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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第十章 「ヘルリヘッセ大戦」
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第十章4 『果ての大陸』

※勇者視点です。




 魔物に支配されたヘルリヘッセ奪還のため、大国アゼール主導のもと世界各地から連合軍が集う。

 彼らは果ての大陸リゼットに集結し、魔物と一線を交えようとしていた。

 そのせいか、未曽有の大戦が起きるかもしれないと、世界中で緊迫した空気が流れる。

 そんな中、勇者一行はその大戦を止めるべく、果ての大陸へとやってくる。



「うはぁ……」


 これは壮観だ。

 僕らは果ての大陸リゼットに到着したのだが、港には様々な国旗を掲げた船で埋め尽くされていた。


「どうすんの? 停泊する場所すらなくね?」


「そうね……思ったよりも動きが速かったわ」


「どゆこと?」


「大きな戦いとなれば動くのは人だけじゃない。物資がないと戦いにならないでしょ? だから連合軍のほかに商人の連中も集結してるのよ」


「成程……」


「その可能性は示唆してたから、なるべく早く来たつもりだったんだけど……読みが外れたみたいね」


 人が集まれば金も集まるってことか。なんとなくわかるぞ。

 しっかし、こんな危険な場所に足を踏み込むなんて……物好きな連中も案外多いんだなぁ。


「エリカさん、どうするです?」


 操舵室から出て来たモルちゃんが訊ねると、エリカちゃんは少し考え込む。


「仕方ないわね。港は諦めて少し離れた場所に停泊しましょう」


「大丈夫なの?」


「苦肉の策よ。無許可の場所に停泊なんかしてたら、罰金刑に処されるわ」


「また罪かよ!! 牢屋はやめてくれえええええええ!!」


 なんか、こっちの世界に来てから罪を犯しまくっている気がするんですけど。


「一ついい事教えてあげるわ」


「い、嫌な予感しかしない」


「罪はバレなきゃいいのよ。私達は勇者なんだから、少しくらい大目に見てもらえるわ」


 大目に見てもらえた試しがないのは気のせいだろうか。 


「それに、こんな混乱の最中だもの。私達みたいな連中に構ってる暇なんてないでしょう?」


「滅茶苦茶だ……」


「わたくしも、さすがにドン引きですよ。ですが、それしか方法はなさそうです」


「モルちゃんまで!?」


「危なくなった時は、勇者様の手の甲に浮き出ている賢者の紋章を見せるです。我々が勇者一行だと知れば、敵と疑われることはないですよ」


「またその方法? これまで最終手段使いまくって失敗してるケースしかないんだけど」


 いつも通りの行き当たりばったり作戦。

 ついこないだ、自称勇者として幽閉された経験を全く生かせてないよな、これ。


「それじゃあ、あんたに作戦があるの?」


 かと言って、僕に妙案が浮かぶはずもない。


「よし、それでいこうか」


「そうと決まれば、早速船を止めて連合軍の駐屯地へ向かうわよ」


 エリカちゃんの号令で船は再び動き出し、沿岸を沿うように船が進む。

 そして遠くに港が見えるような位置まで船が進むと、何もない大陸の端に停泊することとなった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「久しぶりの陸だぁ~~~~」


 無断で、しかも怪しげな位置に船を停泊させた僕らは、一応貴重品を身に着けて船から降りる。


「勇者様、ここからは気を付けた方がいいですよ」


 僕が身体を伸ばして一息ついていると、準備を終えて杖を手に持ったモルちゃんが注意してくる。


「え、なんで?」


「ここは既に大陸の殆どが魔界と化した人間界の果てです。魔物の生息数も他の大陸とは比にならないですし、何より――」


「何より?」


「今回の大戦を聴きつけた連中が集結しているです。安易に一人で行動していたら死ぬですよ」


 どゆこと?


