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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第九章 「クズ勇者と、砂漠の王女」
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第九章18 『メイドの役目』

 


 勇者一行はカドラの処刑を止める為、大広場へと足を運ぶ。

 そこではスカルピアが処刑を開始していたが、その途中、救済の使徒の司祭”痛みのユーニ・ユーリ”が現れる。

 彼らの手によってスカルピアは成す術なく殺され、カドラはどうにか助かった。

 しかし、救済の使徒は次に勇者一行の狙うのだった。




 勇者たちが救済の使徒と交戦している最中、ショコラ様とカドラは混乱しながらその光景を見ていた。


 ただ一人、私を除いては――。


「どうなっているの? 彼らは、どうして救済の使徒に狙われているの?」


「ショコラ様、我々は逃げた方が――」


「……駄目よ。スティは、あの光景を放っておけるの?」


 多勢に無勢、明らかに勇者一行が不利なことは間違いない。

 そしてあの様子だと、ジリジリと追い詰められていく。


「この拘束さえ外せれば……!!」


 ショコラ様は素直で真っ直ぐな人間。だからこそ、私が幼い頃からあこがれた存在だ。

 絶対に、死なせるわけにはいかない。


「ショコラ様、謝らなければならないことがあります」


「え?」


「カドラ様の家で、私はスカルピアの行動を止めようとしなかった。カドラ様との恋を、私は心の奥底では応援できなかったからです」


「スティ……」


「ですが、今は違います。彼があの時……ハーフである事実をショコラ様に話した時、あなた様は言いました。『あなたと肩を並べて歩けるのなら、どんな辛い道でも構いません!!』と」


「~~~~!!」


 私の言葉に、ショコラ様は顔を真っ赤にする。


「ここまで来て、私はようやく気付きました。ショコラ様の本当の幸せを……。ですから、絶対に彼を死なせるわけにはいきません」


 救済の使徒が彼を狙っていることや、モル様の高度な魔法……それらを総合して考えると、彼が勇者であることは間違いない。


 彼は本物の勇者。

 それなら、この状況を放っておけない。


 メイドとして……いえ、私の罪滅ぼしの為にも。


「スティ?」


 バキッッ!!


「拘束が……!」


 鉄製の拘束を私は容易く破壊した。

 まず腕の拘束を力を込めて破壊し、それから足の拘束を握りつぶす。


「スティ、すぐに私の拘束も――!」


「ショコラ様は、ここで待っていてください」


「え……」


 バキッ!!


 私はその言葉を残し、ショコラ様の腕の拘束だけを外すと、勇者たちの所へと駆けだした。


「ま、待って!! スティ!!」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「あははは!! もっと楽しませてよ、おねーさん!!」


「『痛みの指名』をことごとく避けきってるけど、体力の限界は近いね」


「――っ!!」


 エリカちゃんは双子の波状攻撃に押されていた。

 最初こそ互角に渡り合っていたが、いつも使っている剣と違って勇者の剣は軽くて振り過ぎてしまう。


 それに加えて、鎧をまとっていないせいで肉薄することが難しい。

 相手もローブ一枚の軽装なのだが、彼らは背中の翼で悠々と剣を避けていく。

 端から攻撃を受けるつもりもないってことか。


「はぁっ!!」


 ガシャアアアン!!


 なんとか氷の魔法を破壊するも、兄のユーリが上空から剣を構えて突撃してくる。

 避ける余裕はなく、剣で受けきろうとするがエネルギー量が違い過ぎた。

 エリカちゃんは力で押し負けて弾き飛ばされる。


「……っあ!!」


「エリカちゃん!」


「勇者様、よそ見しちゃ駄目です!!」


 こちらはこちらで使徒たちに追い詰められていた。


 そんな中、僕はモルちゃんの制止も聞かずにエリカちゃんの元へと走り寄ろうとする。


 あのままじゃエリカちゃんが死んじゃう。

 そんなのさせるか!!



 僕なら、代わりに――!



「勇者から向かってくるなんてね。馬鹿だね馬鹿だね」


「そうだね。串刺しにしちゃおう」


 ユーニ・ユーリがこっちを向いた。

 奴らは翼で上空に上がると、ユーリは剣を構え、ユーニは氷の剣を作り出してそれを構える。

 そして、そのまま二人が弾かれるようにして上空で分かれると、僕を両側から挟み込むように地面擦れ擦れを飛行しながら向かってくる。


 とてつもない速度で、目で追っているうちに既に寸前まで迫ろうとしていた。 


 よし、これで――!



「勇者様ッッッ!!」

「ゆう、しゃ……?」



 よかった。エリカちゃんはまだ意識がある。

 僕が一回死ねば、こいつらが帰るかもしれない。


 そうなれば――!


「もらったよ、もらったよ!!」

「とった!」


 双子の声が一気に迫ってくる。

 痛いのは嫌だけど、エリカちゃんを助けられるなら――!


 そう思って目を瞑る――。




「本当に、偽物であってほしかったですね」




 すると、間近で声が聞こえ、何者かに突き飛ばされる。


「いてっ!」


 ズブシュゥッッッッ!!!


