第二章2 『借金勇者』
【2018年1月20日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
ちょっと危なっかしい美少女と共に旅を再開することになり、僕は職場に別れの挨拶をしてから、町の入り口にやって来た。
「お待たせ~~。さ、行こうか」
「……ねえ」
「ん?」
呼び止められ、振り返ると彼女は少し不満そうだった。
「ど、どしたの?」
「……名前、教えておいた方がいいかしら」
「そりゃあ、知っておいたほうが仲良くできるけど」
「仲良くなんてしないわよ! 私たちは魔王を倒すためだけの、その、仕事仲間なの!」
魔王を倒すためだけの関係……。
「なんか、エロいな」
「……はあ!? あ、あんたどういう神経してんのよ! そ、そそそんな言葉、普通言わないでしょ?!」
「ゴメンゴメン。癖なんだ。ちなみに僕は勇者でいいよ。なんなら様付けでも――呼び捨てでいいです」
剣先を喉元に当てられ、背筋が伸びる。
「……まったく。わ、私は『エリカ』よ。呼び捨てでかまわないわ」
「わかったぜ、エリカ」
名前を呼ぶとエリカちゃんは眉間に皺を寄せて、いかにも嫌そうな顔をする。
「なんか、ムカつくわね」
「まあまあ、旅路は長いんだし、そのうち打ち解けられるさ。――で、どこに向かうの?」
またもや彼女は眉間に皺を寄せる。
「そういうの、勇者が決めるものよね?」
「大体は、そうじゃね? でも僕、勇者なりたての若葉マークだから。どこへいけばいいのか知らないのさ!」
「なんで威張ってんのよ!! ……はぁ、なんでこんなクズ勇者と旅することになったの?」
天を仰いで、エリカちゃんは嘆きの声をあげる。
「ま、なるようになるさ。これまでの僕は、そうやって生きてきたし。ぶっちゃけ、楽なほうがいいっしょ」
「…………とりあえず、お金は?」
は?
「お金、金貨よ。これがないと、宿に泊まれないでしょ? 二人でいくら持ってるのか、今のうちに照らし合わせておきましょ」
「ないよ」
「は?」
「僕、一文無し。だからエリカちゃん、養って」
プルプルとエリカちゃんは俯きながら身体を震わせる。
「エリカちゃん?」
「こんのクズ勇者があああああ!!」
「うわっ!エリカちゃんがキレた!」
激昂したエリカちゃんはフーフーと息を荒くし、こちらを鋭く光る眼光で貫いてくる。
「あんたが勇者じゃなきゃ、一緒にいる理由はないのよ。わかる? 全部、あんたにつけておくから。忘れんじゃないわよ?」
「は、はいっ!」
あまりの迫力につい敬礼してしまう。
こうして僕は、こちらの世界でも借金を背負った。
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「――で、とりあえずどこに向かうのか決めておきましょ」
「そうだね。とりあえず宿が豪華な町に――なんでもないです」
「よろしい」
チョロかった女の子との関係は、一日で立場が逆転した。
ヒトミちゃんよりこえぇ。
「勇者、地図」
「はい」
言われた通り、手早く袋から地図を出す。
エリカちゃんは地図を眺め、頷いた。
「うん。まず、ここから近いテスタラの町に行ってみましょう」
「テスタラ? げ、遠くね? それならこっちのラスベスのほうが……」
「そこは娯楽の町よ。勇者には無意味。それに、決定権はあんたにはないの。わかる?」
借金することになってから、物凄く惨めになってきた。
勇者に主導権のない旅ってなんなんだよ。
「それに、テスタラには凄腕の魔法使いがいるらしいわ。仲間にできたら、魔王討伐も近づくってことよ。……聞いてる?」
こうなったら、せめてハーレムだけでも作らねば。
「勇者、聞いてるの?」
「イエス!」
「い、いえす? よくわからない言葉を使うのね……まあいいわ。行きましょう」
こうして、勇者は長き滞在から旅を再開する。
だが、先頭を歩くのは勇者ではなく、戦士のエリカちゃんだった。




