表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第一章 「社畜魔王、誕生」
16/209

第一章12 『鬼のオーガ』

【2018年1月19日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】

 


「ぎやあああ!」



 オーガ達の断末魔が木霊する。

 洞窟の中にいたオーガ達は、慌てて出てきて、デュラハンさんとミノ子さんの部隊に次々とやられていった。


「こんなものか!」


 デュラハンさんが怒鳴りながら斬りつける様は、恐ろしい。

 これを見るだけで、魔王軍の強さがわかる。


「魔王様! 我々は内部へ!」


「頼んだ!」


 彼らは洞窟内部へと入っていき、残党狩りを行うようだ。


 手筈通り、オーガ族は壊滅状態だった。

 無双の強さを誇る護衛衆の部隊や、上空からのフェニちゃんが火の球を雨のように降らせている。

 その地獄のような連撃に、オーガたちは命を散らしていった。


「……」


 俺は目を逸らさず、その光景を見つめる。


「魔王様、大丈夫ですか?」


「……ありがとう、サキさん。でも大丈夫。これが、魔王としての責任だから」


 命令をしたのは俺。

 彼らの命が散るのは、俺が命じたからだ。


 目に焼き付けるのは辛いけど、俺は目を逸らさない。

 これは、魔王としての役目。ハーピーの無念を晴らす、上に立つ者の宿命だ。



「こっち、来て、ます……!」



「――!」


 洞窟の方角を見つめていると、後ろから声がした。

 セイレーンさんだ。


「どうしたの?!」


「少数、迫ってきて、ます。こちらは、任せて、魔王様は、離脱、して、ください……コホッコホッ」


 セイレーンさんは普段より流暢に話し、咳払いを始める。


「魔王様! こちらへ!」


「あ、ああ!」


「耳を――」


 サキさんが耳を塞ぐようジェスチャーしてきて、言われたとおりに両手で塞ぎ、彼女のあとに続いて走る。


 すると、驚くほどの美声が塞いだ耳に届いてきた。


「これって――」

「振り返ったら巻添えです!」


 タッタッタッ!



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 腕を引っ張られ、拠点から離れた場所へとやって来た。


「ここなら、安心です」


「お、終わったの?」


 訊ねると、少し残念そうな顔を浮かべる。



「まだ数が足りません。それに、先程の奇襲で倒せたとは思えないのが、族長のオーガです。彼は身丈程の斧を持ち、とてつもない怪力の持ち主。力だけなら、ミノタウロスに匹敵します」



 それを聞いてゾッとする。

 洞窟を軽々破壊していたミノ子さんに匹敵する怪力なら、振りかざす斧はどれ程の威力か。


「私の部隊とも離れてしまいました。すぐに戻りましょう」


「わかった――」


 そう言ってサキさんの方を向くと、血の気が引いた。


「魔王様?」


 彼女の真後ろ。

 巨大な影が手に持つのは、例の斧だ。


「さ、サキさん……」


「どうされました?」



 駄目だ。気づいても遅い。

 向こうは、気づいてる。



「みつ、け、た……」



 族長オーガの声に、サキさんも気づくが、斧が振り上げられている。


 このままじゃ、サキさんが……!

 そう思うよりも先に、足が、動いていた。


「下がって!」


 叫びながら駆け出して、サキさんの肩に手をかける。


 ドッ――!


「ま、魔王様!?」


 そのままサキさんを突き飛ばし、手前に躍り出た。



「死ねえええええ!!!」



 族長オーガの斧と咆哮を正面に捉え、全身が震えた。

 刹那、あの時の光景を思い出す。



 迫り来る電車。

 これは、あれと同じ。

 族長の斧が迫っていた。

 つまり、俺は、死ぬのか?



 あの時は、何も感じなかった。



 でも今は――死にたくない!



「うあああああああああああ!」



『それはあくまでも護身用です。魔王様が使うことはないですから、安心してください』


 もしかしたら、サキさんなら無事だったのかもしれない。


 でも、そんなのわからないし、女の子がピンチなら、助けるのは魔王でも勇者でも関係ないだろ。


 腰に差してある剣を思い切り引抜き、そのまま振り抜く。


 ズブシュッッ! ボトッ!


「うがああああ!」


 身体が、やはり覚えていた。


 俺は斧が振り下ろされるよりも先に、得物を握る右手を切り落とす。

 オーガは叫び声をあげ、そのまま膝をついた。


「はぁ、はぁ……やったか?」


 右手には肉の感触と骨の感触が残っていた。見るだけで卒倒しそうな血まみれの剣を見つめ、意識が遠のきそうになる。

 魔王の腕力でなければ、一刀両断は無理だった。


「あ、が、うぅ」


「――!」


 まだ、息がある!

 集中しろ。足に力を込めて!


「うがあああ!」


 咆哮とともにオーガは捨て身の突進を仕掛けてきた。

 魔王の声か、サキさんの声か、誰の声かわからないけれど聞こえた気がする。

 気がすると言ってしまうほどに、その死線に集中していた。


「もう、俺は死にたくない!」


 叫んで、目を瞑らず、俺はオーガの胸目掛けて剣を振り切る。


 ザバシュッッ!!


 今度は、布を切り裂くような感触と音が耳元に語りかける。


「く、ごはっ」


 見るとオーガの胸元が真横に切り裂かれていた。

 血液がゴパッッと音をたてて吹き出し、俺の全身に降りかかり、鳥肌が立つ。


「みご、と……」


 そしてオーガは何故か微笑み、そのまま倒れ込んだ。



「魔王様アアッッ!」



 サキさんが駆け寄ってきて、遠くから護衛衆も急いで駆けつけるのが見えた。


 全身が嘘みたいに固まっていた。

 当然と言えば当然だった。

 俺は初めて、自分の意思で罪を犯したのだから。


 もう、戻れない魔王の道。悪逆と殺意に溢れた修羅の道に足を踏み込んだのだ。


「魔王様、大丈夫ですか?!」


「あ、ああ」


 やべ。身体、力が――。


 ドサッ!



「魔王様!!」



 とりあえず返事をしたものの完全に力が抜けた。

 初めて交わした命のやり取りに、今頃、身体が正直になる。


 そしてそのまま気を失って、崩れ落ちた。










評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