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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第九章 「クズ勇者と、砂漠の王女」
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第九章24 『疑わない心』



 勇者一行はエリカの離脱があったものの、ついに救済の使徒の司祭”不信のロスト”と対峙した。

 カスタード王国で起こっている暴動や異変を解決すべく、勇者とモル、そして王女ショコラはロストと睨み合う。



「不信のロスト……」


「世界のゴミに名前を呼ばれるとは、光栄ですね」


「世界のゴミと言われたですよ、勇者様」


「そこ拾う必要なくね? でも、ビンゴだったみたいだ。あいつが国王や国民たちに何かしてやがった。現場を押さえさせてもらったからな」


 僕の言葉に、司祭のような男は小さく笑った。


「何かしていた……幼稚な考えだ」


「まったくです」


「せめてモルちゃんは僕の味方してほしいんだけど」


 僕らはつい先程、謁見の間の手前までやって来た。

 すぐに突入しようとすると、モルちゃんが僕とショコラちゃんを止め、様子を窺ってから突入した。


「私のお父様に、何を吹き込んでいたのですか?」


「人聞きが悪いですね。助言ですよ」


 助言ね、聞こえはいいけど、本質は違うよな。


「救済の使徒の司祭は、どれも変人ばかりのようです」


「同意」


「おやおや、酷い言われようだ。……けど、自分は少しばかり感謝しているんですよ。痛みを退けてくれたからこそ、実験を開始することができたのだから」


「実験?」 


「そう、実験です。……ここから先、国王には避難してもらいましょう。死んでしまっては、自分の実験に支障が出そうだ」


 そう言ってロストは国王の前に立ち、掌をかざす。


 ギュオオオオンッッ!!


「なっ!」


 大きな音と共につむじ風が起こり、国王の身体を持ち上げると謁見の間の奥へと吹き飛ばした。


「お父様!!」


「ショコラちゃん、近づくのはマズいって!! モルちゃん、何が起きたの?」


 僕はショコラちゃんを手で制しながらモルちゃんに訊ねた。


「あれは魔法ですよ。風の魔法……やはり魔力は桁違いです」


 パチパチパチ。


「……!」


「一瞬で自分の魔法を見破るとは、素晴らしい」


 拍手が広間に響き渡ると、ロストはゆったり玉座に腰掛ける。


「そこに座るとは、どういう意味かお分かりですか!?」


「王女様、そう怒ってはいけないですよ。ここに座るということは、現王への侮辱を意味します。自分の行動に迷いはありません」


 足を組み、悠然と玉座に座るロストにショコラちゃんは耐え切れなくなったのか、杖を構えて魔法陣を出現させた。


「ショコラちゃん!」


「勇者様、下がっていてください! 炎よ走れ、フレア!!」


 ビュオンッッ!!


 赤い魔法陣が浮かび上がり、そこから炎の弾が撃ちだされるとロスト目掛けて一直線に飛んでいった。

 しかしロストは慌てるそぶりを見せず、緑色の魔法陣を展開した。


「この程度、簡単に掻き消せますよ」


 ロストは言葉通り向かいくる炎の弾を風で掻き消す。


「……っ!」


「王女様、落ち着くですよ。奴の挑発です」


「モル様……すみません」


 ショコラちゃんは落ち着きを取り戻し、杖を下げる。


「あいつの魔法は迷いのアビスと同様に信徒を魔力源としているはずです。魔力が尽きることなく、そして強力な魔法を使い続けられる。こうした条件下の元、こちらから無意味に仕掛けるのは危険です。勇者様、論戦は任せるですよ」


「あんな奴に論戦とか無理じゃね?」


「それじゃあ、倒した方が早そうです」


 モルちゃんが杖を構えると、ロストは玉座に座りながら指をパチンと鳴らした。


「あなたは厄介そうですから、止めさせていただきますよ」


 指を鳴らして魔法陣を出現させると、ふわっとした風を起こした。


「これは一体――」 


 ショコラちゃんの言う通り、魔法というよりは扇風機みたいで心地いいんだけど。

 これ、ただのそよ風じゃ――。


「――っ!」


 ぐらっ。

 僕達が風を感じている一方、隣でモルちゃんがいきなりバランスを崩して倒れかける。


「え……モルちゃん?」


「ど、どうされましたか!?」


「身体が上手く制御できないです。これは魔法ではない……一体、何を――くっ」


 そう言いながらモルちゃんは座り込むと、なにか自身に魔法をかけていった。


「勇者様、あとは、頼んだです。フィクス……」


「うわっ!!」


 ビカァァッッ!!


