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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第九章 「クズ勇者と、砂漠の王女」
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第九章6 『大戦の予兆』

 


 勇者一行は砂漠王国カスタードへとやって来た。

 そこで勇者の遺品や賢者の末裔についての情報を集めようとするが、街の商人は何かにつけて疑ってくるため、情報は手に入らなかった。

 それから二手に分かれ、モルは新聞の購入、エリカと勇者は商人以外への聞き込みを開始する。

 勇者が声をかけたのは青髪の少女。人間と魔物の子、いわゆるハーフの少女と出会い、彼女から有力な情報を得た。

 その後、勇者とエリカは、モルと合流して宿屋へと戻ったのだった。




 宿へと戻った僕らはエリカちゃんの部屋に集合していた。

 宿主には内緒で女性用の部屋へとやってきていて、僕は少し冷や冷やしている。


「ねぇ、エリカちゃん。やっぱりラウンジに……」


「あんな大勢集まる場所は駄目よ。誰に話を聞かれるかわからないでしょ?」


「そうだけどさぁ」


 こんなことになるくらいなら、混合の部屋を借りておいてほしいよ。


「エリカさん、さすがに勇者様が逮捕される展開はやめてほしいですよ」


「……じゃあ、どうすべきだったのよ」


「混合の部屋を借りておくべきだったです。わたくしと勇者様で」


「馬鹿なこと言ってないで、報告を済ませましょう。まずは私達からね」


 エリカちゃんは青髪の少女から聞いた香草屋の話と疑り深い人が増えた事など、簡潔に話していく。


「成程です。どうやら街で問題が起きているのは間違いないです」


「そっちはどうだったの?」


 相変わらず僕に話を振ることなく会議が進む。


 僕、いらなくね?

 このまま夜の街に繰り出したいんだけど、いいっすか?


「新聞を入手したですよ。気になる記事がありましたです」


「気になる記事?」


「はいです。まずは見てもらった方が手早いです」


 そう言ってモルちゃんはテーブル一面に新聞を広げた。

 二つ折りの大きな紙に文字が印刷されているけれど、日本の新聞とは違って薄っぺらい。

 あれか。印刷技術がないってことか。


 しかし数ページしかない新聞だが、写真や文字が並んでいて読むのが億劫なのは同じらしい。


「ほとんどは後継者争いや領土問題に関する記事です。けれど、わたくしが見つけたのはこの記事です」


 モルちゃんが指さした箇所は、既にエリカちゃんが凝視していた。

 えっと、どれどれ?



「ヘルリヘッセ奪還に向け、本格的な奪還作戦の計画が進んでいる。国際連合軍を組織し、その中心となっているのは大国『アゼール』。今後、アゼールの要請に応え軍を向かわせる国は増えていくだろう。

 そうなれば果ての大陸『リゼット』にて魔物との大戦が始まる可能性が高く、今後のアゼールの積極的な主導に期待と視線が集まる。…………ん? ヘルリヘッセ?」



 はて、どこかで聞いたような。



「ヘルリヘッセは、私の故郷よ。魔物に滅ぼされた魔界に最も近い町……それがヘルリヘッセ」



「あ……」


 そうだ。エリカちゃんの……。


 しかし、僕らの知らない所でこんなことになっていたのか。新聞も意外とタメになる情報があるんだな。


「エリカさん、どうするです? 魔王と直接対面したわたくしからすると、普通の人間があれに勝てるとは思えないです。甚大な被害が予想されますし、魔王を刺激するのは良策ではないです。我々の旅にも支障が出るかもしれないですよ」


 まあそうだよな。

 あの時は魔王の奴が出向いてきたけど、あれから妨害があるわけでもないんだよなぁ。

 昔やったゲームとかだと、魔王ってかなり妨害してくんのに……変だ。


 あいつが心変わりでもしたのか?


 それなら心配もなくなるから最高だけど。


「そうね。確かに、勝てるとは思えない。この街で目的を終えたら行きましょう。勇者がいれば無駄な犠牲を生まなくて済むかもしれないわ」



 え、行くの?



 しかも勇者がいればって……戦う気?


