第一章11 『上に立つ』
【2018年1月19日改稿。内容に変更はありません。見やすくしました。】
魔王への反乱を企む配下のオーガ族。
その情報は瀕死のハーピーによってもたらされた。
彼女の姿を見て、社畜魔王は憤怒し、オーガ殲滅へと動き出すこととなった。
サキさんの提案で、事を大きくしないためにも魔王直属の部隊を編成された。このことが広まれば、オーガのような企みを抱くものは増え続ける。
そのため、なるべく迅速に、オーガ族を殲滅する必要があった。
オーガ族の生息地は溶岩地帯。
魔王城から少し歩いた先の山中のようで、むき出しの山を目指して俺たちは歩いていた。
「魔王様、あまり前に出ないでくださいね」
「うん。ありがとう、ミノ子さん」
「いえ、役目ですから」
そう言って、鈍器を軽々と肩に担ぐ。
今回、雪女さんは場所が場所なだけに魔王城の防衛に回っており、この後方部隊にいるのはサキさんとミノ子さんの率いる部隊が少数。それと、セイレーンさんだけだ。
前方にはデュラハンさんの部隊が歩いており、全員が首無し馬に乗った首無しの騎士で、かなりすごい景観になっている。
フェニちゃんは彼らの後ろを防具もなしに歩いているが、少しだけ真剣な表情だった。
「これ、変じゃないかな?」
「魔王様、とてもお似合いだよぉ」
「ありがとう、フェニちゃん」
俺も武装しており、腰には剣を差していた。
鎧のような格好で、この身体でなければ、歩くことすら困難と思える装備だ。
「サキさん、俺、剣を使ったこと――」
「それはあくまでも護身用です。魔王様が使うことはないですから、安心してください」
なら、いいか。
でも意外と、身体が覚えていそうでこわい。
そういえば、オーガのこと、あまり知らないんだよな。
「サキさん、オーガ族っていうのは……」
「オーガは鬼のことです。暑い場所を好む戦闘種族、それがオーガです」
「……あのさ、魔王は嫌われてるの?」
「一部の魔物と人間には嫌われております。ですが、私達のように慕う者もいますから、安心してください」
「……うん」
サキさんの笑顔に励まされ、そのまま歩いていくと、オーガの拠点が見えてきた。
「あれね。全軍停止」
洞窟を発見し、サキさんが指示を出す。
「魔王様、平気ですか?」
「ああ」
「……では、全軍に通達。魔王様の作戦通りに」
サキさんの言葉に、幹部たちは頷く。
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彼らの動きを見届け、サキさんは俺を見た。
「失礼ながら、今回の作戦は意外でした」
「え?」
「あなた様は、争い事が苦手だと思っていたのに、あんな作戦を提案するなんて」
「……俺も、意外だったよ。だけど、オーガは許せないって思ったんだ」
「そうですか。……ふふっ。本当に不思議です。別人なのに、違和感がなくて。あなた様は、実は以前も権力者だったのですか?」
その言葉に、首を振る。
「その逆。使われる側だよ。……だから正直不安しかなかったんだ。サキさん達に話したときも、認められなかったらどうしようって、不安だった」
「魔王様……」
「でも、サキさん達は、俺を認めてくれた。ここにいるって、認めてくれた。必要としてくれたから、俺は魔王にでもなれるんだ」
「そ、そんな、勿体なき御言葉です」
「だから、俺はサキさん達のために力を振るいたい。今度は、間違えないように」
「魔王様……それなら、私も全身全霊で尽くします。心は変わっていても、あなた様になら、忠誠を誓いたいので」
そう言ってサキさんは頬を赤らめる。
なんだか照れ臭いが、少しだけ、心がスッとした。
「では、行きましょう」
「ああ!」
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オーガは洞窟に住んでいるから、洞窟を目指す。
そんな予備知識を城で教えられ、俺は一つの提案をした。
「デュラハン、ミノタウロス、共に配置完了のようです」
隣でサキさんは、瞳を赤く染めて戦況を見ていた。
俺の後ろでは、セイレーンさんも準備しており、残るはフェニちゃんだけだ。
「いっくよお!」
フェニちゃんは掛声と共に全身を光で包むと、一気に上昇し、不死鳥の姿へと変化する。もはや少女の原型はない。
そのまま火山の上空を旋回し始め、準備が整った。
「魔王様、いつでもいけます」
「よし……」
我ながら、ここまで悪役が板につくとは思わなかった。
昔はヒーローより敵が好きだったけど、真剣になってみたいとは思ったこともない。
俺の提案をした作戦は、王道にして非道。
魔界の住人を驚かせた。
その時ばかりは、魔王の素質を感じてしまった。
「オーガ殲滅作戦、決行!」
俺の号令で、一斉に動く。
少し離れた場所で見ていたが、最低の光景だった。
「うおおおおおっっ!」
「やあああああっっ!」
デュラハンさんとミノ子さんが、部隊を一気に突撃させ、洞窟の入り口を破壊する。
ガラガラガラアアッッ!
と入り口が封鎖され、それを見てからミノ子さんは封鎖している岩を鈍器で思い切り殴った。
すると、面白いくらいに岩が彼らの拠点奥深くを目掛けて吹き飛び、叫び声が聞こえてきた。
驚いたオーガ達は、別の穴からあふれでてきて、こちらを視認したようだ。
「来ましたね」
「うん。すーはー……」
深呼吸一つ。
俺はこれから、彼らの未来を奪う。
その号令をかけなければならなかった。
俺は魔王。
その魔王に尽くし、俺に尽くしてくれた者がいた。
だから尚更、瀕死になったハーピーのため、手を抜くことはしない。ここで手を抜くのは、努力が報われなかった俺と同じだ。
あんな気持ち、みんなには必要ない。
息をのんで、腹に力をいれる。
「殲滅しろおおおおおおおおッッッ!!!!」
そして、魔王として初となる殺戮命令を下した。