 僕の表情を読み取ったのか、船の最終確認を終えたエリカちゃんがやって来て溜息をつく。


「さっきも言った通り、ここには連合軍以外にも集まってる連中がいるって言ったでしょ?」


「うん。商人でしょ?」


「はぁ……」


 深い溜息をつかれた。

 何か間違ったこと言ったか? 言って、ない、よね?


「勇者様、ここでわたくしから問題です」


「唐突だね、モルちゃん」


「世界規模の大戦が起きる時、そこに駆けつけるのは誰でしょうか?」


「……そりゃあ、軍隊でしょ」


「この世界の状況を思い返すです。相手は魔物です。つまり?」


 魔物の天敵ってことか?

 それはもちろん……あれ、僕じゃね?


「正解は、勇者様です」


「成程。でも、それがどうして危険につながるのさ」


「勇者様が来ると予測できるなら、勇者様を快く思わない連中はどうするです?」


「そんなの、どさくさに紛れて――ハッ!?」


「ようやく気付いたわね」


 おいおいおいおいおいおいおいおい冗談じゃないぞ。

 魔物は当然の如く僕を狙うじゃん? それに加えて、あいつらだよ。あのヤバい連中だよ!


「救済の使徒……またあいつらかよ」


「それだけじゃないわ。あいつらに雇われた傭兵や殺し屋。魔王の手先に加えてこういう戦争で儲けようとする連中にとって、平定の存在であるあんたは邪魔になる。つまり商人の中にも敵がいるかもしれないのよ」


「はああっ!??」


 今日一番のでかい声をあげた。


「冗談じゃない。よし、今すぐ帰ろう。次の賢者の末裔を捜した方がいいよな、うん」


「世界の危機をほったらかしてどこに行くつもりよ、救世主」


「こういう時ばかり救世主扱いやめてよ! 僕、そんな大層な人間じゃないでしょ!?」


「それは知ってるわよ」

「知ってるです」


 肯定された!? いや、わかってたけども。


「うだうだ言ってないで、行くわよ。何のためにあんたの手の甲に賢者の紋章が浮かび上がってるのか思い出しなさい」


 そう言ってエリカちゃんはツカツカと歩き始める。


「何のために……はぁ、わかってるよ、そんくらい」


 彼女は命を懸けてでも勇者ぼくを信じている。

 勇者が世界を救うことを、願っている。


「勇者様、エリカさんが行っちゃうですよ」


「ふぅ……わかってるよ。行こう」


 覚悟決めるか。

 このまま大勢の犠牲が出るのを放っておくわけにもいかないしな。


 果ての大陸リゼットの地を踏みしめ、僕はモルちゃんと共にエリカちゃんの後を追った。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 船を泊めた場所から港町を避けるようにして内陸方面へと歩き始めた。

 荒野を数十分歩いただけで、視線の先に紫色の空が見えてくる。


「モルちゃん、あれが魔界ってこと?」


「そうです。あの先……変色した空の下には魔物たちの楽園、魔界が広がっているですよ」


 あの下……なんか、気が滅入りそうな空だな。


「ヘルリヘッセは現在、あの空の下にあるです。今回はアゼール王国が主導してヘルリヘッセを目前とした場所に国際連合軍の駐屯地を建設しているらしいです。まずはそこまで歩くですよ」


 なんか、マジにヤバい空気だな。

 ひょっとして、僕らの姿とか魔王に見えてたりするんじゃねえの?

 あっちもあっちで戦闘準備してたら、それこそ人間に勝ち目なんかないよな。


 僕がひそかに不安を募らせる中、無言でリゼットの地を踏みしめるエリカちゃんの背中を追い、歩き続けた。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 そして歩くこと一時間弱。ようやく駐屯地へと辿り着く。


「うへぇ……歩き疲れた」


「勇者様、大丈夫です?」


「ま、まあね」


 強がって見たものの、かなりきつかった。


「しかし、すごい場所だな。遠目にもわかったけど、実際に来ると人の量が半端じゃない」


 アゼールの駐屯地には、何百ものテントが建設されていた。それもバラバラに建てられているのではなく、国旗ごとに集中して建てられていて集団の間には道路が形成されている。この整頓された並びようなら、上から見たら碁盤の目のようになっているかもしれない。

