第十章2 『故郷』
※勇者視点です。
砂漠王国で賢者の末裔ショコラと出会い、勇者の力を解放させたクズ勇者。
勇者一行は砂漠王国を後にして、今は大海原を船で進んでいた。
「エリカちゃん、次は何処へ行くの?」
モルちゃんの運転で船が進み、海風を肌で感じて髪をなびかせる中、僕とエリカちゃんは甲板に立っていた。
エリカちゃんはこんな時も鎧を着て、赤い髪をなびかせている。
「モルと相談したんだけど、新聞の記事の真意を確かめるためにもヘルリヘッセへ向かうわ」
「ヘルリヘッセ……」
確か、エリカちゃんの故郷で、今は魔物に占領されている町だ。
魔界に程近く、現在は各国の兵力をあげた国際連合軍のヘルリヘッセ奪還へ向けた動きが目立っているらしい。
エリカちゃんは鎧の内側から取り出した新聞に目を通す。昨日、港で買ったものだろう。
「なんて書いてあるの?」
「大国アゼールの主導する国際連合軍が既に『果ての大陸リゼット』に入った情報よ」
「その、大国アゼールってのは?」
エリカちゃんは慣れたのか、少しも驚かずに説明を始める。
「大国アゼールは、世界最大の領地と人口を有している王国よ。加えて世界最強の戦力『騎士団アルカナ』を保持していて、世界の権力の半分を握っているとも言われてる」
「すげぇ……」
「感心してる場合じゃないわよ。私達はそいつらを止めに行くんだから」
そ、そうだった。
魔王の圧倒的な力を知っている僕らが、無駄な犠牲を出さず、かつ魔物を刺激しない為にも、連合軍を止めなくては。
ヘルリヘッセを戦場にさせないために向かっているんだ。
「でも、かなり難しいんじゃね? 相手は世界最大の王国なんでしょ?」
「ええ、それに他の国も協力しているから、リゼットに集結するのは間違いなく、人類最強の戦力ね」
マジかよ……。
「でも恐らく、アルカナをもってしても魔王の軍勢に勝利することは出来ない。連中は確かに人類最強かもしれないけど、彼らに討伐できるのなら、最初から魔界なんて存在していないわ」
だから勇者を頼るしかないってことになるのか。
ま、その勇者は裏で魔王と内通してるんだけどね。
「そのアルカナって連中を止める方法は考えてるの?」
「まだよ。こればかりは、行って状況を確認しないと……」
そう言って遠く水平線の彼方を見つめるエリカちゃんの姿は印象的だった。悲しんでいるのか怒っているのか、一言では言い表せない様な表情。
そんなもの見せられると、つい、見栄を張ってしまいたくなる。
「エリカちゃん、安心してよ」
「?」
「僕が何とかするから。ほら、ショコラちゃんのおかげで強くなったし!」
右手の拳を握ると、拳を包み込むように炎が宿る。
それを見てエリカちゃんは少しだけ微笑んだ。
「頼りないけど、頼りにさせてもらうわね……」
「うん。任せてよ!」
なんとなく自信があった。
なにせ、僕は魔王の奴と裏で繋がっているのだから、魔王に掛け合えば被害を抑えることも可能かもしれない。
そんな大雑把な希望を抱き、僕は水平線の彼方に現れた影を見る。
「あれがリゼット……」
「そう。人類にとって最果ての大陸……本来はあの先にも大地があるけれど、今は魔界と化しているわ」
エリカちゃんはそう言って唇を噛みしめた。
そんな彼女の隣で、僕も少しだけ決意を新たにするのだった。