そこには既に他の護衛衆も集まっており、準備が整っているようだった。
とりあえず席に着き、サキさんに訊ねる。
「サキさん、何があったのか詳しく教えて」
「はい。実は――」
サキさんは丁寧に説明してくれた。
まず、魔界にある勢力について。
これまで勢力は大きく四つに分かれていたらしい。
"悪魔"、"魔女"、"ビースト"、"アンデッド"の四勢力が種族をまとめあげるトップだった。
昔から全ての種族は、この四勢力の下で統率されていたが、勢力間の争いは絶えず、以前は魔物同士で殺戮を繰り返す時代が続いたらしい。
それというのも、初代の魔王サタンが死んだからのようで、魔物たちを統率する者が消えてしまい、勢力が分断されたらしい。
それからは代々の魔王が統率してきたらしく、先々代の魔王は、四つの勢力を抑え込む力を有しており、力によって抑え込んだ。
先代の魔王は勇者を滅ぼし、武勇を示して統率した。
そして現在の魔王が、魔物の世界「魔界」を作り出し、いわゆる秩序による統率を考えた。
四勢力は代々、魔王によって鎮圧されてきた。
しかし彼らは強力な力を持つがゆえに、力以外で抑え込むことは不可能だった。だからといって力を使って抑え込もうとすれば、甚大な被害が出ると考え、魔王は彼らを利用しようとした。
そこで、彼らを魔界の重鎮と定め「四天王」と名を付けた。
四天王は魔王の支配を直接的には受けず、功績という形を持って魔王ではなく魔界に貢献する存在とされ、地位を確立した。
しかし四天王を含め、未だに魔界への不満を抱く者は多い。先日のオーガのように魔王の命を密かに狙う者は数えきれないという。
そんな状況の魔界において今回――四天王の一つ、ビーストが人間界への侵攻準備を始めているというのだ。
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「ビーストは、功績を立てることで魔王様の席を狙っているのかもしれません」
「……」
それもあるけど、きっと俺が前の魔王と違うことがバレたんじゃ――。
「これは傍観できない事態です。魔王様、彼らを止めましょう」
「と、止めるって、まさか前みたいに?」
サキさんは首を横に振る。
「さすがにビーストと争うとなると、魔界にも甚大な被害が出てしまいます。彼らは確かに独断専行を試みていますが、魔王様の意思に逆らったわけではありません。責任の所在を示すのは難しいと思います」
「それもそうか……」
オーガの場合、明確な殺意をもってハーピーに危害を加えたという点から、反逆者として制裁を加えることができたという。
しかし今回、相手は人間。
個人的には人間への侵攻を止めたいが、魔物には通用しない。魔王は魔界の拡大を掲げるのだから。
「……甚大な被害って言ってたけど、四天王はそんなに強いの?」
どうにか力で抑えられないかと考えたが、無駄だった。
「総合的な強さで言えば、魔王軍に引けを取りません。正面から戦うのは愚策です」
サキさんが口にして、そのことを理解する。
だが、護衛衆の面々は首を横に振った。
「魔王様がそうするのであれば、我は従うのみです。四天王など、敵ではない」
「じ、自分も! 頑張ります!」
「魔王様のために命を張るのが、あたしの生きる理由ですのよ」
「みなさんと同じです。わたしも、できますよぉ!」
フェニちゃんを除く護衛衆の面々が意気込んでいるが、サキさんは首を横に振っていた。
「駄目よ。たとえ上手くいったとしても、疲弊しきったところを他の勢力に攻め込まれてしまえば、魔王様の地位を奪われてしまう。そうなれば、魔王様の魔界は終わってしまうわ。四天王の実力は、護衛衆も知っているでしょう?」
その口ぶりだと、かなりのものらしい。
「だが! このまま何もしないというのは――!」
まずい。ヒートアップしてる。
「デュラハンさん、落ち着こう。俺は無謀な命令は下さないよ」
「ま、魔王様……申し訳ございません。御前で見苦しいさまを見せつけてしまいました」
「い、いや、そこまで反省しなくても……とりあえず、サキさん。どうしたらいいかな?」
サキさんに話を振ると、彼女はすでに対策を考えていたようで、頷く。
「ここは、話し合いましょう。あちらも四天王に数えられている以上、魔界の覇者の会談要求を断れば立場が危ういですから、必ず応じるはずです」
「話し合い、か」
前の仕事で、散々な目に遭ったせいか、不安しかない。
そのことを心配してなのか、サキさんは言葉を続ける。
「今回の件は私が行ってきます。魔王様は勇者のことだけを――」
サキさんの言葉に、一瞬安堵した。
けれど同時に、こないだのハーピー族を思い出す。
彼女達は、どうなった?
