第一章14 『サキュバスの心』
【2018年1月19日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
私は魔王様の秘書、サキュバス。
魔王様はサキって呼んでくれている。
あの時、オーガとの戦いの最中、魔王様に助けられた瞬間、変な感情が溢れた。
いつもの欲求かもしれないが、少し違う。
とてつもなく、魔王様の精気が欲しくてたまらなかった。
夜。
魔王様が眠る寝室に来てしまっていた。
「ちょっとだけ、いいよね」
サキュバスは色欲の悪魔。普段は手頃な人間の性欲を糧にしているが、今はそんなものよりも、魔王様に愛されたかった。
「魅了、今の魔王様になら……」
以前の魔王様には、サキュバスの催淫は通用しなかった。
でも、今の新たな魔王様になら通用するかもしれない。
昼間に迫ったとき、顔を赤らめる姿を見てそう思った。
顔を赤らめて、本当に……。
「あの時の魔王様、可愛かったなぁ……えへへ~~」
「だらしない顔ですね。サキュバス様」
「――! この声、ゆきおん――むぐぐっ!」
雪女に口を抑えられる。
もしかしてこの女、私の暗殺を――!?
「魔王様が起きてしまいますから、大声を出さないように」
……。
「ごめん」
「少し、出ましょうか」
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寝室の手前の廊下に出て、二人して窓の外を眺める。
「それで、なにしに来たのですか? とても不純な理由が想像できるのだけれど?」
「さ、サキュバスが不純な動機を持つのは、生存本能よ」
「それもそうですわね」
雪女はからかうように笑っている。
しまった。
今の護衛はこいつだったんだ。
「この際、理由はどうでもいいわ。……一つ、聞きたいことがあったのだけれど、いいかしら?」
「なによ?」
「あたし達、護衛衆はともかく、あなたが彼……新たな魔王様に仕えるとは思っていなかったの。理由を教えてもらえる?」
「……!」
「護衛衆は新たな魔王様に尽くす。それは当然のこと。でも、あなたは違うでしょ?」
「そう、だけど……」
「もし、あの方を利用するために仕えているのだとすれば、あなたを殺す必要が出てくる」
そう言って、雪女は目を細める。
雪女の言っていることは正しい。
魔王様には裏切らないって言ったけど、護衛衆やハーピーのような理由もなかった私が、仕える義務はなかったかもしれない。
他の護衛衆はともかく、雪女は鋭い。
だから気になっていたのだろう。
もしかしたら、先の作戦の時、デュラハンに私が怪しい動きをした場合、対処するように言っていた可能性もある。
「私は――」
だから、理由は言わなければいけない。
あの人の、彼の側にいられるように。
「私は、新しい魔王様の力になりたい。頼りないし、何も知らないから、放っておけないの」
「それだけなの?」
……。
「わからないのよ。こんな気持ち、初めてだから。……ただ、新しい魔王様なら、私は以前よりも忠誠を誓える。それだけは、間違いない」
「……そう。わかったわ。でも、怪しい動きがあれば、わかるわね?」
「ええ」
どうしてだろう。なんであんなこと言ったのだろう。
私は、以前の魔王様よりも……。
結局、その日の夜は寝室に侵入できなかった。
「次こそは……」