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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第九章 「クズ勇者と、砂漠の王女」
145/209

第九章Ex1 『一夜明けて』

第九章のEx部分は第八章の続きになっています。

正室決定後の話。

魔王の視点で進みます。

 


 魔王は規律の変革を達成し、幹部たちと共に給仕の魔物シルキーの営む宿へと休養に向かった。

 温泉や料理で身体を休ませ、セイレーンへの告白を果たした魔王は次の日の朝を迎える。




 温泉での休養から一夜明け、早朝に宿を出立した俺達は、既に魔王城へと帰還していた。

 その間、俺とセイレちゃんは互いに意識していて会話が上手くできず、対してサキさんが普通に接してくるものだから、ミノ子さんをはじめとする事情を知る人には驚かれた。


「ふぅ……」


 自分の部屋にやってきて、ようやく一息ついた気がする。

 ベッドに座り、そのまま仰向けになった。


 昨日は休めたけど、告白の後は緊張とサキさんへの申し訳なさが混ざり合い、モヤモヤしている。


「魔王様、失礼しますわ」


「あ、雪女さん。ただいま」


「おかえりなさいませ、魔王様。こちらは変わりありませんわよ」


 雪女さんはいつも通りフワフワと浮かびながらこちらにやってきて、近くからヒヤッとする息を吹きかけてくる。


「今日からは雪女さんが護衛の担当なんだね」


「ええ、そうですの。――あ、そういえば。おめでとうございますわ」


「え?」


「惚ける魔王様も可愛いですこと。……セイレーンを正室に決めたと聞きましたわ」


 まだ、大々的に発表してないんだけど。もしかしたらミノ子さん達が教えてるのかも。


「誰から聞いたの?」


「サキュバス様ですの」


 は?


 それを聞くと、体中に鳥肌が立った。

 すぐに起き上り、こうしちゃいられないと部屋を飛び出す。


「ごめん、雪女さん! ちょっと行ってくるよ!」


「あらあら。初々しいですわね……羨ましい」



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 部屋を出て秘書室へと直行すると、机に向かうサキさんがいた。

 彼女は目を丸くし、突然来訪した俺に困惑している。


「ま、魔王様? どうなさいましたか?」


 セイレちゃんを正室に選んだのは俺だ。

 でも、まだサキさんに言えてないことがあった。


「サキさん、その……これからも、よろしくお願いします!!」


「ぇえ!? そ、そんな頭を下げないでください!!」


「その、サキさんが俺とセイレちゃんの事を報告してるって聞いて……」


「……あの女。はぁ、魔王様は頭をお上げください」


「でも――」


 顔を上げるとサキさんは立ち上がり、こちらに歩み寄ってくる。

 そして、普段とは違う怪しく光る瞳で俺を見つめてきた。


「サキさん?」


「たとえ正室でなくとも、私は魔王様の妻……そして秘書でもあります。あなた様が頭を下げる姿は見たくありません」


「そ、それだと……」


「私が納得しているから、それでいいのです」


 サキさんはスッキリとした表情で言い切った。

 どうやら、俺が考えすぎていたのかもしれない。


「そ・れ・に……ふぅ」


「~~~~!?」


 突如、サキさんの吐息が耳に吹きかけられ、全身がゾワッとした。

 彼女は更に唇を耳元に近づけ、息を吹きかけながら言葉を並べる。



「奪い取るチャンスは、いつでもありますから」



 そう言って彼女は俺の身体に指をなぞらせてきた。

 腹から胸にかけてなぞり、艶やかな表情で頬を染めたまま近づいてくる。


「ちょ、サキさん!?」


「うふふ……私、サキュバスですよ? お忘れでしたか? 性欲に関しては、右に出る者はいませんよ?」


「な、何言って――」


「魔界では正室であれ側室であれ子を孕むことは出来ますから……一番は、私です」


 そう言って彼女は俺の身体をなぞる指を胸から腹へと戻し、更に下へと這わせようとする。


「サキさん、冗談キツイよ?」


「冗談では、ありません」


「ええ!?」


 ちょ、これマズくない!?

 サキさんの顔がだんだんと近く――。




 ガチャリ。




「魔王様、雪女様からこち、らに、おられると……」




 扉が開き、セイレちゃんが入室する。

 構図は魔王が秘書に迫られているシーンで、傍から見ると完全に……。



「さ、サキュバス様!! こここ、これは、どういうことですか!? さ、さすがに許しませんよ!!」



「なによセイレーン! 正室だからって独り占めできるわけじゃないのよ!!」



「何言ってるんですか!! 誘惑の力を使っているサキュバス様には言われたくありません! 卑怯です!」



「い、いいでしょ! 私は妻なんだから!」



「正室より先に魔王様に接近するのは許しません!!」



 セイレちゃんが顔を真っ赤にして怒りだし、すごい勢いで俺とサキさんの間に割って入ってくるが、サキさんも抵抗を見せる。


 それから俺は二人に板挟みにされながら、抱き寄せられては引き剥がされてを繰り返すこと数度。

 言い争いが終わったのは、騒ぎに駆けつけたデュラハンさんの怒声のおかげだった。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 後日この事をサキさんに訊ねると、サキュバスの変なスイッチが入っていたらしく、あまり覚えていないとのことだった。


 こうして俺はセイレちゃんを正室に、サキさんを側室にした。

 この事は後に魔界中で知れ渡ることとなる。
















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