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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第九章 「クズ勇者と、砂漠の王女」
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第九章14 『脱走騒ぎ』

 


 勇者一行は勇者の遺品と賢者の末裔を求めて砂漠王国カスタードへとやってきていた。

 その二日目、勇者とモルは宮殿へ行くことになったのだが、何故か捕まってしまう。

 しかし王女ショコラに助けられ、彼らは彼女に恋愛相談を持ち掛けられた。

 勇者は駆け落ちを提案し、ショコラもその提案に賛成。

 三日目の朝、城が勇者たちの脱獄で大騒ぎする中、王女とスティに勇者とモルを加えた四名の計画がスタートしようとしていた。




「準備、万端です」


 三日目の朝、僕らは王女の部屋で扮装させられた。

 僕が胡散臭い行商人の格好で、モルちゃんは髭を付けて小さめの老人に扮している。肩に大きな袋をぶら下げ、そこに剣や盾、服などを入れてあった。


「勇者様、似合ってるですよ」

「モルちゃんこそ」


「お二人とも、そろそろ決行しますよ」


 互いに皮肉を込めて褒め合っていると、すでに準備を終えた王女様に声をかけられた。

 王女様とスティさんは町娘の格好で、頭に帽子をかぶっているだけ。


 あれで大丈夫なんだろうか。


「ショコラ様、城では彼らの脱獄が騒ぎになっているようです。次に捕まれば、即死刑です」


 スティさんが恐ろしいことを口にしていた。

 でもそうだよな。昨日の今日で脱獄だもんな。無実だけど。


「どうにかこの扮装で潜り抜けられるといいのですが……。モル様、念のために錯視の魔法をかけておきませんか?」


「すでにかけてあるです。万全ですよ」


 さっすがモルちゃん。

 こういう時は頼りになるなぁ。


「――で、錯視魔法って何だっけ?」



「……勇者様は少し学習すべきだと思うです。錯視魔法をかけていれば、わたくし達の姿を捉えることが難しくなるですよ。テスタラに迷宮を作り出した時、正解の道がわからなかったように、わたくし達が認識しづらくなっているです。

 ちなみに、王女様たちには解読魔法パッシュを施しているので、わたくし達が見えるはずですよ」



 つまり透明人間ってことか?

 すげぇ便利だな。魔物に見つからないで魔王の所まで行けんじゃね?


「あまり効果に期待しない方がいいです。完全に見えないわけではないです」


「へぇ」


 とりあえず、ただの扮装よりは見つかりにくいことは分かった。


「――ところで王女様、扮装したけどこれからどうするの?」


「どうするもなにも、姿を偽ったらすることは一つです。正面突破ですよ」


 最初から嫌な予感しかしないなぁ……。

 こうして、僕らは偽りの格好で王女の部屋から出るという目立った行動を始めたのだった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 部屋を出て、誰にも見つからずに宮殿の一階までやって来た。

 しかし、昨日僕達が入ってきた正面の入り口は執行団と思わしき連中に封鎖されている。


「ここまで見つからなかったのは、あなた方の騒ぎのおかげでしたが……こうなってしまうと宮殿から出るのは難しいですね」


「ショコラ様、いっそのこと彼らを囮にしてはどうですか?」


 スティさん、それ洒落にならないって。

 死刑確定ってさっき言ってたじゃん。


「それは出来ません」


 さすがショコラちゃん!

 よっ、一国の王女!


「ここで手放すには惜しい駒です」


 予想以上の発言に言葉も出なかった。

 しかし、二人のやり取りを黙って聞いているだけでは埒が明かない。


「モルちゃん、どうしたらいいと思う?」


 小声でモルちゃんに訊ねると彼女は耳元で囁くように話す。


「簡単です。王女様たちにも錯視魔法をかけて正面突破ですよ」


「それ、大丈夫なの?」


「ここから見たところ、魔法を使える人間はいないです。楽勝ですよ」


 モルちゃんが勝ち誇った顔をしていた。こういう時は大丈夫だろう。


「王女様、ちょっといいですか?」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 モルちゃんの提案を実行に移し、僕らは四人固まって執行団の真横を通り抜けることに成功する。

 宮殿の外に出て大通りへとやってくると、足を止めて息を吐いた。


「し、心臓が止まるかと思いました」


「モル様がいて助かりましたね。まさか、ここまでの高等魔法の使い手とは……」


 スティさんが、僕をガン見しながら言う。

 ま、役に立ってないのは認める。けどイケメン要員は必要じゃね?


