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社畜魔王とクズ勇者  作者: 新増レン
第九章 「クズ勇者と、砂漠の王女」
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第九章1 『いざ新大陸へ』

時間軸は第七章の続きです。



 二つの王国の戦争を止め、勇者一行は遂に海を越えることとなる。

 知り合った弁護士のロイエと別れ、準備を整えて数日後、勇者一行は以前立ち寄った港町リリーフへとやってきていた。




「おぉ、来たか。待っておったぞ」


 港町にやってくると、迎えてくれたのはあの爺さんだった。

 名前は確か……うん、忘れた。

 歯の抜けた笑顔しか印象の無い爺さんだ。


「嬢ちゃん達、元気そうじゃなぁ。うんうん。活気が戻った儂らの港にはちょうどいい! がっはっは!」


 随分とご機嫌だな。

 まあ確かに、通夜みたいな港町だったけど見違えるようになったもんだ。

 行き交う商人や旅人。港では船が出入りし、声が響き合っている。

 気のせいだろうが、今日は普段より増して空が澄んでいるような気もする。


 何か良い事起こるんじゃね?

 例えば、僕のファンが港で見送ってくれるとか。船に乗っているとエリカちゃんとモルちゃんが船酔いし、僕の看病で一気に惚れて雑な扱い受けなくて済むとか。

 海にはロマンがあるなぁ。

 なにより、海鮮料理が食べたい!


「ガイゼフさん、久しぶりね」


 僕が妄想に耽っていると、エリカちゃんが代表して爺さんに挨拶する。


 けど、そうか。ガイゼフだガイゼフ。よく憶えてたなぁ。

 よし、名前はどうせ覚えらんねえし、僕の中では爺さんで統一しよう。


「んじゃまあ、こっちに来てもらえるか?」


「え?」


「いいからいいから」


 爺さんは先日よりも生き生きとした表情で僕達を町に迎え入れ、そのまま手招きしてくる。

 不思議がりながらもついていくと、そのまま港へとやって来た。

 だが、そこは普段使っていないようなしけた場所で、客船乗り場からも離れていた。

 あるのは謎の物体だけ。布に包まれた物体が爺さんの背後にあった。


 そして何故か港の連中が数名おり、ニヤニヤしている。

 まさかリンチか? 救っておいてそんなことしてみろ。エリカちゃんに殺されるぞ。


「ねぇ、約束通り乗せてもらえるのよね?」


 さすがに怪しんだようで、エリカちゃんが確認する。


「乗せるとは言ったが、そうはいかんな」


 爺さんは笑って首を横に振った。

 ……は?


「ちょ、ちょっと! 戦争は終わったのよ!? 約束がちが――」


 エリカちゃんが食いつこうとすると、爺さんは憎たらしく人差し指を立てて横に振る。


「話は最後まで聞くもんじゃ。戦争を止めてくれたのは、おぬしらなんじゃろ? ならば、勇者一行を民間人と同じ船に乗せるわけにはいかん!」


「……それで、どうしてくれるのよ」


「おい、ロープを解け!!」


「「へいっっ!!」」


 爺さんが号令をかけるとそこにいた若い野郎共が、物体を包んでいた布を縛るロープを勢いよく引っ張る。

 固定していたロープが解けると布も剥がれてきて、後ろにあった大きな謎の物体の正体が明らかになった。


 ブアサァァァ!


 大きな音を立てて布が剥されると、そこにあったのは船。

 それも客船と同じくらいの大きさの木造の船だ。


「なにこれ、でかくね?」

「船ですよ。見たことないです?」

「いや、船は見たことあるよ」


 身長の何十倍もの大きさで見上げると首が痛くなりそうな船は初めてだけど。


「勇者ともあれば、自由に海を渡れた方がいいと思うてな。専用の船じゃ」


 専用の船……詐欺か?

 都合良すぎね? あんな頑固だった爺さんが、船をタダでくれるなんて……。


「嘘でしょ? これ、わざわざ用意してくれたの?」


「お主らが町を去ったじゃろう? あれが、儂らへの気遣いとわかって、船を用意しておいたんじゃよ」


 気遣い?

 はて、そんなことした記憶がないんだけど。


 思い当たる節がなく、小声でモルちゃんに訊ねてみる。


「モルちゃん、気遣いって何? 連中は何言ってんの?」


「エリカさんがこの町で泊まらなかったのは、意地を張っての事だと思ったです?」


「まあ、そう思ってたけど」


「正確には違うですよ。町で泊まるとなれば、どうしても食事の準備などをさせてしまうです。戦争している王国の町で、彼らの食料が減ることを避けたかったと思うです。それでエリカさんは野宿を提案したですよ」


「そ、そうだったのか……」


 僕はてっきり、いつも通りにエリカちゃんの意地っ張りが原因だとばかり思ってた。


「船、もらってくれるかい?」


「……わかったわ。大切に使わせてもらう。それでいいわよね、勇者」


「あ、うん」


 知らぬ間に知らぬ場所で勝手に話が進み、僕達は船を手に入れた。


 これってすごくね?

 船って言ったら簡単に手に入るものじゃないよな。

 しかもこの大きさ……売ったら莫大な資金になりそうだ。船ビジネス始めちゃう?


「勇者、くれぐれもわかってるわよね」


 考えがお見通しなのか、エリカちゃんが鬼の形相でこちらを見ていた。

 そうだよな。人からもらったものを売るなんて最低だよな、うん。反省しよう。

 それに、ビジネスなんて失敗した試ししかないし。


「勇者様、何してるです?」


「反省のポーズだよ」


「ただ壁に手をついているだけです。エリカさんは既に乗り込もうとしてるですよ。わたくし達も行くです」


「え、もう?! まだ魚介食べてなくね? 港の新鮮な料理は!?」


「そういうのはエリカさんに直談判してほしいですよ」


 それってつまり、無理ってことじゃん。


 けど嘘だろ……これから行くのは確かモルちゃんの話だと、賢者の伝説が残っていて勇者の遺品もあると予想される砂の大陸ヒルデ。ヒルデはほぼ砂漠に埋め尽くされた小さな大陸らしいが、年中気温が高いらしい。

 そして事前の話によるとヒルデ大陸を統治する砂漠王国「カスタード」に行くんだよな?

 陸に向かうってことは……。



 今しか食えないよ!? 魚介!!



 涙ながらに表情で訴えても先を歩くエリカちゃんの歩調は変わらず、背中越しに威圧感が感じられた。

 もうやだ、この発言力の無さ。


 勇者生活やめてぇぇぇぇぇ……。


 こうして僕達は爺さんたち野郎共の潰れた声援に見送られながら港を出航した。

 船の操縦は魔法で可能らしく、モルちゃんに一任し、僕とエリカちゃんは船の甲板から爺さんたちに手を振る。

 ようやく、僕達は新しい大陸へと進むこととなったわけだ。











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