 そんなテントの数にも圧倒されるが、それよりもすごいのは武装した人間の数だ。


「お前は西から来たのか」

「まあな。このビッグウェーブに乗らないで傭兵が務まるかよ」


 道を歩いているだけでどれだけの人数とすれ違ったのか数えきれない。


 しかも歩いているのは屈強な男達。

 鎧を着こんだ者から軽装の者まで、明らかに「腕に自信がありますよ」って連中が大挙していた。


「エリカちゃん、僕らは何処へ向かうの?」


「そうね。とりあえず怪しまれないようにして、アゼール王国のテントを捜しましょう。武装は解除しなくていいわ」


「了解」


 確かに、こんな中で剣も持たずに歩いてたら不自然だよな。

 僕らはアゼール王国の国旗が掲げられたテントを捜すべく、連中の足並みにそろえて道を歩いた。


 またまた歩くこと数十分。ようやくそれらしいテントをモルちゃんが見つけた。


「こ、ここか。確かにそれっぽい」


 テントの数が明らかに多く、巨大な暗幕が張られたテントを構えている。


「間違いなくアゼール王国の国旗ね。さあ、どうしようかしら」


「まさかのノープラン……」


 アゼール王国のテントの手前で足を止めた僕らは、明らかにテントの前で立っている鎧を着こんだ騎士から凝視されている。

 仮面をかぶって視線は分からないものの、明らかに見てる。


「いっそのこと、正面突破で問題ないですよ」


「そうよね。それが手っ取り早いわね」


 この子達、これ本気で言ってんだよね。

 ってか、こんな場所で作戦会議とかヤバくね? あいつ見てるし……ってか近づいてきたじゃん!


「お前達、ここで何をしてる。見たところ、雇われ傭兵のようだが」


 低い声の鎧の主が歩み寄り、声をかけてきた。

 けどこれはチャンスじゃね? あいつは傭兵と勘違いしてるんだし、ここは口裏を合わせれば――



「私達は勇者一行よ。今回の奪還戦に協力するためにやって来たわ。国王に会わせなさい」



「勇者だと?」


 エリカちゃん何言ってんのおおおおおおお!?

 まさかの真っ向勝負を挑んだエリカちゃんの発言。これまで、どれほどこの発言が疑われてきたかなんて数えたくもない。


 ほら、明らかにあいつ怒ってんじゃん。顔は見えないけどさ。



「控えい控えい。この勇者様が目に入らぬか、です」



 ちょ、モルちゃんまで!?

 エリカちゃんの暴走に動揺していたら、今度はモルちゃんが仰々しい声で僕を指さした。


 あいつの怒りも頂点に達しているような気がする。


「勇者、手の甲を見せつけなさい。それを見ればこいつも納得するわよ」


「手の甲?」


「賢者の紋章ですよ、勇者様」


 本当に大丈夫なのか? 手の甲を見せたら彼の持っているごっつい剣でぶった切られないか?


「……はい」

 

 一抹の不安を抱きつつ、僕は手の甲を見せてみる。


「――!?」


 すると、騎士は明らかに動揺し、持っていた剣を地面に落とすと膝を折って跪いてきた。


「え?」


「も、申し訳ございませんでした! すぐにお通しいたします!」


「それでいいのよ」


「控えい控えい!! これ楽しいです」


 どうやら、賢者の紋章はかなりの効力があったらしく、門番をしていた騎士は大急ぎでテントの中へと戻り、数分してから戻って来ると中に入るよう促してきた。

 こうして僕らは強行策でアゼール王国のテントへと入ることができた。

 そしていよいよ、世界最大の大国アゼールを統べる国王との対面の時が来た。


 忘れてたんだけど、これからが本番なんだよな。

 頼むから、エリカちゃんが暴走しませんように。


 儚い祈りを込めつつ、僕はテントへと足を踏み込んだ。
















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