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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第十章 「ヘルリヘッセ大戦」
183/209

第十章15 『SOS』

※魔王sideです。



 二日目――。

 一日目同様に二つの軍は睨み合いを続けていた。これといった大きな衝突はなく、小競り合いが長引いているような感じだ。


「仕掛けてくる様子はなさそうですね」


 隣で戦況を見守るサキさんが言った。

 人間側には何か作戦があるのかもしれないが、こちらとてただ黙って見ているわけではない。

 こうしている最中も、こちらは海路に軍を回して相手の補給を可能な限り断っている。

 この状況が続けば、何かしら大きな動きがあるだろうが、連中の指揮官はかなり慎重な人間らしい。


「こちらから仕掛けなくてもいいのでしょうか?」


 セイレちゃんがサキさんに言うと、彼女は首を振った。


「強引な手に打って出る必要はないでしょう。雪女は既に敵陣に侵入していますし、こちらは相手の補給を止めている。セイレーン様の軍のおかげでもあります」


「そ、そんなこと……」


 サキさんに素直に褒められ、セイレちゃんは顔を染めていた。

 セイレちゃんはセイレーン族の族長だ。セイレーン族は人魚の種族で、水中で最も力を発揮する魔物。こうして地上でも浮かんでいられるが、水中だと今の何倍もの速度で行動できるらしく、今回の戦いでは相手の補給船を撃墜する役目を負っていた。


 サキさんの考えた作戦とはいえ、かなりえぐい。


「真綿で首を締めるような戦い方だな」


「魔王様、それはどのような意味なのですか?」


「サキさんは知らなくていいよ」


「はぁ……」


 しかし暇だ。

 戦争って聞いてたからもっと派手なものをイメージしてたけど、互いに表立った動きがなければこんなものなのか。


「サキさん、人間側の動きはないの?」


「奴らが裏で動いているのは把握していますが、芽は悪魔族の精鋭たちが潰していますから安心してください」


 魔王軍、強すぎだろ。

 まあこれも、サタナキアを手中に収めている成果でもあるのか。

 サタナキア達の悪魔軍は陣を張り巡らせていて、この拠点周囲を完全包囲する形で警戒を厳としていた。


 死角がない程の魔王軍の陣形に、人間側の連合軍は攻めあぐねているらしいが、人間も勝ち目のない戦いを挑むほど馬鹿じゃないはずだ。


「……連中には何か秘策があるかもしれない。撤退まで油断は出来ない」


「すみませんでした。魔王様の仰る通りです」


 そうは言ったものの、まだ動きはなさそうだ。

 一体、何を狙っているのやら。


 膠着状態が続き、こちらの戦意が喪失する機会を待っている?

 実は既に魔王軍の中に斥候を忍ばせてる?