 モルちゃんの魔法だろうか、魔法陣から眩い光が溢れだした。

 眩しさに目を瞑ってしまったが、目を覚ますとモルちゃんは気を失ったように倒れ込んでいた。


「モルちゃん!?」


「今の……光魔法で自身を気絶させたようです」


 パチパチパチ。

 ロストが拍手を送ってきた。奴は玉座で悠々と足を組み換えながらほくそ笑んでいる。


 無性にムカつく。


「……見事だ。まさか、仲間を傷つけない為に自らの行動を封じるとは」


 あいつ、何かしたのか? 指鳴らしただけだろ。


「ふふ、勇者に通用しないことはわかっていたが……どうやら王女様は余程、人を疑うことを知らないらしい」


「どういう意味だよ、お前、モルちゃんに何をしたんだ!!」



「これは救いの御業……自分が崇拝する教祖様より施された力ですよ。”不信の粒子”といって、掌から目に見えない粒子を生み出し、その粒子を吸った者は周りを疑わずにはいられなくなる。彼女のように直接吸い込めば耐性があろうと発作が起きる」




 見えない粒子……そのせいで周りの人たちは変になったのか。あの時の黒煙や、双子の指さしみたいなものだな。


「もしかして、宮殿で起こったさっきの異変も……」


「時限式で仕掛けておきましたよ。突入し、最後の仕上げをする必要がありましたので」

 

「……お前、何が目的なんだよ。僕の命を狙ってるとは思えないんだけど?」


 思えば迷いのアビスも、僕を狙っていたわけではなかった。

 戦争を長引かせていた理由は、僕を始末するためとは思えない。



「目的ですか。それは簡単なことですよ。正しき救済の為です」



 やはり、こいつらの言ってる事はよくわからない。


「これのどこが救済なんだよ。お前の周りに倒れてる人たちは、救われてないんじゃないか?」


「ええ、しかし確実な成果を得るためには実験が必要。詳細を話せば、今回の計画は第一段階の実験に過ぎない」


「実験、ねぇ」



「そう、実験ですよ。今回の実験で成果を得ることが出来れば、救済の方式を完成することが可能なんです。僅かな犠牲でその解に辿り着けるのであれば、これほど素晴らしいことはない」



 連中は揃いも揃って、狂ってる。


 まともに話しても仕方なさそうだな。

 しかしどうする。モルちゃんは戦えないし、僕とショコラちゃんだけで……。


「勇者様」


「え?」


 僕が一人で悩んでいると、隣に立っていたショコラちゃんは腰の剣と杖を抜いた。



「勇者様、私に力を貸してくださいませんか?」



「ショコラちゃん?」


「あの者はたった今、街に起こる異変の正体を明かしました。私は、愛しき国の民を苦しませるような輩……許せません」


「ショコラちゃん……」


 強い眼差しを見せながら、厳しい口調でショコラちゃんが言い切った。

 ここは、男みせるか。


「力を貸すなんて言わないよ。……僕と力を合わせて戦ってほしい。今回はエリカちゃんとモルちゃんもやられて、少し気が立ってるんだよ」


「……! はい、かしこまりました。勇者様!!」


 僕も剣と盾を構えてみせる。

 すると、玉座に座るロストは立ち上がり、拍手をしてきた。


「素晴らしい、実に素晴らしい友情ですね。しかし、目に見えない力を信じるとは愚かしいことですよ」


「何とでも言えよ。誰もお前に信じてほしくないっての」


「言いますね……良いでしょう。勇者を討ち取り、教祖様に捧げ、自分が司祭の頂点に立ちます。そうすれば、世界を救うことも出来る」


 ロストはローブの内側から杖を取り出す。


「さ、行くよショコラちゃん」


 僕は震えるショコラちゃんの手を握り、目を見てそう言った。

 すると彼女は目を丸くし、力強く頷く。


「はいっ!!」













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