第八章4 『雪女は満足する』
シュネーは魔王から任務を与えられ、その事を姉の雪女に報告するべく、魔王城三階にある護衛衆の部屋が並ぶ廊下へとやってくる。
コンコンコン。
「どなたですの?」
手前から数えて三番目にある雪女の部屋の扉をノックすると、すぐに返事があった。
「シュネーです」
「シュネー……違いないようですね。入ってよろしいですよ」
ガチャリ。
名前を名乗って確認を済ませると、解錠の音がした。
「失礼します、お姉様」
ギィ……。
中に入ると報告書の整理をしている雪女の姿がある。
雪女の部屋は白色の装飾が多い。特に氷のシャンデリアが目立っていて、見慣れた妹のシュネーであっても少しだけ肌寒さを感じてしまいそうだった。
「少しだけ待っていて。いま、作業を中断しますわ」
「わ、わかりました」
雪女は書類に目を通し、何通りかの束に仕分けていく。それを何通りか繰り返し、紙の束をまとめた。
「ふぅ……」
一通り作業を終えたのか、ようやく姉は顔を上げた。
「待たせてしまったわね……それで、魔王様のご用向きは済みましたの?」
「はい、お姉様。……魔王様は、とても重要な命を与えてくださいました」
「重要な命……どのようなものか聞いてよろしいのですか?」
「はい。許可をいただきました。なんでも、勇者と接触し、魔王様と勇者の間に入ってほしいとのことです。魔王様は接触することで、勇者を利用すると仰っていました」
「勇者を利用……ふふっ、あの方らしいですわね」
雪女は何故か嬉しそうにクスクスと笑う。
その姿を見て、シュネーは一つの疑問を姉にぶつけてみることにした。
「あ、あの、お姉様。魔王様は少し、変わられたのでしょうか?」
「あら。どうしてそう思うの?」
「そ、その、以前と違って、どこか雰囲気が優しくなられた気がして……し、失礼ですよね、そんなことを考えるなんて」
シュネーの言葉に、雪女はまた嬉しそうに笑う。
「な、何かおかしかったでしょうか?」
「いえ、当然の感覚ですわよ。……シュネーは、今の魔界をどう思っていますの?」
「え……どうと言われましても」
「あたしにとっては以前の魔王様の治めていたような魔界よりも、今の魔王様の目指している魔界の方が理想的ですの。……また、あの空に想いを馳せることができそうですもの」
「あの空?」
「シュネー、心して任務に励みなさい。あなたの存在がやがて、魔界中に意味を持つことになりますのよ」
「……! わ、わかりましたわ!」
シュネーはその言葉の真意がよくわからなかったが、姉が珍しく心の底から嬉しそうにしている姿を見て、こちらも嬉しくなった。