「なんにせよ、雪女さんの暗殺の成功を待つしかないよ」


「そうですね。……ですが、気になる点があります」


「……雪女さんが感じ取った危険な気配。これがもしかしたら、向こうの最終兵器かもしれない」


 もしそうであった場合は、雪女さんが暗殺に成功する可能性は低い。

 頃合いを見て、彼女を戻す必要がありそうだな。


 戦況を見つめながら、俺はそんなことを考える。


 そして頭の片隅では、昨日の深夜、寝静まった頃に届いた雪女さんとシュネーさんの報告文のことを考えていた。


 勇者との直接交渉は今夜を予定している。

 いくつかの提案は考えているつもりだが、乗ってこなかった場合の案も考えておくか。


 そうして思考に耽ろうとした時、魔王陣営の櫓にサキさんの部下である一人のサキュバスが訪ねてくる。

 彼女は確か、アンデット側の連絡役のはずだ。


「魔王様、族長様、ご報告が……」


 その言葉に、俺とサキさん、そしてセイレちゃんが目を合わせた。


「あちらで聴きましょう。魔王様、よろしいですか?」


「ああ。いこう」


 持ち場を離れるのは気になるが、今はそんなことを言ってる場合ではなかった。

 俺達三人は報告に来たサキュバス族の魔物と共に、櫓の奥に設置してある会議室へと向かう。


 他の魔物には聞かれるわけにはいかない為、サキさんは会議室に入ったと同時に何か呪文のようなものを呟いた。


「何したの?」


「陣を張りました。これで傍受される心配はありません。……それよりも、あなたがここにくるということは」


「はい。アンデット側は、族長様の想像よりも遥かに酷いものです」


「……魔王様」


「ああ。話してくれ」


「はい」


 連絡役のサキュバスは、言葉に詰まりながら説明を始める。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 



 サキュバスの話は、いくつかの段階に分かれていた。

 まず、順を追っていくと、デュラハンさんとコロボックルさんの軍勢は迫りくるアンデット軍勢と合流した。

 しかしアンデットの女帝ヴァンパイアはこちらの提案を聞き入れることなく、進軍を再開する。

 そこでデュラハンさん達の軍が立ち塞がり、睨み合いが続いたらしい。

 だがそれも長く続かず、今は両軍が衝突してしまい、数で圧倒的に不利な状況に立たされるデュラハン軍の趨勢は厳しいものだった。


 以上の事から、デュラハンさんの応援を頼みに来たという。


「デュラハン様は必ず一週間は耐えてみせると言っていました」


「……可能なのか?」


「アンデット族の彼なら、可能かと思われます……。しかし、女帝であるヴァンパイアが本気を出せば部隊は一日を待たずに壊滅するはず。彼女が遊んでいるうちは部隊の壊滅はないはずです」


 サキさんの冷静な分析に、焦りを感じた。

 女帝ヴァンパイアは、それほどまでに危険な存在ということだろう。


「一刻も早く、応援に駆け付けないと……雪女さんに連絡を取ろう」


「どうするのですか?」


 セイレちゃんが訊ねてきた。

 彼女は俺とシュネーさんの関係も勇者との関係も知っている。今夜は間違いなくセイレちゃんの協力を仰ぐことになるだろう。


「暗殺の決行は今夜」


「――となると、連中に知れ渡るのは明日の朝ごろでしょうね。血眼になって犯人捜しをすると思われます」


「うん。その隙をつく。あちらの危険因子は気になるけど、暗殺が成功すれば間違いなく統率がぶれて状況も変わる。……そこで一気に攻めて相手の戦意を挫く」


「魔王様……」


「この戦い、すぐに終わらせよう」


「少し、急ぎ過ぎではありませんか? まだデュラハンの側にも余裕はあるはずですよ」


 焦っているのは分かった。でも、それが最良とも思えた。

 確かにこのまま戦い続ければ勝てる。

 しかしそれでは意味がない。


 魔王の強さ、恐ろしさ、絶望、その全てを連中に叩きこまない限り、また人間が攻め入る事態を作りかねない。


「今のサキさんの作戦は確かに効果的だよ。確実に勝利を求める戦いには向いてる……でも、それじゃあ足りないんだ」


「魔王様、至らぬ点があるのでしたら、ご指摘をお願いします」



「魔王なら、もっと圧倒的に勝ち、奴らに敗北と絶望を与えるべきだろう」



「「――――!!」」



 自分でも何言ってるんだって思うけど、魔王色の思考回路に染まってきた俺にとって、それが最善の選択と呼べるだろう。 

 しかし思いの外というか、案の定というか、高評価の嵐だった。


「さすが魔王様です!! 惚れ直しました!!」


「ちょ、サキュバス様! その発言は聞き逃せません! でも同感です!!」


 二人は顔を真っ赤にしてこちらを熱い視線で見つめてくる。


「すぐに雪女と連絡を取りますね!」


「頼んだよ」


 さて、こっちはこっちでシュネーさんに連絡しておくか。

 ああ言ったものの、今回の作戦は二段構えでもある。


 俺が勇者と交渉している裏で、雪女さんには国王暗殺を試みてもらう。

 そして国王が暗殺された時、勇者も魔王も無罪である証拠を作っておこうという保険付きだ。互いが互いを証人として認識することで、奴の信頼を少しは勝ち取れるだろう。


 あとは、勇者にどう動いてもらうか……あいつがいる限り、連中の戦意が完全に喪失するとも限らないんだよな。


 他に厄介なのはアルカナか。

 連合軍の精神的支柱は国王、勇者、アルカナの三本だ。そのなかで最も崩すのが難しいアルカナは、正直に言ってまだ無策だ。


「どうしたもんかな」


 口では勢いよく言ったものの、言った後に後悔の念が押し寄せてきた。

 だが、それも後の大きな後悔に比べれば安いものだ。


「……待っててね。デュラハンさん。すぐに終わらせて絶対にそっちに向かうよ」


 アンデットが責めてきた方角を見つめ、俺は静かに闘志を燃やすのだった。













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