ゾクッッ――!
背筋が凍るって表現、あれは間違ってない。
今の俺がそうだ。凍った。
一瞬、サキさんとハーピーを重ねてしまった。
「駄目だ」
「え?」
言葉が自然と出てきて、口走っていた。
「その会談、俺も参加する。勇者の件は少し後回しにしてでも、今はそうすべきだ」
「で、ですが――」
サキさんが戸惑っている。その反応から、なんとなく分かった。
これは決して安全な道じゃない。睨んだ通りだ。
ならば、強引に押し切るしかない。
もう、俺なんかのために傷つくのは見たくない。
「魔王の意見が、聞けないのか?」
「――! 申し訳ございません!」
「……ふう。サキさん一人に戦わせて、なにが魔王か。ってね」
「魔王様……」
「これで、いい?」
護衛衆達を見ても、反対する者はいなかった。
「とりあえず、彼女に連絡だけはしておこう。勇者の件は、ひとまず保留。引き続き任務を継続するように」
「わ、わかりました。では、魔王様の決定通りということで、今回の会議はこれをもって一旦――」
「あ、あのっ」
サキさんが会議を終えようとすると、ミノ子さんが慌てて挙手する。
「ど、どうしたの? ミノタウロス」
「わたし、会談に同席してもいいでしょうか? 魔王様の護衛、わたしが請け負いたくて」
「なにっ!? 魔王様の護衛は我が!」
「ふふっ、何を仰るのかしら? あたしですわよね?」
「フェニちゃんもいるぞ! 会議は難しくて寝てたけど、魔王様の護衛は任せてよ!」
「じ、自分も、います」
ミノ子さんの立候補に、他の護衛衆が一斉に抗議するが、サキさんはミノ子さんを見ていた。
「いいのね?」
「……魔王様の、ためですから」
「わかったわ。魔王様の護衛は、あなたにお願いする。それとセイレーン、あなたにも。他の者達は城の警護よ」
「異議あり!」
デュラハンさんが挙手するが、サキさんは首を横に振る。
「こちらから大勢で訪ねれば、ビーストから誤解を受けるかもしれないわ」
「ぬぅ……仕方ないか」
「――というわけよ。二人とも、準備をしておいて」
「は、はい!」
「りょ、了解です……!」
ミノ子さんは返事をして勢いよく立ち上がる。セイレちゃんも、意気込んでフワフワと浮かんでいた。
「ちぇ、いいなぁ。フェニちゃんも行きたかったのに」
「お前たち、魔王様を頼んだぞ」
「頼みますわよ。まあ、あなた方なら大丈夫でしょうけど」
「はい。頑張り、ます。魔王様は自分が護ります……!」
選ばれなかったメンツが激励すると、セイレちゃんがそれに答える。
しかしなぜかミノ子さんだけは答えていなかった。
ミノ子さんはどことなく緊張した面持ちで、普段のおっとりした感じではなく、オーガと戦った際のような真剣な表情だった。
「ミノ子さん……?」
こうして、魔王とビーストの会談が組まれることになり、この事は魔界中に知れ渡る。
そしてこれは、魔王の新たな道が始まる序章でもあった。




