第十章1 『新任護衛衆、エルさん』
第十章
奇数(1,3,5……)話:魔王視点
偶数(2,4,6……)話:勇者視点 となります。
*魔王視点
誓いの儀式から数日が経過した。
そして今日は、エルさんが護衛担当の日となっており、俺とセイレちゃんの仕事部屋になっている執務室へとやって来たのだが……。
「魔王様、完了しましたよぉ」
「はやっ!」
エルさんは異常なまでに事務処理が早かった。
これにはセイレちゃんも少し頬を膨らませているが、エルさんはマイペースで仕事を終えると、そのまま護衛の任に戻る。
「エルちゃん、すごいです……」
「あはは……確かに」
この俺の雑用スキルを上回る手際の良さと効率の良さ。
エルさん、只者じゃないとわかってたけど、ここまでとは。
「魔王様、お茶になります」
「ありがとう。一緒に飲まない?」
「はいっ!」
とりあえず、仕事が片付いてしまって暇になる。
これまでで最速だったな。他の護衛衆は雪女さん以外パワータイプだから事務処理を任せたことはなかったけど、興味本位でエルさんに頼んだらいつもの半分の時間で完了した。
ズズ……。
「あ、そうだ」
エルさんは唐突にこちらを見て、次に隣にいるセイレちゃんを見た。
「お二人の子供は、まだですか? 早く見たいですねぇ」
「「ぶふっ!!」」
二人してお茶を噴いた。
「げほっ、ごほっ、気管に……」
「魔王様、すぐにお拭きします!!」
「あれ、聞いちゃまずかったですか? 魔王様とセイレーンさんの子供なら聡明な魔物が生まれるかなと思い、興味本位でつい……」
エルさんの天然攻撃だったようだ。
彼女は見識の深いエルフ・シルフ族をまとめ上げる族長のはずなのに、どうも抜けている気がする。
こぼれたお茶を拭き取り、セイレちゃんは顔を真っ赤にしてエルさんに抗議した。
「もう、エルちゃん! そういうのは、その、挙式を挙げて正式に正室となってからでしょ?」
「あ、そうだったね。挙式はいつ挙げるの?」
「い、一週間後ですよ」
セイレちゃんの言葉通り、一週間後に予定している。
これは先日、サキさんの提案で決まったことだ。
『挙式の予定はいつですか?』
あれを聞いた時は嫌がらせかと思ったけど、どうやら魔界では正式に挙式をする必要があるらしい。
出来るだけ早く挙式の予定を組み、魔界全体に報せておく方がいいとのことだったが、エルさんは耳にしていなかったらしい。
書面で各方面の幹部に宛てたんだけど、護衛衆は盲点だった。
「それは楽しみですね」
なんにせよ、また面白い人が護衛衆に加わったもんだ。