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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第九章 「クズ勇者と、砂漠の王女」
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第九章16 『スカルピアという男』



 カスタード王国三日目、勇者たちが再会し、今後について話し合った。

 遺品も金貨も失った彼らの出した結論は、国王と王女を助けて恩義を売り、遺品も金貨も貰ってしまおうというアウトな考え。

 手始めに王女ショコラの恋を手助けするため、エリカの案内で王女の恋する相手カドラの元へと向かうことになった。 




 廃れた教会を出発して数分後、大通りから遠く離れた路地裏にやって来た。


「なんか、ずっとこういう場所を歩いてると惨めだなぁ」


「勇者様にはお似合いです」


「……はぁ」


 心のこもっていない褒め言葉に溜息が出る。

 しかし反面、ここまで執行団や救済の使徒の襲撃を受けていないことは確かだ。


 先程まで気になっていた視線も消えており、実に快適に目的地へと辿り着けそうだった。


「ここを曲がったらすぐよ」


 そう言ったエリカちゃんに従って角を曲がると、そこには見覚えのある少女が立っていた。


「メリューちゃん……! どうしたの?!」


「ちょ、エリカちゃん!?」


 エリカちゃんは誰よりも先に青髪の少女に駆け寄り、彼女を抱きしめる。


「大丈夫っ! 大丈夫だからね!」


「エリカお姉さん……う、うぅ」


 見ると、少女は一人で泣いており、エリカちゃんが抱きしめるとボロボロと涙をこぼしていく。

 僕とモルちゃんは顔を見合わせ、ただその光景を見ていることしかできなかった。


「どういうことです?」


「わからないけど……あの女の子、なんか見覚えあるんだよな。雰囲気が少し違うけど」


「さすが勇者様です。どんな女性でも一度見たら忘れないです」


「言い方が誤解を生みそうだな。とりあえず、話を聞こうよ」


「はいです」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 少し経ってから少女は泣き止み、エリカちゃんが抱擁を解く。

 そして目を擦る青髪の女の子を見て僕は思い出した。


「あ、こないだの子だ」


「勇者様、さいてーです」


「ち、違うよ。そんなんじゃないし。エリカちゃん、その子」


 エリカちゃんに訊ねると、彼女は頷いた。

 やっぱりそうだ。一日目に会った子だ。


「この子はメリューちゃん。昨日、私はこの子と会っていたのよ」


「エリカさん、説明してほしいですよ」


「そうね。実は――」


 エリカちゃんはメリューちゃんの事と、彼女の父親であるカドラさんの事を話し始めた。


「成程です。それでエリカさんは、カドラさんの居場所を知っていたです」


「そういうことか……」


 まさか、王女様の想い人がこの子の父親だったとは。


 こちらが納得していると、エリカちゃんはメリューちゃんの目を見て話しかけていた。


「メリューちゃん、どうして家の前で泣いていたの?」


「エリカさん、さすがにダイレクトに聞くのはどうかと思うですよ」


「そ、そうなの?! ご、ごめんね、メリューちゃん……」


「平気です……来てくれて嬉しいです。お姉さん」


 本当の姉妹のようだ。

 あ、これ前も思ったんじゃね?


 エリカちゃんとメリューちゃんが話している中、隣に立っていたモルちゃんは親指の爪をかじり始めた。


「モルちゃん?」


「危ういですよ」


「何が?」



「わたくしの、ロリキャラポジションです。見たところ、わたくしよりも年下。そして妹属性と来ました。最悪です。人気投票で新参に抜かれてしまうです」



「そんなことを言ってる時点で勝負ありだよ」


 さて、モルちゃんは置いておくとして、今はメリューちゃんだな。


「それで、どうして泣いてたの?」



「お父さんが、連れて行かれたんです」



「え?」


 彼女の言葉に、僕らは顔を見合わせた。

 僕らが目当てに来たのは王女様だ。

 周りを見ても彼女とスティさんの姿はない。


「詳しく教えてもらえる?」


「はい……。実は先程、王女様が家にやって来たんです。お父さんと話し合いをしている中、来客があって……それで、その人にお父さんが連れていかれてしまって」


 来客……。


「エリカさん、これは非常事態かもしれないですよ」


「そうね……メリューちゃん、誰がカドラさんを連れていったの?」


 エリカちゃんは一拍置いてから、メリューちゃんに訊ねた。

 すると、思いがけない人物の名前が挙がってくる。



「執行団長の、スカルピア様です」



「――!」


「これは、どういうことです? ……メリューさん、王女様たちはどうしたです?」


 モルちゃんが訊ねると、メリューちゃんは大通りの方角を指さした。


「お父さんが連れて行かれそうになったのを見て、スカルピア様と口論していたんですが、執行団の方々に捕まってしまって……大広間へ」


「大広間……」


 なんか、最高に嫌な予感がするんですけど。


「私、みんなに助けを求めたのに……誰も助けてくれなくて」


「……大丈夫よ、メリューちゃん」


 エリカちゃんが再び泣きそうなメリューちゃんの頭に手を乗せた。

 さすがに、今回ばかりはエリカちゃんが次に言おうとしていることにモルちゃんも口を挟まない。


「いいの? モルちゃん」


「理に適ってるです。度を越した執行団長を止めれば、王様に恩を売れるです。それに想い人が救われれば王女様にも恩を売れるですよ」


「……はぁ。素直じゃないなぁ」


「合理的と言ってほしいです。勇者様こそ、駄々をこねないんです?」


「僕は女性の頼みなら断らない主義だから」


「わたくしの頼みはいつも断ってるです」


「親しき中にも礼儀ありってね」


 エリカちゃんはメリューちゃんの頭を撫でてから、彼女にこう言った。



「私達に任せて。勇者は困ってる人を見殺しにしないんだから」



「お姉さん……」


「そうよね、勇者様」


 そう言って振り向いてくる。

 こういう時だけは様付けで呼んでくれるんだな。


「仕方ないなぁ。僕の本気を見せてあげるよ」


 目指すは大広間だ。

 僕らはメリューちゃんを残し、大広間向けて走り出した。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 勇者がメリューと接触し、大広間を目指して走り始めた頃。