「勇者様、見るからに嫌そうな顔です」


「い、嫌だなぁ。そんなことないって」


「……お願い。あの場所をもう一度戦場にしたくないのよ。戦うわけじゃなく、連中を説得しに行くの」


 エリカちゃん……。


「しゃあないな。女性の頼みは無視できないんだよね、僕」


「勇者……」


「でもエリカちゃん。確認しておくけど、取り戻す作戦に加わるつもりじゃないんだよね」


「ええ、もちろんよ」


 エリカちゃんは少し低めのトーンで言い切った。

 瞬きせず、こちらを見て口元も動かさない。


「……」



 今のは、嘘だな。



 そりゃあ、故郷が取り戻せるかもしれないならそうしたいはずだ。モルちゃんの手前、本音は隠してるつもりだろうけど……。


「そっか。それならよかった。モルちゃん、この街で済ませること済ませたらヘルリヘッセに向かった方がいいよね」


「はいです。幸い、まだ猶予はあるです。まずはカスタードで用を済ませて、それからリゼットに赴いて我々が合流し、連合軍を止めるべきですよ」


 モルちゃんは止めるために行くんだよな。

 僕もそっち派なんだけど。


 ……ま、どうにかなるよな。


 それに、あのヘタレ魔王が来た時は、もう一回話したいこともあるし。


「よし、決まり。んじゃあ今日はもう寝て――」


「勇者様、まだ明日の予定を決めてないですよ」


 そうだった。

 話が盛大に逸れていたのか。



 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~



 ようやく本題に戻り、エリカちゃんも少し気を取り直したのか声に元気が戻ってきた。


「とりあえず、私達が優先すべきなのは勇者の遺品と賢者の末裔を探すことね。ここに在るかどうかの確認をとることが第一になってきそうだわ」


「同感ですよ。けど、今日の様子では情報に精通した方の意見は伺えそうにないです」


「確かになぁ。商人連中は、一言目から疑ってくるし話にならないよ」


「です。そこで、これまでの予定通り明日は宮殿へと赴くべきです」


 モルちゃんの言葉にエリカちゃんは頷く。

 同じ意見だったようだ。


「そうね。直接訪ねるのが一番かも。ここの国王なら答えてくれるかもしれないわ」


 どうやら明日の予定は決まったらしい。みんなで宮殿訪問だ。


 予定が決まったと思って立ち上がろうとすると、エリカちゃんは言葉を紡ぐ。

 まだ話は終わっていなかった。


「けど、明日は二手に分かれた方がいいと思うの」


「え、どういうこと?」


 モルちゃんも同様に首を傾げている。 


「宮殿に行くのはあんたとモルに任せるってことよ」


「待ってくださいです。それじゃあ、エリカさんはどうするです?」


「私は例の香草屋を調べてみたいの。調べたら拠点も分かると思うし、この街の異変の原因がわかるかもしれない」


「……勇者様、どうするです?」


 ここで僕?

 モルちゃん、判断に困ったら僕に丸投げしてね?


「うーん、そうだなぁ……エリカちゃんの勘は結構当たるし、別行動でもいいんじゃない? なんなら僕も一人で行動――」


「勇者様は駄目ですよ。遊ぶに決まってるです」


「信用ないなぁ」



「ないです」



 ズバッと言われてしまった。

 もう少しあれだよ。もう少しさぁ……。


「しかしエリカさん、どうしてそこまで気になるです? 変なことに首を突っ込むのはやめた方がいいですよ」


「そうなんだけど……今日のあの子の話が忘れられなくて」


「宮殿に出入りしてる香草屋の件、です?」


「うん……とりあえず、そっちはモルに任せるわね。明日、日暮れに宿で落ち合いましょう?」


「了解です。勇者様、明日はよろしくです」


「あ、うん」


 こうして明日、僕はモルちゃんと共に宮殿へと向かうことになった。

 ヘルリヘッセの事も気になるけど、今はとりあえず目の前の問題に集中しないとな。


「じゃあ、もう寝ましょうか」


「です」

「そうだね」


 会議は終了し、僕は周りにばれないよう、女性用の棟から出て自室へと戻った。











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