第二章9 『神、自演乙女』
【2018年1月20日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
迷宮を抜け出し、僕達はようやく魔法使いに辿り着いた。
しっかし、魔法使いっていうからそこに転がってるようなおばあさんを想像していたが、目の前にいるのはちっこくて可愛い少女だ。
「わたくし、この町では神様ですよ~~」
そして、この一言で確信した。
彼女は不思議ちゃんだ。
「え、えっと、なに? 神様?」
「そうなんですよ~~」
魔法使いのモルちゃんは神様らしい。
――ってことは、もしかして。
「あのさ、僕のこと覚えてる? ここに生まれ直したときの」
「……はて? どこかでお会いしましたです?」
「あんたは黙ってなさいって言ったでしょ」
「あ、はい」
うむ。間違いない。彼女は神様じゃない。――ってことは演技?
「方々がいらした理由、すでに存じているですよ」
「へぇ、話が早いわね」
二人の間で勝手に話が進んでいく。
一応、僕が勇者なんだけど。
「私達は魔王を倒すために旅をしてるの。あなたの力、貸してもらえないかしら?」
「……断る理由は、ないです」
「姫ちゃん!」
腰を抜かしたおばあさんがモルちゃんに呼びかける。
しかしモルちゃんはそれを手で制し、こちらに視線を移した。
「断る理由はないです。しかし、貸す理由もないですよ」
「へぇ……魔王討伐よりも大切なことがあるのかしら? 母親の仇を討ちたいと思わないの?」
うわ、エリカちゃん揺さぶってんなぁ……。
しかし、モルちゃんは眉一つ動かさず、きれいな双眸でこっちを見ていた。見た目よりも胆が据わってる。
「母の仇、確かに仇討ちをしたいとは思いますですよ? でもそれは、先代の魔王のことです。現魔王ではございませんです」
現魔王?
魔王って一人じゃないの? 一気にやる気なくなるんですけど。
「……そちらの方は、勇者様ですよね?」
お、こっちに話が振られた。
「エリカちゃん、いいかな?」
「ふんっ! どうぞ」
ここに来る前、交渉に口を挟むなと言われていたけど、許可が下りた。
「何を隠そう、僕が勇者だ」
「そうですか……では勇者様、一つだけお願いを聞いてほしいのですよ」
「ああもう、可愛い子の頼みなら何でも聞いちゃうよ。何かな?」
「わたくしと、結婚してほしいです」
「ああ、もちろ……は?」
彼女は頬を桜色に染め、艶めいた瞳でこちらを見ていた。
「結婚し、子作りしてほしいです」
「ちょいちょいちょい! 待って! 話の流れが見えないよ?! それに、僕ら会ったばかりだし、急にそんな――」
「へぇ、あんたにも分別はあるのね。少しは見直したわ」
「ま、まあね。これくらいはあるし!」
まずいまずいまずいまずい!
結婚はまずい。だって結婚したら他の女の子と遊べなくなるじゃん!
結婚してから遊んだらあれだよ。クズからゲスに昇格よ!? それだけは嫌だあああ!
前の人生でも求婚は受けてきたけど、こんなに直球で来たことはないっての!
指輪よりも君がきれいだ。――とか言ってなんとなく誤魔化せないし、どうすんのよ!
「え、えっと、悪いんだけど……」
「わたくしでは、魅力がございませんです? わたくし、神ですよ? 神ってますよ?」
「いや、意味わかんないって! ~~~けど、魅力があるのは確かだ! 神ってる!」
「おい」
どうする。
いや、どうするもこうするもない。
不可能だ。
絶対に無理。
どう考えても、モルちゃんってまだ成人してないし、未成年相手ってのは駄目だ。
うん、その方向で――ああでも! こっちの世界の成人の基準って知らねえええ!
僕が焦っている最中、モルちゃんはこちらに歩み寄ってくる。
「わたくし、あなたのことだけを考えて生きてきたんです~~。勇者様のことしか、目に見えていませんですよ?」
「え、ちょ、初対面でしょ? だよね?」
顔近いって!
攻めるのは得意だけど、逆の立場は苦手なんだって!
「確かに初対面です。けれどもわたくし達は、運命で結ばれていますです」
「運命」とか持ち出してくる女の子は危険度マックスだああああ!
僕のアンテナが過剰に反応してる!
やばいやばいやばい! どうにかして断らないと!
まずは少しでも情報を引き出して断る理由を――!
