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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第一章 「社畜魔王、誕生」
19/209

第一章14 『サキュバスの心』

【2018年1月19日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】

 


 私は魔王様の秘書、サキュバス。

 魔王様はサキって呼んでくれている。


 あの時、オーガとの戦いの最中、魔王様に助けられた瞬間、変な感情が溢れた。

 いつもの欲求かもしれないが、少し違う。

 とてつもなく、魔王様の精気が欲しくてたまらなかった。



 夜。

 魔王様が眠る寝室に来てしまっていた。


「ちょっとだけ、いいよね」


 サキュバスは色欲の悪魔。普段は手頃な人間の性欲を糧にしているが、今はそんなものよりも、魔王様に愛されたかった。


「魅了、今の魔王様になら……」


 以前の魔王様には、サキュバスの催淫は通用しなかった。


 でも、今の新たな魔王様になら通用するかもしれない。

 昼間に迫ったとき、顔を赤らめる姿を見てそう思った。


 顔を赤らめて、本当に……。


「あの時の魔王様、可愛かったなぁ……えへへ~~」



「だらしない顔ですね。サキュバス様」



「――! この声、ゆきおん――むぐぐっ!」


 雪女に口を抑えられる。

 もしかしてこの女、私の暗殺を――!?


「魔王様が起きてしまいますから、大声を出さないように」


 ……。


「ごめん」


「少し、出ましょうか」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 寝室の手前の廊下に出て、二人して窓の外を眺める。


「それで、なにしに来たのですか? とても不純な理由が想像できるのだけれど?」


「さ、サキュバスが不純な動機を持つのは、生存本能よ」


「それもそうですわね」


 雪女はからかうように笑っている。


 しまった。

 今の護衛はこいつだったんだ。


「この際、理由はどうでもいいわ。……一つ、聞きたいことがあったのだけれど、いいかしら?」


「なによ?」


「あたし達、護衛衆はともかく、あなたが彼……新たな魔王様に仕えるとは思っていなかったの。理由を教えてもらえる?」


「……!」


「護衛衆は新たな魔王様に尽くす。それは当然のこと。でも、あなたは違うでしょ?」


「そう、だけど……」


「もし、あの方を利用するために仕えているのだとすれば、あなたを殺す必要が出てくる」


 そう言って、雪女は目を細める。


 雪女の言っていることは正しい。

 魔王様には裏切らないって言ったけど、護衛衆やハーピーのような理由もなかった私が、仕える義務はなかったかもしれない。


 他の護衛衆はともかく、雪女は鋭い。


 だから気になっていたのだろう。

 もしかしたら、先の作戦の時、デュラハンに私が怪しい動きをした場合、対処するように言っていた可能性もある。


「私は――」


 だから、理由は言わなければいけない。

 あの人の、彼の側にいられるように。



「私は、新しい魔王様の力になりたい。頼りないし、何も知らないから、放っておけないの」



「それだけなの?」


 ……。


「わからないのよ。こんな気持ち、初めてだから。……ただ、新しい魔王様なら、私は以前よりも忠誠を誓える。それだけは、間違いない」


「……そう。わかったわ。でも、怪しい動きがあれば、わかるわね?」


「ええ」


 どうしてだろう。なんであんなこと言ったのだろう。

 私は、以前の魔王様よりも……。


 結局、その日の夜は寝室に侵入できなかった。


「次こそは……」













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