 尻餅をつくタイミングと同時に、肉を裂くような音が聞こえた。



「スティィイイイイッッ!!!!」



 遠くでショコラちゃんが叫んでる。


 僕は恐る恐る目を開け、その光景に目を丸くした。


 そこには、ユーリの剣を片手で、ユーニの氷の剣を身体で受け止めるスティさんの姿があったからだ。

 彼女は地面に血を滴らせ、目の前に立っている。

 あそこは、僕が先程まで立っていた地点だろうか。


「スティさん……どうして」


「勘違いなさらないでください。これは、すべてショコラ様の……ごふっ」


 スティさんの吐血が地面に落ちる。

 彼女は口元から血を流し、震える唇を結んだ。


「どうして、どうして?」

「なぜ、同胞が邪魔を?」


「……!」


 ユーニ・ユーリはこの状況に驚いているようだった。

 そんな二人に対し、スティさんはニヤリと笑った。


「あなた方の同胞になった記憶は、ありません」


「――え」


 スティさんの言葉は妹のユーリにとってショックだったのか、彼女は呆然として立ち尽くす。


「ユーニ!! くそっ!」


 兄のユーリが焦って剣をスティさんから抜こうとするが、スティさんはユーリの剣を貫かれた血塗れの掌で固定し、放そうとしない。

 そしてこの隙をつき、視界の端でエリカちゃんが剣を片手に駆け出してきた。


「もらったああああああ!!!」


「光の剣、かの者を貫け!」


 モルちゃんの詠唱も聞こえた。

 ユーリの背後からはエリカちゃんが。ユーニの頭上からはモルちゃんの魔法の剣が。

 それぞれ彼らを襲いかかろうとする。


 勝った……!


 その言葉が脳裏に浮かんだ瞬間、白いものが視界の端から跳んできた。


「え――?」



 ズバァアアッッ!!

 グサグサグサッッ!!



「どうして……」


 ユーニ・ユーリに剣は届くことが無かった。

 何故なら、信徒たちが身体を張って彼らを護ったからだ。


 ユーニに迫っていたモルちゃんの光の剣を防ぐべく、信徒たちはユーニをスティさんから引き剥がして覆いかぶさるように倒れ込むと、背中で光の剣を防いだ。

 そしてユーリを護ったのは、あの露天商。彼女はエリカちゃんの剣を身体で受け止め、そのまま血を流すと倒れて動かなくなる。


 エリカちゃんはその露天商を見て、剣を持つ手が震えていた。


「エリカちゃん……?」


「大丈夫よ、次こそ――!!」


「調子に乗るなよ……」


「――!?」


 もう一度、エリカちゃんが剣を振り上げようとすると、ユーリがすぐに翼を広げて飛び上がる。


「ユーニ!!」

「――!!」


「逃がさないですよ!!」


 先程まで戦意喪失していたユーニが起き上がると、自分の身を守ってくれた信徒たちを無造作に振り払い、こちらも浮かび上がった。


 ヒュンッヒュンッ!!

 ズドドオオン!! ズダァアンッッ!!


 モルちゃんの光の剣がユーニを仕留めるように降り注ぐが、ユーニはその間を掻い潜り、ユーリの元へと飛んでいく。


「避けられたです……」


「ユーニ、大丈夫?」

「……うん。でも、もう帰りたい」


 先程までの勢いを失くした妹のユーニを慰め、ユーリはこちらを見下してくる。


「今回は退かせてもらうよ。勇者、命拾いしたね。アビスが仕留められなかったことも納得かな。でも、彼が死ぬとは思えない」


「迷いのアビスが、死んだ? どういうことだ?」


「しらばっくれちゃって。あんた達が殺したんだろう?」


 ユーリの言葉に、僕達は顔を合わせる。


「教えなさい。どういうことなの?」


「簡単に逃がすと思ってるです?」


 エリカちゃんとモルちゃんが攻撃の姿勢を取ったのを見て、ユーリは大きく溜息をついた。



「はいはい、おいら達の負けでいいから。まったく、そう睨まないでほしいね。

 ……んじゃあ、一つ今回の褒美を与えてあげる。不信のロストはスカルピアを利用して、王国を滅ぼすつもりだったんだよ。あいつを止めない限り、王国は終わる。せいぜい、足掻いてみなよ」



 バサァァッッ!


 それだけを残してユーニ・ユーリは飛び上がっていき、どこかへと飛んでいった。

 生き残っていた信徒たちもそれを見てから消える。


「とりあえず、助かったの?」


 ドサッ!!


「――! スティさん!!」


 奴らが飛んでいくのを見ていたのか、スティさんはこのタイミングで倒れる。


「エリカちゃん!! スティさんが!」


「モルは王女様をお願い! 勇者、どきなさい。応急措置をするわ」


 すぐにエリカちゃんが自分の服の袖をちぎって応急措置を始めた。

 モルちゃんは拘束が外されていない状態のショコラちゃんとカドラさんの元へと走り、拘束を解除する。


「スティ!!」


 すぐに駆け寄ってきたショコラちゃんは、血塗れで倒れるスティさんを見て顔が青ざめる。

 しかし白い手を血管が浮き出るくらい強く握り、僕らの方を見て来た。


「宮殿に運んでくれませんか? 医務室へ運べば……何とかなると思います。どうか、お力を――!」


「当然だよ。ね、二人とも」


「はいです」

「ええ。すぐに運びましょう」


「ありがとうございます!!」


 咄嗟のショコラちゃんの提案によって、スティさんをこのまま宮殿へと運ぶことになった。


「王女様、あの人はどうするです?」


「……カドラ様も宮殿へ来ていただけませんか? いま、このまま家に帰るのは危険です」


「わ、わかりました」


「では、戻りましょう。宮殿へ」


 こうして救済の使徒に数名の犠牲、そしてスティさんの重傷とエリカちゃんの軽傷をもってユーニ・ユーリとの戦いが終わった。













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