第二章10 『一件落着?』
【2018年1月20日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
モルちゃんを仲間にするべく、あの夜が明けてからすぐ、僕たちは王国へと向かうことになった。
数日かけてきた道を引き返し、僕とエリカちゃんが王国に到着すると、勇者の凱旋と勘違いされて一騒動起こった。
どうにか国王のところへと赴くことができ、テスタラの件を話すと一つ返事で了承してくれた。
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以上、ダイジェストでモルちゃんの憂いがなくなったというわけだ。
それから数日後。
僕たちはまたテスタラに戻っていた。足が棒のようだ。
「ありがとう、本当にありがとうなぁ、勇者様」
「勇者様万歳!」
テスタラに着くと、手のひらを返したように住人達から祝福を受ける。
先日、石を投げてきたご老人や果物を当ててきたご婦人もいらっしゃる。
「……こいつら」
「まあまあ。歓迎されるのはいいことだよ」
エリカちゃんは不服なようだったが、感謝は悪くない。
前まで、こんなに感謝されたことってないし……。
でもまぁ、若い女の子だったらもっといいのになぁ。
「勇者ちゃ~ん」
黄色い声援ならぬ淀んだ声援が聞こえる。
「ほら勇者様、おばさま方が呼んでるわよ。本当にあんたって見境ないわね」
「……はぁ」
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「お、姫ちゃんじゃ」
「姫ちゃん、頑張ってなぁ」
住人達が一層盛り上がり始めた。
それを見て、エリカちゃんは僕の隣で目を細める。
「来たようね。なんか、ここまで長かったわ」
歓迎ムードの中、目的の人物がやってくると人垣が一斉に左右に分かれた。
そこに現れたのは、背丈の小さなツインテール少女、モルちゃんだ。
「モル、無事にすんだわよ。テスタラは王国の援助対象になったわ」
モルちゃんは以前よりも綺麗なローブを着て、リュックサックを背負っていた。
美しく伸びる黒髪を風になびかせ、笑顔を見せる。
「……ふふ。そのようです」
「これで、私達と来てくれるんでしょ?」
なんか今の、勇者のセリフっぽくね?
密かにポジション奪われてね? ……いや、前からじゃん。
「ふっふっふ~。この魔道士の娘でありながらテスタラの神と崇められているモルが、加わってあげますですよ?」
そう言ってモルちゃんが笑う。
「ずいぶんと上から目線ね」
「神様なので」
「へぇ……。この町ではそうかもしれないけど、外に出たらどうなるのよ?」
「えぇと、どうしましょう。自称魔物の生まれ変わり、とかにしますです? 設定は凝ってる方が面白そうです」
「あんた、今、設定って……」
「はい。神様なわけないです。設定です。本気にしてたんです?
」
「そ、そんなわけないでしょ! ……これから、よろしくねモル」
「よろしく~なのですよ。勇者様も」
「ああ、よろしく! なんならこのまま僕の恋人になっちゃう?」
「ばっ――!」
つい癖が出ていた。
悪ふざけで済むような相手ではないのに。
「では是非、妻でお願いします。もちろん、子作り希望です」
そう言って近づいてくると、そのまま勢いよく迫ってくる。
「え?」
ちゅ。
「えっへっへ。なのですよ」
「なっ――!」
唇を奪われた。
それだけならまだいい。場所が場所だということを、今更ながら思い出す。
「……あ、あはは。冗談が過ぎるなぁ」
「本気、ですよ」
「や、やめてよ」
「やめないです。早急に、子供を」
トドメのような言葉に、嫉妬や殺意が大いに込められた視線の嵐が襲ってくる。
「勇者……殺す」
「あの野郎、ミンチにしてやろうか」
「この距離なら当てられるね」
群衆の中、先日の果物おばさんが視界の端に移り、彼女が熟れた果実を手に持っているのが見えた。
「し、失礼しましたああああああああああ!!」
僕は九十度のお辞儀を見せ、回れ右の瞬間に走り出した。
走る走る走る! 風になれ!
僕は咄嗟に足が動き、勢いそのままに町を出た。
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「あ、勇者様!」
逃げる勇者の背を見て、モルが叫ぶ。
エリカは溜息をついてから、モルの肩に手を置いた。
「あいつ、逃げたわね。私が追いかけておくわ。あんたは神様なんだから、挨拶済ませておきなさい」
「……? いえ、もう神じゃないですよ」
「そうなの?」
真面目な表情で言われ、エリカは驚いた。
「今は、勇者一行の魔法使いモルです」
「そりゃそうだけど……」
「わかってませんです。設定ですよ設定。さっきも言ったです」
「もしかして、町を一歩出たから設定も終わりって――」
「見つけたぞおおお!」
エリカが訊ねようとすると、群衆の中から宿屋の店主が出てきた。
「あれって宿屋の――」
「よくも、天井を壊してくれたな! 弁償しろおお!」
「あ、いや、あれはその、勇者だし」
「問答無用!」
「――! モル、先に行ってるわよ」
「はいです」
エリカは青ざめて、一言告げてから勇者と同様に走って行った。
宿屋の店主もモルの隣を駆け抜けていき、不思議な静寂が訪れる。
「さて、と。……みなさん、お世話になりましたです! いってきますです」
モルが住人達に聞こえるような声で言うと、彼らは静寂を一斉に破った。
『いってらっしゃい!』
『体に気を付けるんだよ!』
『変な男にだまされるんじゃないぞ!』
『いつでも帰ってきてね!』
住人の声が途切れることなく聞こえ、モルは手を振る。
「もちろんなのですよ~~! ……さ、行きますです」
もう彼方に行ってしまった仲間たちを追うように、モルは軽い足取りで彼らを追った。
「待ってくださいですよ~~二人とも~~」
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疾風のように去っていくのを見て、テスタラの町の住人達は溜め込んでいた涙を流す。
「頑張っておいで、私たちの姫ちゃん」
誰かの言葉を皮切りに、町中がすすり泣くような音で溢れた。
「よし! みんな、モルちゃんがいなくても、テスタラを盛り上げていくよ! そいで、帰ってきたときにビックリさせちゃろう!」
『おお!』
別れと出会いがあり、勇者の旅は少しだけ前に進んだのであった。