「皆様、宮殿を出ることに成功しました。このままカドラ様の元へ向かいましょう!」


 ショコラちゃんは一人待ちきれないのか、ズンズンと前に進んでいく。

 スティさんが慌ててついていくのを見て、僕も歩き出そうとした。――のだが、モルちゃんが僕の背中を杖で突いてきた。


「どったの、モルちゃん」



「視線を感じるです。注意した方がいいですよ」



 視線?


 そう言われて注意を向けてみると、確かに複数の視線を感じる。

 ショコラちゃんに向けられているものじゃない。


「これ、どういうこと? 僕らって今、魔法で認識しづらいんでしょ?」



「魔法を使う者でも、わたくしの魔法を把握することは難しいはずです。しかし、魔力を感知できる魔物……もしくは高等魔法に詳しい者なら簡単に見破れるですよ」



 ついさっきまで、この透明人間で魔王の所まで直進できると考えていた事を口にしなくてよかった。


 ……あれ?

 そういやこの前、モルちゃんがなんか言ってたよな。


「モルちゃん、これっておかしいんじゃね?」


「さすがの勇者様にも、多少の記憶力は存在していたようで安心です」


「言いすぎじゃね?」



「勇者様も気づいたと思うですが、こうして監視されている状況はよろしくないです。

 以前も言ったように高等魔法を扱えるのは優れた魔法使いの血統、もしくは魔物と契約した者のみ。前者が我々を狙う可能性は少ないですが、後者は大勢いるです」



「救済の使徒……」


「そうです」


 おいおいおい、またあのヤバい連中がいるのか?

 しかも、位置までバレてるってマズくね?


「もしくは、魔物の可能性もあり得るですよ。これまで度外視していたですが、魔王が黙っているとは思えないです」


「成程……」


 シュネーさんとの件がなきゃ、かなり疑ってたかもしれないな。

 でも今回は、かなりの割合で救済の使徒に違いない。


「はぁ……勘弁してくれねぇかな」


「彼らが壊滅しない限り、これからずっと付き纏ってくるですよ」


「最悪だ」


「とりあえず、今は向こうも動きがないみたいです。こちらが先に気付けたのは大きいですし、今は王女様たちを追うですよ」


 そうだな……まだ遺品をもらってない。

 それに、あの王女様が暴走してないか不安だからな。


「行こうか」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~ 



 一方、エリカは一夜を明かしてから露天商の家を出て、身を隠すように路地裏を歩いていた。

 頭には昨日スカートを破って作った即席ターバンを巻き、赤い髪が目立たないようにしている。


「宮殿の方角、かなり騒がしいわね」


 気になって大通りに出てみようとするが、すぐに足を止める。

 街の角から大通りを見てみると、そこには大勢の執行団がいてキョロキョロと何かを探すように歩いていた。


 スカルピアの姿はないものの、どこか物々しい雰囲気だ。


「あいつら……まだ捜してるのかしら。しつこいわね」


「何が何でも捜し出せ! 国の一大事である!」


「……?」


 執行団の口にしていた一大事という言葉に、疑問符を浮かべる。


 もしかして違う案件?

 そう思って近くで執行団の更新を眺めている連中の言葉に耳を澄ました。


「一体何だってんだ。こんな朝早くから」


「知らねぇのかい? なんでも、王女様が消えちまったらしい」


「なにぃ!?」


「犯人は昨日捕らえた勇者を騙る二人組で、そいつらも脱走してるみたいなんだよ」


「……!」


 ……何やってんのよ、あいつら。

 脱走したことは褒めるけど、面倒増やしてるじゃないの!!


「とにかく、離れた方がいいわね」



「どこに行かれるのかな? 女性よ」



「――!?」


 路地裏に逃げ込もうとすると、目の前にゆらりと影が現れた。


「最悪……」


 小声で愚痴ってしまうほどに最悪の状況。

 道を塞ぐように立っていたのは、黒いマントに身を包む灰色の髪の男。

 腰には刀身の長い剣が差してあり、既に手がかけてあった。


「人違いではないですか? スカルピア様」


「演技はよせ。そのターバンの下が赤い髪であることは簡単にわかる」


 死んだような瞳がこちらを見てくる。


 どうして私の事がバレたのか……。

 今はとりあえず、この場から逃げないと。

 こんな奴と、こんな格好で渡り合えるわけがない。


 なにか方法は……そうだ!


