第二章12 『クズはクズでも』
【2018年1月20日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
「さてと」
宿について夜になった。こっからが僕の時間だ。
ベッドから起き上がり、宿の外に出た。
「はぁ、酒が飲みてぇ……」
しまった。夜に出歩いたとしても、宿の周辺に店はない。
ちょい待って。これじゃあ、遊べないじゃん。
闇の王子と呼ばれた僕の……僕のアイデンティティっぽいのが失われてね!?
「……」
異世界、つまんねぇなぁ。
せめて酒があれば……。
少し歩くと、酒をあおっている大男や楽しそうに語り合ってるカップルなど、旅人が大勢いた。
昔の僕なら話しかけているが、今は一銭も持たない貧乏人。通り過ぎるだけ通り過ぎ、酒の匂いをかぎまくってから諦めた。
途中で睨まれてたみたいだし。ははは、それだけ僕に見惚れてたってことさ。
「はぁ……寝るか」
部屋に戻ろうとすると、ふと視界の端に見慣れた少女の姿が見えた。
少女は宿屋の外にあるベンチに腰掛けて星空を眺めているようだ。
そしてよく見ると、同行者だった。
「あれって、モルちゃん? こんな時間に危ないなぁ……」
声、かけてみるか。
~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
「眠れないの?」
「勇者様……。はいです。天井が違うと少し寝づらくて」
「そっか。隣いい?」
「はいです」
モルちゃんの隣に腰掛け、同様に夜空を見上げてみる。
うっわ。
それは思わず溜息が出てしまうような圧巻の景観。都会では絶対に見れない夜空だった。
「……」
しかし、デート用に勉強していたプラネタリウム知識が通用しない。目の前の光景は地球から見えるものとは違う星の大群で、会話が弾まない。
よし、ここは積極的にいってみるしかないっしょ。
「あのさ、いいかな?」
「なんです?」
「こんな機会だから教えてほしいんだけど、なんで僕と結婚したがるの?」
「それは――」
「あ、嘘は無駄だよ。僕、何十人もの女の子と遊んできたから、女の嘘は見抜けるのさ。……だから、あの時のモルちゃんが嘘をついていたのが気になってね」
あの時、テスタラの町でのこと。
『ちょっと待って。結局、このクズのことが好きってことなの?』
『まあ、そうなりますね。消去法的に』
肯定した時、それに気が付いた。
彼女には好意がない。それは僕なら簡単に分かった。
「どうやら、本当のようです。あなたに嘘は無駄みたいですよ」
「まあね。で、どうして僕が好きなんて嘘をついたの?」
「勇者様のことは好きでも何でもないです。でも、子作りしたいというのは本心です」
「……どうしてか、聞いていいの?」
「もちろんですよ。大した理由じゃないですから。これは、わたくしの夢なんですよ」
「夢?」
「はいです。子を産み、親となりたい。そうして知りたいのです」
「知りたいって、何を?」
「自分の子を手放す気持ち、ですよ」
「……」
うっわぁ……聞かなきゃよかったぁ。
重い。めちゃくちゃ重い。
「そ、それはまた、どうして?」
「わたくし、テスタラで育ってから魔法を学んできましたです。母が魔道士ナハトと知り、わたくしも母のようになりたいと思ったです。ですが、勉強を積み重ねても母の感情だけは理解できなくて、それがもどかしかったですよ」
「感情、か」
そりゃまた、難儀な悩みだ。
「わたくし、感情の機微に疎くて、そこだけが欠点なのです。母となり、同じ道を辿れば知ることができるかと思いましたです。すみませんです」
「そっか。でも謎が解けてスッキリ、とはいかないな。どうして僕を選んだのさ?」
「勇者様が適任かと思いましたです。母も惚れた相手ですから」
「適任? いやぁ、まいっちゃうなぁ」
「当人と会ってからは、過ちに気付きましたですけど」
「って、え~~」
「ふふっ」
モルちゃんは星を見上げ、少しだけ笑った。
そうだよな。女の子は笑ってなきゃ、可愛くないよな。
「よし! それじゃあこれから、モルちゃんを惚れさせるような勇者になるって展開どうよ? 今はまだ年齢的に無理だとしても、数年後なら結婚を検討してもいいし。ってか、数年後の方が体も成長して――ぐへへへ」
「無理だと思いますです。一周しても勇者様はクズだと思うです。後半のセリフが物語っているです」
「うっわぁ、毒舌が増えただけじゃね、これって……ははっ」
思わず笑いがこぼれた。彼女も同様に笑顔を見せる。
「ふふっ。勇者様は、今のままで十分だと思いますです」
「え?」
不意のそれは、ドキリとするような一言だった。
言い終えるとモルちゃんは立ち上がり、星空を仰ぐ。
ツインテールが夜の冷たい風に揺られ、星々の淡く柔らかな照明が彼女の黒髪を照らしていた。
「勇者様は、そのままでこそ、勇者様ですよ」
「――!?」
「では、わたくしは寝ることにしますです。おやすみなさいです」
「あ、うん。おやすみ……」
去っていく背中を見つめ、消えるまで見つめていた。
前の人生でも、あんなことを言ってくれた人は、今まで一人もいなかった。
いつか変われるとか。顔がよければ何でもいいとか。全部、薄っぺらな関係だったから、本気で認めてくれる人なんて、いなかった。
だからか、この時の僕は、間違いなく――。
彼女を魅力的だと感じていた。