「だってわたくし、勇者の子孫でもあるのです」
「「はぁっ!?」」
エリカちゃんと初めて声が揃った瞬間だった。
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聞くところによると、モルちゃんは魔道士ナハトの娘でもあるが、勇者の娘でもあるということだ。
つまり、世間では知られていないが、ナハトと勇者はそういう関係だったらしい。
くそっ! 羨ましくないけど、なんかむかつく。
そしてこれは、町の住人でも数人しか知らない真実。どうやら昼間に会った爺さんは知らないみたいだ。
「それで、勇者の子孫だからって、どうしてあなたがクズと結婚したがるのよ? そこがわからないんだけど。初対面なんでしょ? これ、好きになるの?」
「エリカちゃん、少し言い方ってものが――」
「あ?」
「なんでもないです」
完全に尻に敷かれていた。
「どうして、と言われてもですねぇ……。まぁ、感覚的に、です?」
「いや、もっと意味不明なんだけど」
「わたくし、結婚はどうでもいいのです。勇者様の顔は好みではないのですよ」
は?
「ただですねぇ……」
「ただ?」
「勇者様と子作りしたいだけなんですよ~~」
「はぁっ!?」
エリカちゃん、それさっきと同じリアクション。
しかし一層ヤバい。
運命とか言って果ては子作り目的とか変態じゃん! この手の変態はヤバいって!
「ど、どうして、そうなるのかな?」
さりげなく訊ねると、彼女は頬を赤くする。
「そんなの、決まってるじゃないですかぁ。もちろん――」
「やっぱ言わなくていい」
先を聞いてはいけない気がした。
「ちょっと待って。結局、このクズのことが好きってことなの?」
さりげなく傷つくなぁ。
「まあ、そうなりますね。消去法的に」
否定しないの? って、消去法って何よ! 好きって感情はそんなもんじゃないって!
「まあ、その辺は承知したわ……でもそれならどうして、私達に同行してくれないのよ。この際、こいつの身体は好きにしていいからついてきてほしいんだけど」
もしもーし。本人、ここにいますよー。目の前ですよー。
「そうですねぇ……ナハトの娘として、勇者の旅に同行するのは当然なのです。義務なのです。しかしこの町を離れてしまうと、方々に迷惑がかかるですよ」
そう言ってモルちゃんはいまだに腰を抜かしているおばあさんに目を向けた。
「姫ちゃん……!」
おばあさんは嬉しそうに眼をウルウルさせてから、こちらをキッと睨む。
「あんたら、わかったらさっさと出ていけ!」
急に怒り出したよ。
しかし、エリカちゃんは無視を決め込んで、モルちゃんしか見ていない。
「このままじゃ世界が危ないのよ?」
世界が危ないって……世界が?
「エリカちゃん、世界って危機なの?」
「……あんた、なんで旅に出てんのよ?」
「そりゃあ、魔王を倒せって言われたから、仕方なくってやつ? 本音はハーレムだけどね! ハーレム王になるんだ! そんでもって店を何軒も経営して、前の人生よりももっと上手く――!」
「……後半は無視するとして。いい? 魔王がいる世界は災いが起きるの! だから魔王を倒す必要がある。そのための勇者でしょ?」
「は?」
いやいや、初めて聞かされた気がするんですけど~~。
いや、待てよ? そういえばだれか説明していたような気がするなぁ……ま、いっか。
要するに、事態は深刻ってことだろう。うん。
「――まあ、なんやかんや置いといて」
「置くんじゃないわよ」
「結局、モルちゃんは、この町が心配だから旅についてこないってこと?」
「そうなるです。せめて、王国が援助してくれれば、住人の方々も生き甲斐を見つけられると思うんですけど、取り合っても応答がないのですよ」
「なるほど……」
「姫ちゃん……そこまであたしらのこと」
「どうしよっか、エリカちゃん」
「そうね……さすがにこればかりは」
おばあさんは目をウルウルさせている。エリカちゃんも、これには言葉が出ていなかった。
それにしても王国か……王国?
「あのさエリカちゃん、王国って?」
「あんたが勇者に任命された場所でしょ? この国の首都。王様がいるのよ」
ああ、やっぱりあの場所だ。
「……モルちゃん、そんなら王国に頼みに行けばいいんじゃね?」
「それは無理ですよ。前々から援助の申し出はしていますです。それでも王国は動かないですよ」
うーむ。そんなに難しい話なのか?
あ、そうだ。
「僕、勇者だし。なんか王様みたいな人とは面識あるから。直接頼めばいいんじゃね? 世界を救おうとしてるやつの頼みは断れないし」
「「――!」」
「なーんて。……あれ?」
思いつきで言ったつもりだったが、エリカちゃんとモルちゃんは目を丸くしていた。
「「それだ(ですよ)!」」
「え……?」
まさか、本気にしたの?
いや無理でしょ。いくら勇者でも王様に直談判って。総理大臣に直談判するってことだろ? 無理無理無理!
「あんたも勇者らしいこと言うじゃない。感心したわ」
「さすが勇者様です! 惚れ直しましたです!」
「あの、ちょっと。もしも~し?」
この二人、本気なのか?
「そうと決まれば、王国に行くわよ! 勇者の権力を存分に使いましょう!」
「いや、無理でしょ」
「大丈夫よ、勇者なんだし」
勇者って、なんでもありなのか?