「ターバンを取れ。赤い髪でなければ許そう」


「もしかして、街中の女性に話しかけてるんじゃないわよね?」


「そうだ。貴様で昨日から数えて127人目だ」


 頭おかしいわね……。


 とりあえず、消去法で見つかったことがわかったのは幸いだった。

 他の方法で私とこの位置を探してきたなら、次もピンポイントで狙われる。

 けど、その心配はなくなった。こういうタイプが、今の問答で嘘をつくことはまずあり得ない。


 つまり、逃げれば勝ちってことね。


 私はスカートのポケットに手を突っ込む。


「何をしている……」


「あんたは嫌いでしょうね。普段は与える側なのに、今回は痛みを与えられる側なんだから……」


 ポケットから空き瓶を取り出してみせる。

 それだけでスカルピアは大きく反応した。


「――! その瓶は!」


 スカルピアは瓶を見るなり焦り、剣を抜き払うと、そのまま突っ込んできた。

 でも、この距離なら届かない!


「痛み、味わってみなさい!」


 カポンッ!


「――っ!?」


 瓶をスカルピア目掛けて勢いよく開封すると、スカルピアの動きが鈍る。

 昨日、あの子から買っておいて正解だったみたいね。


「こ、の!」


 スカルピアは剣を私目掛けて振るってくるが、痛みに襲われているせいか剣は明らかに遅かった。


「激痛でしょ? そんな遅い剣、私には止まって見えるわよ! はぁっ!!」


 ズンッ、ギシィッッ! 


 スカルピアの剣をかわし、その勢いのまま彼の腹部に蹴りを入れる。


「ぐっ! ぐおおおお!!!」


 普通は怯むはずが、数歩下がっただけで奴は思い切り剣を振り切ってきた。


 これで倒れてくれたらって思ってたんだけど……甘くないわね。


 ブウンッ!


「――くっ!」


 スカルピアの剣は空を切り、私の眉間を掠める。


 正直、これだけでも化け物ね。

 避けきったと思ったのに、間合いを取った後から眉間が切れた……。速度が早ければ、もっと深かったわ。


 私の顔に一筋の血液が流れる。

 重症ではないが、逃げられる好機を失うわけにはいかない。


「丸腰で勝てそうにないか……本当に面倒な奴」


 ダッ!


「だああああ!」


 ブオンッッッ!!!


「その長い剣のリーチは、さっき確かめたばかりよ!」


 走りながらスカルピアの剣をかわし、一気に彼の横を駆け抜ける。

 案の定、奴は痛みに襲われて動きが鈍く、撒くには簡単だった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



「……ふぅ、追って来てないわね」


 スカルピアから逃げるように路地裏を何度も曲がりながら走って行くと、通路が入り組んでいて隠れやすそうな場所を見つけた。

 そこで足を止め、深呼吸してから壁にもたれかかって座り込む。


「はぁ、はぁ……痛ッ」


 チクリと額付近に痛みを感じる。

 顔を拭うと手に血が付いており、斬られたことを実感した。


 まさか、あれで斬られるとは思ってなかった。

 遅い剣の動きだと侮っていたせいもあったが、刀身が長くてやりにくかった。

 奴が本来の調子だったら丸腰では殺されていたかもしれない。


 こればかりは、瓶を売りつけた彼女に感謝しないと。


「早い所、剣をそろえた方がいいかしら」


 そんな風に一息ついていると、思いがけない呼びかけがあった。



「あれ? エリカちゃんじゃね?」

「本当です。エリカさんですよ」



「――!? 勇者、モル!?」


 声が聞こえて立ち上がる。しかし周囲を見回しても彼らの姿はない。


「あっちから見えないんだ」

「解除した方が良さそうです。解除魔法、アルファ」


 モルが呪文を唱え終えたのと同時に、目の前に変な格好をした二人組が出現した。

 服を着こんだ変な奴と、小さすぎる老人……。



「……誰?」



「僕らだよ! ってか、エリカちゃん怪我してるじゃん! どったの?!」


「さすがにこの扮装ではわかりにくいようです」


 こうして一日ぶりに、勇者一行は集合することができた。













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