 その大広間には大勢の人間が詰め寄せていた。


 円形の広間を取り囲むようにして衆人環視が中央に集中する。

 中央には低い処刑台が置かれ、そこに一人の男性が座らされていた。

 彼こそ、画家のカドラだ。


「よく集まってくれた。親愛なるカスタードの民よ」


 その処刑台の前に現れ、ギャラリーに語り掛けるのは執行団の団長スカルピア。

 彼の登場にギャラリーは湧き、歓声が巻き起こる。


「スカルピア、やめなさい!!」


「王女様、どうかお気を確かに。あなたは騙されていたではないですか」


 処刑台の脇には腕と足を拘束された王女と、お付きのメイドの姿があった。

 王女ショコラはスカルピアに叫ぶが、彼は騙されていたと言葉を続けるだけ。


「そのお方が、なぜ殺されなくてはいけないのですか!」


「簡単ですよ。以前、国王様から命じられていたのです。あなたをたぶらかす者を罪人とする。とね」


「お父様が……!?」


「別の罪人を追っている際、路地裏であなたを見かけた時は焦りましたよ。安易に宮殿を出てはいけません。あなたは王女なのですから」


「尾行、したのね……」


「ええ。そして、もう一つの罪も確認させていただきましたよ。彼の口からね」


「最低……」


 ショコラはスカルピアを睨むが、スカルピアは腰の剣を抜き取り、高々と掲げる。


「親愛なるカスタードの民よ。この者の罪状は、二つ。一つは王女をたぶらかした罪。そしてもう一つは――」


「やめなさい!! それ以上は――!!」


 ショコラの必死の訴えにも、スカルピアは振り返ることなく、言葉を続ける。



「半人半魔であることを偽り、我々を騙し続けていた罪だ!!」



『――!?』


 スカルピアの言葉に、民衆たちのどよめきが走る。


「ごめん、メリュー……」


 処刑台に座るカドラは唇を血が出るほどに噛みしめ、小さな声でここにはいない娘に謝った。

 スカルピアはさらに続ける。


「この者が罪人であることは確か。この国で身分を偽ることは大罪に値する!」


 スカルピアの言葉に、民衆は口をそろえて「そうだ!」「その通りだ!」と叫び始めた。

 中にはハーフを差別するような言葉や、罵倒が飛び交う。


 この光景は、この世界において不思議な光景ではない。


 ハーフは身体能力が人間の比ではない。

 その為、多種族国家を可能としたカスタード王国では、ハーフであることを偽ってはならない決まりがある。

 そうでなければ、人間が安心できない為。


 結局、多種族国家と掲げてはいても、人間の為に傾いたルールだった。


「私はそもそも、半人半魔と共に暮らすことすら認めていなかったのだ」


「スカルピア! それ以上は、お父様への侮辱とみなしますよ! 誰のおかげでこの国があるのか、あなたがいるのか――!」



「黙れ!!」



「――!」


「貴様、ショコラ様を誰と心得た発言だ!」


 スカルピアの怒声に、これまで黙っていたスティが怒るが、スカルピアは彼女を睨み飛ばす。

 その瞳は温度がなく、冷え切ったナイフのような視線を放つ。


「半人半魔が口を開くな。……魔物の臭いに穢される」


「スカルピア、あなた!」


「王女様は知らなかったですよね。私は、魔物に父を殺されたんですよ」


「……!」


「そう、魔物は許せない。半人半魔は、その憎き魔物の血が入り込んだ人間だ! そんなもの、人と認めろというのが無理なのだ!!」


「そうだ! スカルピア様の言う通りだ!!」


「所詮は魔王の手先なんだよ!!」


 スカルピアの言葉に同調する民衆の声が大きくなってくる。これには、ショコラの訴えも通用しなかった。

 これが、人々の本音だからだ。


 自分よりも強い者がいたら恐ろしい。

 恐ろしい者は排除したい。

 排除することで自分の安全が確保できる。


「皆様……!」


 人がいつだって自衛的であることはショコラも知っている。知っているが、それを許容してこその人間だということも知っている。

 だが、彼らの声がやむことはなかった。


「そろそろ刑を執行する時だ。括目せよ、皆の衆! そして半人半魔どもよ! この罪深き男の最期を!!」


 スカルピアが剣を振り上げる。

 その光景に、王女の叫び声と民衆の叫び声が木霊した。カドラは抵抗することなく目を瞑り、一人娘のことを思うだけ。


 全てが、そのゆっくりと流れる一瞬で終わるかに思えたその時――。


 それらを一蹴するような声が、広間に響き渡る。




「勇者はここにいるぞおおおおおおおおおおおおおおおおお!!!!!!」



 

 ピタッ。


 スカルピアの剣は、カドラの首を捉える直前に停止する。

 その叫び声にスカルピアは手を止めて声のした方角を見た。


 民衆もそちらに注目し、処刑台の上のカドラや、涙を流すショコラもそちらを見る。


「脱走犯、ここにありってね! 捕まえてみやがれ、この世で自分が一番不孝だとか思ってる被害者野郎!!」


「……勇者様、たいしてカッコよくないです」


「何してんのよ、あんた達! 馬鹿なことやってないで、行くわよ!」


 そこに現れたのは、男女の三人組。

 勇者と仲間達だった。














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