第十章13 『未知の戦力』
※魔王sideです。
魔王軍と連合軍が激突した一日目が終わる。
魔王軍の奇襲から始まった一日目は、アルカナの力によって連合軍側に大きな損害はもたらされることなく、その後は互いに主戦力は温存したまま、力量を推し量るかのような拮抗した戦いが続き、決着することはなく魔王軍側が軍を引き上げることによって終わった。
「――以上が、本日の報告になります」
一日目の夜。俺は軍議に参加し、サキさんから今回の戦闘における被害を聞いていた。
「そうか。ビースト部隊に被害が出たか」
先陣を切ったビースト部隊の10%がやられた。
その他にも怪我人は多数。被害は甚大とはいかないものの、目に見えてわかるものだった。
「相手方の被害も相当です。悲観する結果ではないかと思われますが」
確かにサタナキアの言う通りだ。
こちらだけでなくあちらも被害は大きい。しかし、計算ではもう少し削れる予定だった。
「すみません。わたしが不甲斐ないばかりに」
そう言って円卓に座るミノ子さんが俯く。
「誰もそんなこと思っていません。あなたがいなければビーストが壊滅していましたよ」
「サキュバス様……」
サキさんがミノ子さんに言葉をかける。
互いの勢力が衝突した際、ミノ子さんは誰よりも多くの敵兵を倒して貢献していた。
おかげで雪女さんも無事に潜入できたようだし、今回の戦果は申し分ないだろう。
「反省会はここまでだ。明日以降の軍議に移るぞ」
「はい、魔王様。では、明日以降の作戦を伝えます――」
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魔王陣営が軍議を始める最中、魔王の傍付きの一人である雪女は、人間側の陣営で身を隠していた。
彼女の役割は連合軍の総指揮をとっている国王の暗殺。
その為にも、慎重に情報を収集している最中だった。
「……どうやら、あのテントで間違いなさそうですわね」
雪女の今の姿は、完全に人間そのものだった。
雪女の一族が使える「雪化粧」という術を使って魔物の匂いや気配を完全に遮断し、一人の人間に偽装しているからだ。
「さて、どうしたものかしら」
人間の姿で近づいてもいいが、テントの警備は万全だった。
交代制の護衛が二人。これは問題なく対処できそうだが、テントの内部が尋常ではない。
雪女は内部の気配を探り、国王と共にいる人間から異常な危険性を感じている。
アルカナとは違う、別の危険性。
(魔王様と似て非なる力……魔物か、それとも――)
正体不明の戦力の存在が、こうして二の足を踏ませていた。
「とりあえず、今宵は様子見にしておきましょうか。こちらにいるシュネーとも連携を取っておきたいですし、魔王様への報告も済ませなくては」
雪女は遠巻きに見ていたテントから目を話し、踵を返した。
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「ふい~~、終わったぁ」
「魔王様、軍議お疲れ様です。いつもより硬いですね」
「あぁ……疲れが取れる」
「ふふっ。ここですか?」
軍議が終わり、俺は部屋に戻ってセイレちゃんに肩を揉まれていた。
正直、もう寝たい。
だがそんな弱音も吐けそうにない。いまこうして休息をとっている間にも、外では見張りの魔物たちが仕事をしているのだから。
コンコンコン。
「失礼します。魔王さ、ま……セイレーン様、少し魔王様にベタベタしすぎではありませんか? 魔王様はお疲れなのですから、甘えるのも大概に――」
「いえサキュバス様。お勤め後のマッサージは正妻の役目ですから、お気になさらずに」
あれ、なんか数分で部屋の雰囲気が険悪になったぞ。
「ま、まあまあ二人とも。サキさん、何か用かな」
「――! も、申し訳ございません。実は、雪女から報告書が届いたので、それをお持ちして誘惑の術を使ったところで魔王様と――――その、なんでもないです」
物凄く不穏なセリフだった気が……。
まあいいか。
「こちらになります」
「どれどれ」
雪女さんの報告書は紙で出来ていたが、少しだけ冷たかった。
絵巻の様にくるまれたそれを拡げると、そこにはこう書いてある。
『人間たちの陣営に潜入成功いたしました。しかし、国王の暗殺は難しそうです。相手方にアルカナ以上の戦力を確認いたしましたので、それを報告します』
「アルカナ以上の戦力?」
「どういうことでしょう?」
隣からのぞき込んでいたセイレちゃんも首を傾げる。
それを見ていたサキさんは何か言いたそうにしていたが、こちらに近づいてきてセイレちゃんとは反対から報告書を覗き込んだ。
「……雪女の気配察知はそこらの魔物とは訳が違います。雪女がここまで言うからには、警戒すべきですね」
「そ、そうなんだ」
両サイドから挟まれると、正直、読みづらい。
「でも、妙ですよね。もし人間側がアルカナよりも優れた戦力を有しているのだとすれば、その、すぐにでも投入させて来るとは思えませんか?」
「確かにそうですね。……国王の暗殺は難しいかもしれません」
正体不明の戦力……気になるな。
「とりあえず雪女さんには慎重に行動してもらうように返信しておこう」
「そうですね。そのようにしておきます。……ところで、いつまで魔王様にくっついているのですか? セイレーン様」
「当然です。夫と触れ合っていたいと思うのは、正妻であれば当然のことですから」
「「……………………」」
バチバチッッ!!
またこれかよ!
なんか、正妻になってからの方が激化してないか?! しかも、セイレちゃんも反論が鋭くなってるし。
「……はぁ」
こうして、魔王陣営の夜はいつも通りに更けていった。